想い
1週間経って、9月に入った。
夏休みも後半月で終わる頃、樹理奈が研究室に顔を出すようになった。
「ロード、大分良くなったわ。」
樹理奈は時々、魔術界へ行きロードクロサイトに会いに行っていた。
ロードクロサイトはシルバーに捕まり、犯されて洗脳されていた後遺症で精神的にかなり落ち込んで心を閉ざしていた。
特に助けてくれたクォーツ以外の男にかなりの恐怖心を抱くようになっていたので、アメジストとリシアが付きっきりで面倒を見ていた。
お陰でロードクロサイトは徐々に心を開いていった。
あきはまだ魔術界から戻ってきていなかった。
「ゴメン…私もあきちゃんに会ってないの…アメジストに聞いたけど『ダイヤが教えてくれない』って。」
「良いよ…ありがとう。」
タイミングを見て樹理奈が1人で廊下を出た時に勇太は聞きに行った。
研究室に出入りしている教授も助手も一目見て偽者だと分かったので、勇太は樹理奈が研究室に来るのをずっと待っていた。
『アメジストも知らないとなると、クォーツも…晴明は呼んでも応じてくれないし…』
鉱山潜入後、晴明は勇太の前に姿を現さなかった。それどころか勇太が呼んでも応答すらなかった。
「私、あきちゃんが羨ましいよ。」
樹理奈が言った。
「こんなに想ってくれる人がいるんだもん。」
そういえば、貴司は樹理奈に告白すると言ってたが、結局できていないようだった。
『大林君…今回のことがなければ告白できてたのに…』
勇太は少し申し訳ない気持ちになっていた。
勇太は勉強に身が入らないので昼すぎに大学を出た。
大学から駅に向かっている帰り道、勇太の足がふと止まった。
あきがこちらに歩いてきた。
勇太は一瞬ドキッとしたが、
『違う…あれは…』
あきの偽者だと分かった。
偽者は勇太をチラッと見て通り過ぎようとした。
「待って!」
勇太は慌てて引き留めた。
偽者が振り返った。
「あなたとは距離を置いているのでは?」
偽者が冷たく言いはなった。
「そうだけど…何で大学に?あきは元気?」
「研究室に顔を出そうと。本物はちゃんと生きていますが、それだけですか?」
「そっ、そうなんだ…君はあき…本物のあきと繋がってるよね?!あきは君の見てるものを見ることができるよね?!」
「はい。」
勇太は深呼吸した。
目の前にいるのは本物のあきではないーけれど、あきに伝えたいー
「あき、俺は待ってるから。けど、日に日に会いたい気持ちが大きくなってどうしようもないんだ…あきを連れ出したい…できるなら…俺にできることがあるなら何でもしたい…頭の中が整理できないぐらいぐちゃぐちゃで辛いんだ。でも、あきの方が辛いよな。俺、あきのことずっと待ってる。だから…あき…戻ってきて欲しい…俺のところに…」
勇太は偽者をまっすぐ見つめた。
偽者は勇太に背を向けて大学に向かって歩きだした。