すずの最期
ハッと目が覚めたクォーツは横にすずが寝ていないのに気づいた。
クォーツは慌てて廃屋の外に出た。
「すず…良かった…」
外で月明かりに照らされたすずの姿にホッとしながらも見とれていたが、クォーツはすずから少し離れた空中に刀が浮いているのに気づいた。
刀はゆっくり回転し、刃先がすずの方に向いた。
「すず、止めろ!」
クォーツは嫌な予感がしてすずに向かって走ったが、すずはクォーツに笑顔を見せた。
「お師匠様、ありがとうございました。」
穏やかな笑顔のまますずは刀に胸を刺された。
刀は自ら抜けて消えた。
「すずー!」
クォーツは叫んで、胸から血を流しているすずを抱き起こした。
「お師匠…様…」
「しゃべるな!今手当してやる!」
クォーツは片手ですずの胸の傷に手を当て、魔力で傷を塞ごうとした。
「だめ…お師匠様…逃げて…闇が…近くまで来てる…早く逃げて…」
「…傷が塞がらない!闇の力が俺の魔力を打ち消しているのか…くそっ!」
「お師匠様…私は良いの…だって殺せって…お師匠様を殺せって…絶対にいや!私はお師匠様を殺そうとしたのに…お師匠様は私を守ろうとしてくれてる…そんなお師匠様を…大好きなお師匠様を…絶対…傷つけたくないから…またお師匠様に刃を向けるぐらいなら私…」
「分かったから!魔術界に行こう!俺だけじゃ…」
すずの胸からどんどん血が出てきた。
「ありがとう…お師匠様…大好き…」
すずは安らかな笑顔で目を閉じた。
「すず…すず…目を開けろ!すずー!」
クォーツは何度もすずを揺さぶり叫んだが、すずは目を開けなかった。
クォーツはすずの亡骸と共に魔術界へ帰り、ダイヤたちにすべてを話した。
「弟子にうつつを抜かすなんて!清太、見損なったわよ!」
ジルコンは呆れていた。
「風子、そんなこと言わないで。清太だって辛かったのよ。」
パールが言った。
「馬鹿ね、亜弥子。自業自得よ!」
そんなジルコンとパールの間にダイヤが割って入った。
「清太、お前には辛い思いをさせてしまったな。風子、彼女の闇を抜く手伝いをしてくれるかい?」
ダイヤはそう言ってクォーツの肩に手をポンと置いて立ち去った。
『いっそのこと、叱ってくれる方が気持ちは楽なのに…』
クォーツはそう思っていた。
「これが、闇の核だ。お前が持っておくんだ。」
ダイヤはクォーツにすずの亡骸から取り出した闇魔力核を渡した。
手のひらより一回り大きい半透明の黒い球体で、中心には銀色の金属の小さな玉が浮いていた。
「中は錫石のようだ…しかし、刀を錬成できるとは…戦への恨みの強さが鉄も操ったというのか。それとも、元々彼女には金属を操る力を秘めていたのか…亡くすのに惜しかった…」
「師匠の計らいですずは弟と共に戦火で亡くなったことになった。すずの亡骸は弟と共にすずの実家の半田家の墓に埋葬された。」
勇太はクォーツの話を真剣に聞いていた。
クォーツの意外な過去に驚いてはいたが、それよりもクォーツがいつもの勇太に対する高圧的な態度とは違い、穏やかで寂しげな口調
で話をしていたことに勇太は段々切なく感じていた。