作戦決行
「オパール取り敢えず出よう。」
ターコイズはオパールを連れて部屋を出た。
「明日、決行する。それまで、静養しておくんだ。」
クォーツが言った。
勇太は自分の空間に戻った。
人間界の自分の部屋そっくりにベッドと机と本棚を置いていた。
やはり自分の部屋が落ち着くと勇太は思ったからだ。
唯一の違いは晴明とペリドットがいないことだった。
勇太は机に向かって指環を外した。
指環の内側の“A to Y♡”を眺めていた。
『あき、待ってて。』
勇太はそう思って指環と“あるもの”を机の上に置いた。
次の日、『光と闇の空間』に勇太たちは集まった。
「揃ったな。これから人間界のある場所に向かう。」
そう言って連れてこられたのは、
「駅の近くのバーの前?」
大学の最寄り駅の側にある“Bar metal”の前だった。
『こんな近くに…あき…』
勇太は早くあきの無事を確認したかった。
「このバーはカムフラージュだ。行くぞ。」
勇太とクォーツ、海斗と貴司、樹理奈とアメジストがペアになって中に潜入する。
「錆になるローブだ。被ると宝石核の魔力を感知できないが、錆そっくりの容姿になる。」
そう言ってモリオンは2人に1着ずつ黒いローブとタバコの箱の大きさの無線機を渡した。
無線機には位置やモリオンのモニターに目の前の様子や人を映し出す機能がついている。
「リシアは俺と残って指示を出すんだ。」
中の情報は逐一モリオンに報告し、全員で共有するのがルールで、
「敵の目的を知ること、ブルーサンドストーンの奪還。これが最優先だ。撤退命令が出たらすぐに従うこと。万が一、ヤツらにバレてしまったら逃げるのが優先、戦闘はさける。いいな?」
勇太とクォーツは一緒にローブを被った。
「本当に2人が被っているように見えない!」
樹理奈が言った。
「じゃあ、先に行ってくる。」
勇太とクォーツはバーのドアに向かって歩いた。
勇太たちが近づくとドアは消えて、中は土のトンネルの坑道が奥まで続いていた。
「落ち着け、メタモルフォシス、いや、勇太。」
勇太がウズウズしているのを察したクォーツが言った。
「分かってる…」
勇太たちはどんどん先へ進んで行った。
途中、道が2手に別れていた。
「モリオン、どっちに進んだら良い?」
勇太が無線機を通して聞いた。
「右にはマーキュリーたちの部屋があるようだ。左へ行け。」
「その次は3つに別れてるから。まん中よ。」
リシアも言った。
「フリントストーンたちからの情報だ。ブルーサンドストーンはシルバーと一緒にいる。しかも、シルバーの部屋に。」
「了解。」
進むにつれて錆と何体もすれ違った。
「やけに錆が多いわね。何かあるのかも。気をつけて。」
リシアが言った。
「おい、そこの人形!」
勇太たちは聞き覚えのある声に呼び止められた。
「すぐに振り向くな。ゆっくりだ。」
クォーツが勇太に言った。
「お前は見回り担当か?」
マーキュリーだった。
眉間にシワを寄せて明らかにイライラした様子だった。
「錆に当たっちゃダメよ。もうすぐ儀式なんだから。」
マーキュリーの後ろから女が歩いてきた。
「アーセニックよ。目を合わせないように。」
リシアが言った。
「見回りばっかり増やして!イライラするだけよ!」
マーキュリーは怒っていた。
「シルバーの命令なんだから。」
「魔術界のヤツらが攻めてくるとでも?!」
「さぁ?シルバーは何考えてるか知らないけど。私の錆はプラチニウムの世話係に駆り出されたし。あんたのは見回りだっけ?」
「うるさい!」
マーキュリーは来た方向へ戻って行った。
「ほら、仕事しな!」
勇太たちにそう言ってアーセニックはマーキュリーを追いかけていった。
「モリオン、ヤツら何かの儀式をするそうだ。それと、プラチニウムの世話係をしている錆もいると。」
クォーツが無線機に向かって言った。
「アメジストたちにも向かわせよう。」
「マーキュリーたちが部屋に向かった。」
勇太も言った。
「フリントストーンとフローライトを部屋から撤退させて見張りに紛れさせるとしよう。お前たちもシルバーの部屋に向かえ。」
モリオンが言った。
「俺たちは見張りのふりをしておけば良いんだな。」
「うん。」
海斗と貴司はマーキュリーたちの部屋を物色し、何か情報を探していたのだった。
部屋から出た2人は黒いコートの男とすれ違った。
「リシア、今のは誰だ?」
海斗が無線機に向かって聞いた時だった。
「待て。」
男に呼び止められた。
「お前、錆ではないだろ?」
男はニヤリとしてこちらを見ていた。
「黙ってた方が良いのかな?」
貴司が少し震えながら呟いた。
「マズイわね。よりによって…」
その様子をモニターから見ていたリシアが言った。
「こんな早くにコイツと遭遇するとはな。」
モリオンも言った。
「錆ではないとすると、魔術界の者だな?」
男は近づいてローブを剥いだ。
海斗と貴司の姿が露になった。
「ほう。2人いたか。モリオンの発明にしてはなかなか。」
男はローブを眺め、貴司に渡した。
「大林、ここは俺が食い止めるからお前は行け。」
「でも…」
「無線機も持っていけ。この状況をモリオンたちに伝えるんだ。俺なら大丈夫。こんな時のために鍛えてもらったんだ。」
「…松下君。」
「早く行け。ローブも被って。」
「ゴメン、松下君。中島君たちに来てもらうよ。」
貴司はローブを被り、錆の格好になって、その場を立ち去った。
「松下…松下海斗だな?フローライトの。」
男が言った。
「なぜ俺のことを?」
海斗か聞いた。
「ちゃんと情報収集しているさ。しかし、シルバーの予想が当たったな。魔術界のヤツらが女王を奪還しにくると。可能性は50%程だと思っていたが。しかも、お前が目の前に現れてくれるなんて!」
男は手をあげて喜んでいた。
「モリオン、バレちゃって松下君が…」
貴司が無線機に叫んだ。
「落ち着け。ローブの中からは声が漏れないとはいえ油断するな。状況は分かっている。フローライトは賢明な判断だった。」
モリオンが言った。
「中島君とクォーツを呼んで!じゃないと松下君が…あの人は誰なの?」
「アイツは、ニッケルだ。金属中毒のマッドサイエンティストの。」
モリオンが言った。