嫉妬と殺意
「復讐を終えた感想はどうだ?」
シルバーが言った。
「最高よ!」
マーキュリーは黒い着物で濃い化粧顔になっていた。
「俺が見込んだだけあるな。」
「ねぇ、あんたはどうして魔術師になったの?」
マーキュリーがシルバーに聞いた。
「…貴族の女に弄ばれた。昔の話だ。」
「それで?」
「我らが親分が俺の前に現れて俺に力を授けてくれた。そして俺は女を喰ってやった。」
「喰う?」
「あいつが言った『賤しい男』に体を犯されている姿を見たくてな。泣きながら止めてくれ、貴族の婿をもうすぐ迎えなきゃいけないからと叫んでいた。魂ごと犯しまくってついでに女の従者どもも犯してやった。それが俺にさらに力を与えた。」
「あんたの力は逢瀬を重ねることなの?」
「そんなかわいいもんじゃねえ。無理やり体を犯して精を奪うことが俺を強くする。」
マーキュリーはシルバーをいとおしそうに見つめていた。
勇太はその様子をずっと見ていた。
『やっぱりマーキュリーはシルバーのことを…』
「あんたのためなら私も…」
マーキュリーの声だけがその場に響いていた。
勇太の前からシルバーとマーキュリーの姿が消えて、水銀蟲がボロボロと崩れていく光景に変わった。
崩れた水銀蟲の間からあきの姿が見えた。
「あき…」
勇太は我に返った。
「中島君!」
あきは勇太の無事を確認できてホッとした顔をした。
「勇太!」
水銀蟲がほとんど崩れて、海斗と貴司と樹理奈もあきの横に立っているのが見えた。
「みんな…」
みなが助けに来てくれて勇太はうれしかったが、
「大丈夫か?…大丈夫そうだな。悪いな…野上には来るなと言ったんだけど、勇太がいないのに気づいて行くって聞かなくて。」
勇太に駆け寄ってきた海斗が言った。
「野上…あき…よくもシルバーを…!」
マーキュリーは血走った目をあきに向けた。
「狙いは私でしょ?最初から私を襲えば良いのに。」
あきも構えた。
マーキュリーはまた水銀蟲をあきに向けて飛ばした。
しかし、あきは動じることはなく、水銀蟲はボロボロと崩れ落ちた。
「金属属性の力を使ったのか…」
貴司は呟いた。
「殺してやる!」
マーキュリーは叫んだ。
『シルバーの敵討ちじゃない…あきへの嫉妬だ。』
マーキュリーの様子を見て勇太は思った。
今までもシルバーが女を犯して精を奪ってきているのをマーキュリーは見てたに違いなかった。
『その嫉妬心がマーキュリーを強くしている…』
勇太はマーキュリーが少し憐れに感じた。
自分にも興味を持って欲しい、例え精を奪われ命を落としたとしてもーマーキュリーはずっとシルバーを見つめながらそう思っていたのだろうか…勇太は複雑な気持ちだった。