最悪の事態
その頃、勇太とクォーツはあきのいる奥の部屋に向かっていた。
「この角を曲がって…あの部屋だ。ご丁寧に『silver』と書かれているな。」
勇太たちは錆の格好のまま部屋に入った。
「あき!」
勇太はローブを脱ぎ捨て、ベッドに駆け寄った。
ベッドの周りには細かい金属片が落ちていた。
あきはベッドで眠ったままだった。
「あき!大丈夫?!あき!」
勇太はあきを抱き起こしたが、あきは目を開けなかった。
「おい!声を落とせ!錆がいるとモリオンが…」
クォーツがそう言いかけたが、部屋には眠っているあきだけだった。
クォーツは落ちている金属片を拾った。
「アメジストがやったのか…?イヤ、違う…」
クォーツはあきを見た。
「クォーツ、目を覚まさないんだ。」
「シルバーの呪いは解けているそうだ。お前はあきをおぶってローブを被って逃げろ。撤退するぞ。」
クォーツがそう言ったとき、ドアが開いた。
「おいおい、マジで攻めてこられてるじゃんよ!」
アイロンと七三分けの男が入ってきた。
「シルバーの言ってたことが妄想ではなかったということだ。よりによってクォーツがいるとは。」
「…アイロンとコバルトだ。」
クォーツが勇太に言った。
2対2なら少しは勝算はある…勇太がそう思った時だった。
クォーツが勇太に目配せした。
『クォーツ…でも…』
勇太は少し困惑していた。
「お前、俺との約束忘れるな。」
クォーツがボソッと勇太に言った。
勇太は頷いた。
「行け!」
クォーツが叫び、勇太はあきをおぶってローブを被った。
「逃がさない。女王は返してもらう。」
コバルトがそう言った時、クォーツがアイロンとコバルトに攻撃した。
2人はよけたが、その隙に勇太は開けっ放しにされていたドアに向かって走った。
「逃がすか!」
アイロンが攻撃を仕掛けようと構えた瞬間、アイロンの足下から金属の柱が勢いよく飛び出し、アイロンを足止めした。
驚いたアイロンはクォーツの方に振り返った。
クォーツの手には闇魔力核があった。
「なぜお前がそれを?!どいつのだ?!」
アイロンがクォーツに言った。
「…逃げられたか。」
コバルトが言った。
勇太はとっくに部屋の外に出てしまっていた。
「まぁ、良い。クォーツを仕止めれば大手柄だ。」
アイロンはニヤリと笑った。
「…すず、使わせてもらうぞ。」
クォーツは1人静かに呟いた。
勇太はあきをおぶったまま走っていた。
「モリオン!あきを奪還した!クォーツがアイロンとコバルトと戦って足止めしてくれてる!」
勇太は無線機に向かって叫んだ。
「よくやったな。だが、あちこちでこちらの潜入がバレ始めている。アメジストたちはコッパーと交戦中だ。お前はとにかくブルーサンドストーンを連れて脱出しろ。」
モリオンが言った。
「海斗と大林君は?」
「2人とも無事だ。人のことより自分のことを心配しろ。」
「分かった!」
勇太はとにかく走った。
「おーい。どこ行くんだ?」
聞き覚えのある声を聞いて勇太は足を止めた。
「まさか俺の女を連れていくんじゃないだろうな。」
勇太の体は凍りついた。
「おいおい…最悪だな。」
モニター越しでモリオンが呟いた。
「せっかくここまで来たのに…」
リシアも言った。
勇太は意を決して振り向いた。
シルバーが腕を組んで立っていた。