師匠
次の日の1限目終了後も『扉の間』に呼び出された。
「今日からそれぞれ、師匠について修行してもらうわ。」
ルビーが言った。サファイアは今日はいなかった。後ろには昨日もいたクォーツとエメラルドの他に3人の魔術師が立っていた。
「まず、パールはあの子ね。」
胸が大きいふくよかなパールが貴司の前に歩いていった。
「パールよ。よろしく。」
ニッコリ笑って貴司の前に手を差し出した。貴司は慌てて差し出された手と握手した。
「オパールは、あの子。」
「おい、ルビー!俺、女の子の方がいいんだけど!」
オパールは海斗の師匠に指名されたが、樹理奈を見ながら抗議した。
「あの子はエメラルドに師匠をしてもらうわ。最後はペリドットはあの子ね。」
オパールは渋々海斗の前に歩いていった。
勇太の師匠は角刈りで筋肉質な体型のペリドットになった。
「まず、こいつらの自己紹介が先だろ。」
オパールがまだ不満そうな顔をして言った。勇太たちも名前のみの自己紹介をした。
「じゃあ、後は各々よろしくね。」
そう言ってルビーは消えた。
クォーツはあきを手招きして何かを話していた。
「おい、勇太だったか、修行始めるぞ。」
ペリドットとみなから離れた場所まで歩いていった。この空間には果てがないようだ。歩いても歩いても同じ景色が続いていた。
ペリドットが足を止めた。
「俺たちはここでやろう。まず、お前に聞きたいことがある。」
なんだろう…勇太は身構えてしまった。
「そう、肩に力入れるなよ。…お前には、守りたいものがあるのか聞きたくてな。」
「守りたいもの…?」
勇太は予想外の質問だったので戸惑ってしまった。
「…ないか。まあいい。じゃあ始めるぞ。まずは魔力のコントロールだな。基本中の基本だ。」
ペリドットは手のひらを上にして手を出した。手のひらから光るモヤのようなものが出てきた。そのモヤが手のひらの上で光の玉になった。
「かなりゆっくりやってみたが、これが魔力だ。手を出して手のひらの上に玉を作るのを想像してやってみろ。」
勇太も手を出した。玉を作るのを想像することがよく分からないままだった。
「手に意識を集中させてみろ。」
手に意識を集中…すると勇太の手から光るモヤが線香の煙のよう一筋出てきた。
勇太本人もビックリしてしまった。すると、モヤが消えてしまった。
「おいおい、この程度で驚くなよ。あれがお前の魔力だ。初めての割に早かったな。」
ペリドットが歯を見せて笑った。
勇太はもう1度やってみた。光るモヤがいくつも出てきた。しかし、気を抜くと消えてしまった。
「はぁ…」
勇太は疲れて座り込んでしまった。
「まぁ、初めてで上出来だ。俺なんか初めは全然だったもんな。今日はもう辞めとくか?」
ペリドットは勇太の顔を覗きこんで言った。
「えっ、でもみんな…」
「ここは時間が止まっているだろ?戻ったときみんなも戻って来ている状態になるだろ?」
「あっ、そうか…」
勇太は納得したが、体が疲れて重くて立ち上がれない。
ペリドットが勇太にチョコレートをひとかけら渡した。
「…ありがとうございます。」
勇太はチョコレートを口に入れた。すると疲れが吹っ飛び、体が軽くなった。
「これはどこのチョコレートですか?」
市販でも食べたことのない濃厚で優しい味だった。
「『魔術界』のお菓子だ。そんなにうまかったか?」
ペリドットがおかしそうに笑いながら、
「明日も修行の後に食わせてやるよ。じゃあまた明日な。そうそう、飯しっかり食えよ。」
そう言ってパチンと指を鳴らした。
講義室に戻って来た。横には海斗が座っていた。