勇太の脱出
海斗とアクアマリンもモリオンたちのいるファーストフード店に入ってきた。
「ロードは魔術界に帰したわ。駅の側で隠れてたオパールとターコイズに頼んだの。」
アクアマリンが言った。
「後、2人か。」
モリオンか言った。
「勇太はまだなのか?」
海斗が言った。
「居場所不明だ。」
クォーツが腕組みしながらモニターを睨んでいた。
「ねぇ、誰かが倒れているのを見たんだけど。クォーツの仕業じゃないの?」
アクアマリンが言った。
「誰かって?」
アメジストが聞いた。
「金属中毒の誰か。チラッと見えたんだけど血を流して倒れてた。フリントストーンに急ぐように言われてたからちゃんと確認できなくて。」
アメジストがモリオンを見た。
「やっぱり、ガーネットが…?」
「恐らくな。」
「ガーネット?!どういうこと?!」
アクアマリンがモリオンに詰め寄った。
モリオンがアクアマリンと海斗と貴司に今までの経緯を話した。
「ガーネットが鉱山に潜入してたって…誰か知ってたわけ?」
アクアマリンがクォーツを見て言った。
「残念だが俺も初耳だった。アメジストから聞いて半信半疑だった。」
クォーツが言った。
「ガーネットのヤツ…金属中毒を本気で掃討しているんだな…それはガーネットの単独行動なのか…あるいは…」
「ダイヤの密命かって言いたいんでしょ?」
アメジストがモリオンに言った。
「ただ、お前たちが知らないとなると何故ダイヤがガーネットにさせたのかが謎だ。」
モリオンは腕を組んだ。
「誰だ…」
勇太とあきがいる暗闇の中からどこからか声が聞こえた。
「この声、まさか…」
勇太とあきは顔を見合わせた。
「外が騒々しい…お前たちの仕業か…」
勇太はあきの手を握った。さっき聞いた声ーダイヤから魔術を奪った男の声だった。
『とにかく、ここから出なくちゃ…でもどうすれば…』
勇太は焦っていた。
『主よ。女を連れてまっすぐ走るのだ。出口を作る。』
突然、頭の中で晴明の声が響いた。
『晴明!何で今ごろ…』
シルバーと戦っているときにも助けてほしかったと思いながらも勇太はあきの手を握ったまま走り出した。
「中島君…」
「とにかく走って!晴明が出口を作るって…」
勇太は無我夢中で走った。
目の前に小さな光が見え始め、勇太はホッとしながらもあきの手を握りしめて走った。
「…逃がすか。」
背後から男の声が聞こえた。
「主、行け。」
晴明の声がはっきりと背後から聞こえた。
勇太は驚いて振り向こうとしたが、目の前の光が大きくなっているのに気づき、そのまま走った。
光の中を突っ走るとゴツゴツした岩の壁が目の前にあった。
「はぁ、はぁ…出れた…」
肩で息をしながら勇太が言った。
振り向くと勇太たちが出てきた光の出口は消えていた。
「中島君…晴明がいた…金剛先生も…」
あきが自分たちが出てきた出口があった場所を指差して言った。
「何で2人ともあそこに入れたんだ…何か焦げ臭い…?」
勇太が周りを見回すと奥から煙が出ているのに気づいた。
「煙?!」
「勇太ー!無事か?!」
無線機から海斗の声が聞こえた。
「海斗!大丈夫!あきも一緒だから!」
「良かった…」
樹理奈の安堵の声も聞こえた。
「あきを連れてすぐに脱出しろ。みんなもう脱出した。今すぐだ!」
クォーツの声が聞こえた。
「分かった。ローブなくしてしまったけど…」
「なくてもいい!とにかく急げ!」
クォーツの声は焦っていた。
勇太には状況が読めなかった。
「分かった…」
無線機からクォーツの声が途切れた。
「何をしてる。ここは危険だ。早く出ろ。ありったけの体力を振り絞って走れ。」
突然、背後から女の声がし、振り向くと錆が立っていた。
勇太は驚いて構えようとした。
「早く出ろ。まもなく爆破する。」
勇太は奥からの煙の量が増えているのに気づいた。
「あき、行こう…」
勇太があきの腕を引っ張ったがあきは錆をじっと見たまま動かなかった。
「ガーネット…?ガーネットよね?何故ガーネットはここにいるの?あなたは何故…」
「まもなく爆破する。巻き込まれる前に脱出しろ。」
錆は煙が立ちこめる奥へと入っていった。
「待って!ガーネット!」
あきは錆を追いかけようとしたが、勇太が腕を掴んで止めた。
「あき、ダメだ!」
「でも…」
勇太はとにかく早く脱出しなければいけないのは分かっていたが、先ほど全速力で走ったせいで今すぐ走るのはキツかった。
『こんなことならもっと体力つけておけば良かった…体力?』
勇太はポケットに手を突っ込んでカプセルを3つ取り出した。
『『超スタミナニンニク』を濃縮したカプセルです。ペリドット様はこちらに戻られてからずっとこれを作っておられました。魔力回復は魔ザクロに劣りますが、体力を回復する力は魔ザクロ以上だとおっしゃられていました。』
オリーブの言葉を思い出し、勇太はカプセルを3つ口に入れて飲み込んだ。
体の中がじわじわと熱くなった。
力がみなぎってくるのを感じ、勇太は軽々あきを抱き上げて走り出した。
あきを抱いていても体がとても軽く、風になったように感じた。
壁が避けているように見え、ものすごいスピードで走っているのが分かった。
あきは勇太にしがみついていた。
「アイツ、車にでも乗っているのか…」
モニターで勇太の動向を見ているモリオンが言った。
「確かに、おかしいな…速度が。」
クォーツも言った。
「でも早く脱出できるならいいんじゃない?」
アメジストが呑気にポテトを食べながら言った。