海斗の過去ー秘められた想い
海斗が付き合っている女の子と昼休憩に屋上に行くと、女がひとりポツンとベンチに座っていた。
「先客がいるみたいだな。」
「あの子、ここにいたんだ?」
「誰だ?」
「同じ学年の子よ。野上あき。成績トップの。休み時間にいつもいなくなるのよ。友達いないみたいだし。」
「ふーん。」
それが初めて海斗が『野上あき』という人物を認識した瞬間だった。
数日後の昼休憩に廊下で賢二を見かけた海斗は声をかけようとしたが、賢二は海斗に気づかず、屋上の方に向かって歩いていた。
いつも温厚な賢二が難しそうな顔をしていたので気になって海斗は賢二を追いかけていった。
「久しぶりだね。」
「毎日、講義室にいるじゃない。」
「そうだけど、あきちゃんと話するのが久しぶりだなって思って。」
賢二はあきと話していた。
「薬学部に入ったんだね。」
「南君も。理工学部目指してたんじゃなかった?」
海斗は屋上の入口で2人の話を聞いていた。
『南の元カノ…って感じじゃなさそうだな。』
「お互い、この4年間は前向いて頑張ろうって言いたくてさ。何かあったらいつでも俺に相談してくれて構わないから。」
そう言って賢二は屋上を出ようと入口に向かって歩いてきた。
海斗は慌てて身を屈めて隠れた。
賢二は海斗に気づかず、そのまま屋上を後にした。
賢二の姿が見えなくなって海斗はそっと屋上のあきを覗き見た。
悲しそうな、内に何か大きな秘密を秘めているようなそんなミステリアスな雰囲気をあきに感じ、海斗は釘付けになってしまった。
それから、海斗はあきを気にするようになった。
あれから賢二とあきが話しているところを見なかったが、2人とも附属高校出身だと知った。
海斗はだんだん合コンから足が遠のき、女の子と付き合わなくなった。
「どうした、松下?最近、お前の話聞かないぞ?」
彬が海斗の変化に気づいて聞いてきた。
「別に…変か?」
「変というか、髪も黒くなって、マジメになったというか。」
「これが本来の俺なんだよ。」
海斗は冗談っぽく言ったが、半分は本心だった。
海斗はたまに昼休憩に屋上に足が向くようになった。
あきに話しかけようとしたが、何を話せばいいのか分からなかった。
『俺も、ピュアになったもんだ…』
「なぁ、海斗。もしかして彼女できたのか?」
海斗はビックリした顔で勇太を見た。
勇太がこんなことを聞いてくることは今まであまりなかったからだ。
「えっ、な…なんで?」
「最近、休憩時間にいなくなることがあるし、今日だってほら、昼休みいなかっただろ。しばらく付き合ってる話聞かなかったし、もしかしてって思ったんだけど。」
「勇太はたまにもの凄く鋭い時があるんだよな。」
先に講義室を出て行った勇太を見ながら海斗は呟いた。
『だから、勇太は面白いんだ。』