成れの果て
海斗はニッケルに向かってROOKを放ったが、当たった部分に穴が開いただけだった。
穴はみるみるふさがった。
「無駄だ。俺の闇魔力核は金属核の中だ。つまり、ROOKは効かん。」
「これなら…」
海斗は魔法陣から液体を出してニッケルにかけた。
「酸か。ほとんど効いていないがな。我が金属は耐食性が強い。」
ニッケルは海斗を嘲笑った。
「王の器になってもらう。お前にはその資格があるのだ。このまま親友に女を取られた惨めな男のままで良いのか?」
ニッケルはさらにゆっくり海斗に近づいてきた。
「惨めか…勇太だから悔しかった、でも勇太だから素直に応援しようと思った。お前にはその気持ちは分からない。」
海斗が言った。
「負け犬の遠吠えか。まずはお前の精神を改造し、闇を植えつけてやろう。」
ニッケルは海斗に大きな手を伸ばした。
しかし、突然ニッケルの腕が斬られ、ドスンという音と共に落ちた。
「ぐっ…誰だ?!」
ニッケルが叫んだ。
「危なかったわね。ゴメン遅くなって。」
海斗の後ろにはアクアマリンが立っていた。
「アクア…」
「式神に仕事のこと教えてたのよ。今日は代わりに大事な仕事してもらわなきゃならないし。モリオンにはそんな必要なかったって怒られたけど。」
アクアマリンがニッケルに向けて手を出した。
円盤状の水の塊が回転しながら勢いよくニッケルに向かい、ニッケルの残りの腕を切り落とした。
「腕の再生は不可能よ。だって強酸でできたカッターだから。」
アクアマリンが言った。
両腕を失ったニッケルはバランスを崩してもがいていた。
「あんな姿になって。もう人には戻れない。」
アクアマリンが少し悲しそうに言った。
「人にこだわっては進化はできない。それに気づかなかったのがオニキスだ。易々と殺せた!」
ニッケルが言った。
「だからあんたはオニキスには勝てないの。だってオニキスの意志はモリオンに受け継がれている。『己をなくす研究には手を出すな』。オニキスが言っていた意味が今のあんたを見ているとよく分かる。」
アクアマリンが海斗の方に振り返った。
「ニッケルは元々私の同期で一緒に修行してたのよね。師匠はオニキス。アイツは闇に堕ちて師匠を手にかけた。」
「それがどうした?俺はオニキスを超えたのだ!」
「超えてないわよ。バカね。」
ニッケルは突然悶え出した。
「ぐぅ…体が…何故だ?!」
ニッケルの体の表面から汗が吹き出したように溶け出した。
「海斗の酸が効いてきたのね。」
アクアマリンが構えたが、ニッケルから黒い煙が吹き出し、煙が消えた頃にはニッケルの姿はなかった。
「逃げられたわね。捕まえるのは簡単じゃないと思ってたけど。」
アクアマリンが言った。
「アクア、ありがとう。」
海斗が言った。
「アクア、髪伸びたか?昨日と全然雰囲気が…化粧もしてる…」
アクアマリンはしまったと顔を赤らめた。
アクアマリンはいつもショートカットでノーメイクでボーイッシュだが、今日はロングヘアーでナチュラルメイクでいつもと雰囲気が大きく違っていた。
「あー!もう!」
アクアマリンがどこからかショートヘアーのウィッグを出してはかぶり、メイクもいつの間にか消えていた。
「これでいつも通り?!」
アクアマリンが海斗に聞いた。まだ顔が赤かった。
「いつも通りだけど、なんでそんな格好してるんだ?」
海斗は笑いながら言った。
「もー!後で説明するから!それより、マーキュリーたちがこっち向かってきてるんでしょ?移動しましょ。」
「アクア、モリオンに連絡できるか?敵の目的が分かったんだ!」
「はぁ…はぁ…ちくしょう…体を還元しなければ…」
ニッケルは奥に逃げていた。
「ニッケルか。」
コッパーが近づいてきた。
「コッパー、魔術界のヤツらが潜入してる。錆に化けてるぞ。ヤツら、女王を奪還しにきた。」
「そうか。ご苦労だったな。」
コッパーがニッケルに背を向けて歩き出した。
ニッケルの体がボコボコと膨らんでいった。
「コッパー…何故だ?!俺はまだ…」
ニッケルの体は爆発した。
「魔術界が攻めてきた…か。やっとか。」
コッパーはそう呟いてその場を立ち去った。