モリオンの秘策
「かわいそうに。秘めた想いを伝える前に親友に取られてしまって。」
ニッケルが海斗の胸に手を当てて海斗の記憶や感情を探りながら言った。
海斗は魔法陣の上に立ったまま、催眠術がかかったように半分目が開いた状態で動けなかった。
「悔しかっただろ?」
『正直、悔しかった…野上は俺ではなく勇太を選んだ…野上が感情を取り戻してから勇太と一緒に帰っているのを見たときは…』
「まさかと思ったか。お前の方が先にアプローチしていたにも関わらず。今からでも取り戻せるぞ。女王はお前のものになる。」
『野上が…』
「そうだ。心も体も。お前が王の器になるのだ。」
『王の器?』
「我らが王は力のある肉体を欲している。お前が王の器になり、女王との子を生ませる。そしてその子に王は転生し、我らが王は完全に復活するのだ。その後は女王はただの人形同然だ。お前の好きにすれば良い。ただ、お前は魔術界から金の力を奪ってきてもらいたいが、それは王が復活されてからでも良い。」
『何故、女王は野上なんだ…?』
「教えてやろうか?コッパーからの極秘情報で女王になりうる女はプラチニウムとフラーレンの2人だと分かった。フラーレンはダイヤが守っているが、王がプラチニウムに目をつけていたお陰で闇魔力核を入れるのに成功した。王の復活にはアイツの血が必要なのだ。さぁ、我らとともに歩もうではないか!」
ニッケルは海斗から手を離し、魔法陣を解いた。
海斗は目を開けた。
ニッケルは海斗に手を差し出した。
海斗も手を差し出そうとした。
「ROOK!」
海斗は至近距離からニッケルに攻撃した。
ニッケルは吹っ飛んで体を壁に打ち付けた。
「何故だ…」
ニッケルは起き上がりながら信じられない様子だった。
「モリオンから事前に言われてたんでね。お前への対策を。」
海斗はさらに構えた。
それは、作戦決行前のことだった。
モリオンに呼び出された海斗はモリオンの研究所に行った。
「貴司、できてるか?」
「なんとか…」
「まだ時間はある。落ち着いて作ってくれ。おっ、来たか。」
貴司は何か機械を組み立てていた。
モリオンは海斗を手招きし、研究所のドアを閉めた。
「貴司、お前も話を聞いておけ。もし、メタモルフォシスが敵のアジトに潜入するとなったらお前はどうする?」
モリオンが海斗に言った。
「えっ?!」
貴司は思わず手を止めてモリオンを見た。
「その時は俺も行くけど…勇太は意識が戻ったところだし、魔術界も混乱してるのに敵のアジトに潜入って…野上を連れ戻すためか?」
「まぁそんなところだな。今のところ潜入の可能性は30%ってところだが、お前も潜入となるとお前自身も覚悟しなければならない。」
「覚悟?」
「あっちにはシルバー、コッパーのような実力者同等に厄介なヤツがいる…ニッケルだ。」
「ニッケルって…原田さんの関わった事件の黒幕だったよね?」
貴司が言った。
「『こすもおーら事件』を知っているんだな。ニッケルは心の闇を利用するのが上手い。『こすもおーら事件』の後同じ事件をもう1度起こしている。それはあくまでヤツの実験のためだ。結局は失敗だったようだが。でも、ヤツはオニキスとコスモオーラを殺している。あまり表に出てこないのも自分用の情報をこちらに残さないためだ。用心深いが狡猾…それがニッケルだ。」
海斗と貴司は黙って聞いていた。
「お前たちの中でニッケルのターゲットになりやすいのは、クリソコラかフローライト。クリソコラは呪い系が効かない特殊能力が興味をもたれやすいという意味だが、お前は特に内に秘めた心の闇が深そうだ。」
貴司は驚いた顔で海斗を見た。
海斗は黙ったままだった。
「否定はしないか。だからお前には対策を施してやろうと思ってな。」
モリオンはニヤリと笑った。
「敢えて心を読ませ、隙を見せた時に反撃する。そのために、俺も心を読まれている間お前の心に潜り込むーそんな訓練を何百回ってされたんだよ。かなり堪えたな。」
海斗がニッケルに言った。
「なるほどな…モリオンのヤツやるじゃないか。だからこそ、ますます王の器にしたくなったな…」
ニッケルの体が溶けて崩れはじめた。
ニッケルの体はみるみる銀色の金属の玉の形になり、両サイドからは大きな腕が1本ずつ生えた。
「なんだ…?人間じゃ…」
海斗は驚いて後退りした。
「俺の魂と肉体は金属核と完全に同化した。長年の研究の成果だ!」
ニッケルはゆっくりと海斗に近づいてきた。