勇太の夢、晴明の記憶
「久しぶりだな。まさか、自らここに来るとは。」
男はダイヤに言った。
「お前の完全復活はできなくなったようだな。」
ダイヤが言った。
「俺の下僕たちを殺したのはお前の差し金か…しかも、コッパーがすり変わっていたとは。やられたな。しかし、まだお前が残っている…」
男はニヤリとした。
「残念だが、『殺せ』とは命令してないんだがな。」
ダイヤが言った。
「わしがおる限り、そなたは大也に手出しはできぬ。諦めるがいい。」
晴明が口を開いた。
「これはこれは、安倍晴明様。復活おめでとうございます。しかし、俺にはまだ切り札がある。」
男はニヤニヤしていた。
「切り札だと?!」
ダイヤが男に聞いた。
「まぁ、楽しみにしておくのだな。」
そう言って男は姿を消した。
「待て!モンド!」
ダイヤが叫んだ。
「大也、引き上げるか。あやつ、力は完全ではないが確かに何か隠しておる。」
晴明が言った。
勇太は目が覚めた。
『今のは…夢…?』
やけに鮮明に頭に焼きついている夢だった。
『あれは、『常闇の空間』…やっぱり、晴明と金剛先生もいたんだ…だとしたら、ただの夢ではないんじゃ…晴明が見たもの…晴明の記憶…?今までそんなことなかったのに…』
勇太と晴明にはつながりがあるとはいえ、今までは勇太の感情や見たものを晴明と共有していたことはよくあったが、晴明の記憶を勇太と共有したことはなかった。
考えながら1階のリビングに行き、母親の用意した朝ご飯を食べ、大学に行く支度をした。
最寄り駅に行く前に『いっちゃん』の前を通った。
「おっ、勇一弟!」
店から『いっちゃん』の店主の息子で店員の真が出てきた。
「おはようございます。」
「おはよう。会えて良かった!実は今度、常連さんだけに新メニューの試食会するんだけど、来ないか?」
「良いんですか?!」
「もちろん。親父もお前に声かけろって言ってたし。彼女と来いよ。日時は…」
その日までにあきとよりを戻しているだろうか、勇太はふとそう思った。
しかし、店員の口から『彼女』という言葉が出てきたのはあきの存在が人間界で復活した証拠だったので、勇太は少し安心していた。
「じゃあな!待ってるから!」
店員と別れて電車に乗り、大学に向かった。
大学の最寄りの駅では人だかりができていた。
「放火?」
「突然爆発したって。」
「そういえば、ここ、バーだったんだ。」
『Bar metal』の前だった。
野次馬たちの会話を横で聞きながら勇太は大学に向かった。
研究室にはすでに貴司とモリオンがいた。
勇太は自分の席で勉強を始めた。
偽者が勉強してくれていた内容が頭に入っていたお陰で勉強がはかどった。
海斗も研究室に来て勉強を始めた。
ここまでは偽者が昨日まで送っていた生活と同じだった。