平凡太
朝、目が覚めたとき海斗が朝ご飯を作ってくれていた。
朝ご飯を食べた後、勇太は海斗の部屋を出た。
エレベーターを待って、上の階から降りてきたエレベーターに乗ると樹理奈が乗っていた。
「えっ、原田さん?!このマンションに住んでたの?」
「うん。松下君から聞いてなかった?」
海斗と樹理奈が一緒のマンションだったなんて海斗から1度も聞いたことがなかった。同じ5階建てマンションの海斗は4階、樹理奈は5階に下宿しているのだ。
「松下君もちょっと前にやっと気づいたみたいだから仕方ないかもね。」
1階に着いて樹理奈が先に降りていった。
勇太は自宅に戻って自分の部屋に行きベッドにバタッと倒れこんだ。
海斗と貴司は自分とは違う…昨日の飲み会ではっきりと感じてしまった。
2人はただ向こうの言いなりのままに修行をしていなかった。向こうの情報を少しでも得ようと師匠たちとコミュニケーションをとっていた。大学卒業後についてもそうだ、海斗はメーカーの研究職に、貴司は大学院に進むと言っていた。勇太は…実はまだ決めていないのだ。成績だけじゃなくて他の部分でも2人に差をつけられていたのに昨日やっと気づいたのだ。
『俺は…どうしていったらいいんだろうな。何にも考えてないし、行動も起こそうとしていない。それじゃあダメだよな…』
ため息をついて眠ろうとしたが母親にお昼ご飯の用意ができたと言われ、ご飯を食べに下に降りた。
食事中に父親に話してみようと思ったが、
「研究はどうだ?」
とだけ聞かれそのまま無言の状態でもくもくとご飯を食べていたので諦めてしまった。
大手機械メーカーの重役で大学も一流大学卒業の父親に、難関国公立大学医学部を卒業し、現在実家を出て大学病院で研修医をしている兄、この2人に勇太はコンプレックスを抱いていた。おまけに、玲夢からは何故かあからさまな嫌悪感を持たれていて、陰で『海斗の引き立て役』だの『特徴のない腰巾着』だの『平凡太』と呼ばれている。
『本当に“平凡太”だよな、俺。』
食後、部屋に戻って椅子に座りため息をついた。
『自分から変わらなきゃ。でも何をすれば…』
魔術のこと、研究のこと、進路のことが頭の中でごちゃごちゃになっいる。しばらく考えて、
『就職のことは実務実習でも考えられるよな。研究のことは明日教授に実験ノート見てもらいたかったし、今後の計画とか話しに行こう。魔術修行は…明日、ペリドットと何を話そう…明日までに何か考えなきゃ…』
そう自分に言い聞かせた。