撤退命令
勇太とあきは真っ逆さまに真っ暗な穴に落ちていった。
しかし、穴の底に到達する気配はなく勇太にはどんどん真っ暗闇の中に吸い込まれていくように感じていた。
『このままじゃダメだ…』
勇太はあきの腕を掴んであきの体を引き寄せた。
「さっき、シルバーがここは闇が濃いって言ってた…術が上手く使えない…」
あきが言った。
勇太はあきを抱きしめた。
『何とかしなくちゃ…とりあえず、落ちていくのを止めなければ…』
勇太は穴の側面に杭のようなものを打ちこんで、それにしがみついてとりあえず落下を止めようと考えた。
「まずは穴がどのくらいの大きさか分からなきゃ…」
そう呟いた勇太は穴の側面を光で照らすことを思いついた。
『光を…あきにはなくて俺にある力なんだ…!』
勇太はありったけの魔力を手に集中させた。
勇太の魔力は球状に眩い光を放った。
「うわっ!眩しい…やり過ぎた…」
しかし、勇太が放った光はどんどん大きくなり、2人を飲み込んだ。
「クォーツ!あれ、1人?」
勇太を追っているクォーツはアメジストと樹理奈に出くわした。
「そうだけど…お前たちはコッパーと交戦中だったんじゃ…?」
「んー…事情が変わっちゃって…後でゆっくり説明するから今は撤退だって。あんたにも聞きたいことあるし。」
アメジストが言った。
「待て。勇太がまだいるんだ!俺が撤退するわけには…」
「いいから!問題ないって!」
アメジストがクォーツの腕を引っ張った。
「大林君も松下君たちと合流できたって。」
樹理奈も言った。
「…やけに静かになったな。」
クォーツが辺りを見回して言った。
「それも説明するから。兄貴、さっさと歩く!」
アメジストがクォーツに言った。
「モリオンから。急いで撤退だって。」
貴司も海斗とアクアマリンとシルバーの部屋で合流できた。
「私はロード連れて出るつもりだったけど、他のみんなは無事なの?」
アクアマリンが貴司に聞いた。
「僕も詳しくは知らないんだ。でも、モリオンから撤退命令が出てるんだ。見張りの錆が減ってきてるから、タイミング的にも今なのかも。」
「野上はどうなった?勇太もクォーツと合流できたのか?」
海斗が聞いた。
「ゴメン…それも話してくれなかったんだ。モリオン、慌てている様子だったし。」
「とにかく、撤退命令が出たからにはここを出るわよ。ロード、立てる?」
アクアマリンがロードクロサイトの体を支えながら言った。
ロードクロサイトは小さく頷いた。




