夜這い
「ふぅ…」
夜、風呂上がりの勇太は2階の自分の部屋へ階段を上っていた。
『後は、衛生やって今日は寝よう…』
勇太はそう考えながら部屋のドアを開けた。
ベッドには筋トレをしているペリドットではなく、
「あき…?」
勇太は驚いてドアを開けたまま立ち尽くしていた。
ベッドにちょこんとあきが座っていたのだった。
「あのね…さっきの…ちゃんと聞いてた…うれしかった…」
あきは恥ずかしそうにもじもじしながら言った。
「解放されたんだね。」
勇太は部屋のドアを閉めた。
「…勝手に出てきたの。ガーネットは知ってるけど。」
「えっ?!」
「私もずっと…ずっと中島君に会いたくて仕方なかったの…だから…」
あきは涙目になった。
偽者を通して勇太からのメッセージを聞いたあきは1人で泣いていた。
「中島君…」
20畳ほどの無駄に広く小さなテーブルと椅子が1つ置かれた何もない部屋には見張りの式神とあきだけがいた。
あきのすすり泣く声が部屋に木霊していた。
「じゃあ王子様に会いに行きなさい。」
式神が言った。
あきは驚いて式神を見た。
式神の姿がガーネットに変わった。
「ガーネット?!いつから?!どうやってここに?」
「2時間くらい前からかしら?この程度の空間なら簡単に侵入できるわよ。」
ガーネットはあきに近づいた。
「どうして王子様の気持ちに素直に応えようとしないの?あの子は必死になってあなたを助けたのよ?あなただって王子様のこと、好きな気持ちは変わらないんじゃないの?」
「中島君のこと考えると思い出すの…あの夜、中島君を刺したこと…刺す手を止められなかった…内臓を傷つけないようにすることしかできなかった…それでも中島君は助けに来てくれた…でも私…」
ガーネットはため息をついた。
「シルバーの思う壺ね。本当にゲスだわ。殺して正解だった。それでもあなたの側にいたいって言ってくれるなんて良い男じゃない。あなたが一歩踏み出さなきゃ王子様の気持ちを踏みにじることになるんじゃない?」
あきは黙っていた。
「ホント、ダイヤもバカね!こんなとこ、さっさと出るわよ!気持ちが沈む一方じゃない!負の感情に飲み込まれるわ!」
ガーネットはあきの腕を引っ張った。
「でもそんなことしたら…」
「本当は出ようと思えば出れるよね?ダイヤもあなたの力をあまく見すぎてるわ。あき、素直になりなさい。今の本当の気持ちは?」
ガーネットはあきをまっすぐ見た。
「中島君に…会いたい…一緒にいたい…!」
「よろしい。」
ガーネットはニッコリ笑った。
「中島君、ごめんなさい…本当は一緒にいたかった。でも、中島君にあんなことして…でも助けに来てくれてすごくうれしかった…私…やっぱり中島君の側にいたい…私から距離を置いて欲しいって言っておいて…でも私…」
勇太はあきを抱きしめた。
「もういいから。これからは1人で苦しまないで。もう充分1人で頑張ってきたんだから。俺こそ気づいてあげなくてゴメン。俺はあきが側にいてくれるだけでいいんだ。」
あきは勇太の胸の中で涙を流していた。
「今日は一緒にいていい?」
「良いよ。でも、ペリドットは…」
「さっき、私を見て『魔術界に行ってくる』って。」
「ペリドットも知ってるのか…家にいなくて大丈夫?」
「偽者が代わりにいるの。」
「用意良いな。」
「えへへ。」
勇太とあきは顔を見合わせて笑っていた。
その夜は2人で勇太のベッドで眠った。
「やられた。ガーネットの差し金か。」
あきのいなくなった空間にダイヤとフラーレンが立っていた。
「君はあの子の正体に気づいていたのか?」
ダイヤが聞いた。
「何となくですね。」
「そうか。」
「遅すぎるぞ。」
ダイヤたちの後ろに晴明が立っていた。
「清太たちに表を任せすぎたからだ。お前は本当に馬鹿だの。」
「しかし、父は…」
晴明に反論しようとしたしたフラーレンをダイヤが止めた。
「その通りだ。あの子をもうしばらくここに留めたかったが、あの子に釣られて現れるかもしれないな。」
ダイヤが言った。
「警戒しておきましょう。メタモルフォシス、中島勇太にもですね。」
フラーレンが言った。