クォーツの恋1
「お前はどうなんだ?」
クォーツが勇太に言った。
「どうって…」
「あきに刺された。殺されかけた。それでもまだあきへの愛情はあるのか?」
この質問は勇太にとってとても複雑な気持ちにさせた。
「…分からない。」
「そっか。」
クォーツが勇太の腕を掴んだ。
「時間がないから『扉の空間』へ行くぞ。」
そう言ってクォーツは勇太を『扉の空間』へ連れて行った。
『何で、今ごろ修業?』
勇太はクォーツが『扉の空間』へ連れてきた意図が理解できなかった。
「お前を見ていると…ずっとイライラしていた。」
クォーツが言った。
勇太はクォーツがあきを監視するように言っていたのに、監視どこらか付き合って気が緩んでいたことを咎められるのかと思った。
「晴明様も…おっしゃってた通り、昔の俺を見ているみたいで。」
「えっ?!」
クォーツが予想外のことを言ったので勇太は驚いた。
「何百年前だったか…」
クォーツが話始めた。
数百年前、扉を開いたときに、クォーツはすずという少女の師匠をしていた。
すずはとても明るく、天真爛漫な少女だった。
「お師匠様、今日もよろしくお願いします。」
修業の度にすずはニッコリ笑ってクォーツにそう言った。
「お師匠様、これ、うちの新作!こっそり持ってきちゃった!お父が南蛮菓子から思いついたって!」
すずの実家は菓子屋で、父親も菓子職人だった。
クォーツとの修業の度に家からこっそり菓子を持ってきて、クォーツと2人で食べるのがすずの楽しみのようだった。
そんなすずにクォーツも少しずつ惹かれ始めていた。
「明日の修業は魔術界で行ってくれ。」
ある日、ダイヤがクォーツに言った。
その頃になると修業していて上級魔術師になっていたのはすずだけだった。
「分かりました。でも、何故?」
「明日、あの街は戦火を浴びることになる。あなたの弟子を戦火に巻き込まないためにも攻められてる間は魔術界で修業という形で保護してはと私が言ったのでね。」
ジルコンが言った。
世は戦国、国内の情勢は非常に不安定だった。
すずは戦火を浴びずに助けることができるーしかし、すずは実家と家族をとても大事に思っていることも知っているー分かっているのに知らなかったふりをしても良いのだろうかークォーツはこのまま黙ってすずを魔術界で修業させるべきか悩んでいた。
「すず…」
「あっ、お師匠様。こんなところで何してるのですか?修業は明日ですよね?」
お使いに行く途中のすずにクォーツが思いきって声をかけた。
「ご家族に今すぐ街を出ろと伝えるんだ。」
「どうして?」
「すまない。これ以上は言えない…」
「お父は明日の殿様の茶会の菓子を作ってるから無理だわ。職人たちも忙しくて話しかけられる雰囲気じゃないし。駿も手伝いしているわ。」
駿とはすずの弟だった。すずには兄と弟がいる。
「俺がお前に伝えられるのはこれだけだ。」
そう言ってクォーツは姿を消した。
「ずいぶんとあの子にいれこんでるのね。」
魔術界に戻ったクォーツにアメジストが言った。
クォーツは黙っていた。
「掟破りじゃないの?まぁ、黙っててあげるから。」
クォーツはアメジストが立ち去った後もしばらくじっと立っていた。
「お師匠様、今日は菓子の余りがなかったの。ごめんなさい。」
「いや、良いんだ。」
次の日の修業は予定通り、魔術界にすずを連れてきた。
クォーツはあえてすずから家族のことを聞かなかった。
「ここがお師匠様が住んでいる魔術界なのね。」
修業が一通り終わった後、すずは魔術界の中をクォーツに案内してもらっていた。
「私が住んでいる街に似てる!あっ、ここは何?」
すずは楽しげにあちこちの建物に入ってまわった。
そんなすずにクォーツはいとおしさを感じていた。
その頃、すずの住んでいる街が敵軍に攻められて火の海になっていた。