憎しみの理由
「おいこらっ!若いヤツらをそそのかして敵に攻めこもうなんてずいぶんと強引なことをするんだなぁ!」
オパールがクォーツに突っかかっていた。
「そそのかしてはいない。それぞれの意志で決めたことだ。」
「はんっ!よく言うぜ!」
「オパール、俺はそそのかされたんじゃない。あきを連れ戻しに行きたいんだ。」
勇太が言った。
「勇太…じゃなくてメタモルフォシス。お前はアイツに殺されかけたんだろ?アイツは敵だ!プラチニウムだ!やっと正体を現したんだ!なのに連れ戻すって、バカか?!いい加減目覚ませ!」
「とっくに目は覚めてる。」
クォーツが言った。
クォーツが勇太をかばったことにオパールは少し驚いた。
「へぇ、いつから仲良くなったのか。お前、コイツらに利用されたのを忘れたのか?安倍晴明の器にされかけたんだぞ?」
「それはもう済んだことだ。」
勇太ははっきり言った。
「クォーツ、俺も不可解に思ったんだ。プラチニウムを拘束するとか言い出しそうなのに。どういう風の吹き回しなんだ?」
ターコイズも部屋に入ってきた。
「何もおかしなことは言っていない。弟子が敵のアジトに潜入すると言ったら一緒に行くのが不可解か?」
クォーツが勇太のことを『弟子』と言ったことにオパールもターコイズも驚いていた。
「お前ら、何かあったか?それとも何か知っているのか?」
オパールは勇太に詰め寄った。
騒ぎを聞き付けて海斗、貴司、樹理奈、モリオン、アクアマリンも入ってきた。
「モリオン、アクア。お前たちは何か知っているのか?」
オパールが聞いた。
「俺たちも参加するが、何かとはなんだ?」
モリオンが聞き返した。
「モリオン、どっちの味方だ?アクアもなのか?」
「どっちの味方とかないわよ。私も海斗…フローライトにお願いされたの。『力を貸してくれ』って。それが何か?」
アクアマリンが言った。
「ねぇ、何でここで味方同士でいがみ合わなきゃいけないの?
クォーツとオパールって仲良さそうではなかったけど、ここで分裂するのはよくないんじゃない?」
樹理奈が言った。
「それこそ、敵の思うつぼかもな。オパール、お前が闇に対する憎しみが深いのは知っている。だが、負の感情にのみ込まれるな。お前程の魔術師が堕ちてはいけない。」
モリオンが言った。
「分かってる!」
オパールが叫んだ。
「俺は…クォーツ、お前が許せないんだ…お前が叔母を…半田すずを殺したのを俺は知っているんだぞ!」
オパールの目は怒りで血走っていた。
クォーツは黙っていた。
『半田…すず…?まさか、オパールは…?!』
クォーツの元弟子で思い人だったすずの甥ーってことは…
「すずの兄の子か。」
クォーツが呟いた。
「そうだ!俺は次男坊で、産まれたときには叔母は死んでいた。親父はずっと悔やんでいた。戦火から妹と弟を守れなかったって。でも違った。叔母は叔父と戦火で命を落としたのではないと。」
アクアマリンがモリオンにすずとは誰かを聞いていたが、モリオンは首を振った。ターコイズも知らないと首を振った。
「なるほど、お前にも金属中毒の接触があったと言うことか。」
クォーツが言った。
「あぁ。ニッケルがご丁寧に教えてくれたさ。お誘いも含めて。でも俺はのらなかったがな!仲間たちや師匠のタイガーアイをヤツらのせいで失ったんだからな。俺は…魔術界ではお前だけは許せないんだ!」
オパールはクォーツを睨んだ。
「あの女は自ら命を落としたのよ。」
アメジストがいつの間にか部屋に入ってきた。
「自ら刀で心臓を刺した。兄貴は必死で助けようとしたわ。でもダメだった。あんたの方がニッケルにそそのかされてるのよ?だいたい、ニッケルが100%本当のことをしゃべると思う?アイツは手段を選ばない。」
「良いんだ、アメジスト。すずは俺が殺したも同然だ。お前の中の俺への憎しみは分かった。でも、その憎しみは俺だけに向けておけ。」
「なぁ。1つ聞いて良いか?」
オパールはようやく落ち着いた声で言った。
「お前は叔母を愛してたのか?」
クォーツは黙っていた。
勇太にはクォーツの目がとても悲しそうに映っていた。
『お前は…俺のようになるな。絶対に…』
さっきクォーツが勇太に言った言葉だった。
勇太はその言葉が今のクォーツの素直な気持ちだと思った。