マーキュリーの襲来
勇太はいつも通り、放課後研究室で勉強して、合間に大学近くのコンビニにお菓子を買いに行った。
『もうすぐ、模試だな…たぶんあきは上位だろうな…俺も少しでも近づかなきゃ…』
そんなことを考えながら研究室に戻ろうとした時、勇太は突然空気がひんやりと冷たくなったように感じた。
『これは…まさか…』
勇太は大学通りを外れて人気のない路地に入っていった。
『ここなら誰もいない_』
勇太は周りに人払いの術をかけた。そして大きく深呼吸をし、振り向いた。
「マーキュリー、いるんだろ?」
「ふーん、やっぱりバレてたのね。」
マーキュリーが勇太の前に現れた。
「野上あき…シルバーを奪った女…アイツを苦しめてやる…」
マーキュリーの表情は怒りに満ちていた。
「シルバーを殺したのはあきじゃない!あきにはそんなことはできない!」
勇太が言った。
「うるさい!」
マーキュリーの後ろから大きな水銀蟲
が勇太めがけて飛び出した。
勇太はすかさず盾の魔法陣でガードした。
ドーンと水銀蟲が盾にぶつかった時、勇太の目の前にシルバーが現れた。
「えっ…?!」
勇太は驚いて固まってしまったがシルバーの姿が見えたのは一瞬だった。
「まずはお前から殺す!」
マーキュリーが叫ぶと水銀蟲が盾とぶつかった時に崩した体勢を直し、再び勇太を襲った。
『水銀が弱いもの…硫酸!』
ギリギリまで水銀蟲を自分に引き付けてから魔法陣の盾で水銀蟲をガードした。
水銀蟲は盾にぶつけた部分からじわじわと溶け出した。
「ちっ!」
マーキュリーが悔しそうに舌打ちした。
しかし、勇太にはまた一瞬だけだがシルバーの姿が見えた。
『攻撃を受けるとシルバーが見える…幻覚…?』
「私にとってもシルバーは…全てだった…」
そう呟いたマーキュリーの周りには何体もの水銀蟲がいつの間にか現れていた。
そして、水銀蟲たちは勇太を取り囲んだ。
「しまった…」
勇太はシルバーに気をとられていたので隙ができていたのだ。
水銀蟲が徐々に勇太に近づいて逃げ道をなくした。
「どうしよう…」
勇太はどう守るか、攻撃をして突破口を開くか必死で考えていた。
「ん?」
勇太の視界には近づいてくる水銀蟲ではなく、ぼんやりとシルバーの姿が現れていた。
『まただ…こんな時に…』
シルバーの姿はだんだんはっきりと見えるようになった。
シルバーはジャケット姿ではなく、着物をはだけさせた格好になった。
「よう、大丈夫か?」
シルバーは勇太の方を見て言った。
「えっ?」
勇太はシルバーが助けに来たのかと思い驚いたが、
「助けを呼んだ覚えはない…」
勇太の背後から女の声がした。
勇太が振り向くとボロボロの汚ならしい着物を着た女が着物の土を払いながら立ち上がっていた。
「そう言うなよ。お前みたいな良い女を男どもに傷物にされるのもな。」
「なっ…」
女は顔を赤らめた。
「俺と一緒に来いよ。お前は良い闇を持っている。お前の親を貶めた奴に復讐してやりたいとは思わないか。」
シルバーは女に手を差し出した。
「畜生…お前、盗人女の仲間か…」
シルバーの背後から男が頭を押さえながら起き上がった。
「おっ、気がついたか。」
シルバーは男の方に振り返った。
「その女はうちの店の売上を盗んだ奴だぞ!奉行所に突き出してやる!」
男が叫んだ。
「それは困るな。」
シルバーがそう言った時、男はバタっと倒れた。
男の背中には何本もの刀が刺さっていた。
「あんた…一体…」
女は唖然と倒れた男を眺めていた。
「俺は魔術師だ。憎しみの力で強くなれる。お前もだ。」
シルバーは再び女に手を差し出した。
女はシルバーはじっと見て、シルバーの手を握った。
『この女の人…まさか…マーキュリー?化粧してないから気づかなかった…ってことはこれはマーキュリーの記憶…?』
勇太は今、マーキュリーの記憶の中にいるのだと思った。