ひとり
勇太は傷はふさがって回復していた。
勇太たちが魔術界にいる間は偽者が人間界で自分たちの代わりをしてくれているとのことだった。
「人間界の偽者に意識を集中させたら偽者が何をしているのかや偽者が得た知識を共有できる。」
モリオンが偽者を用意してくれたようだった。
勇太は病院を出て気晴らしに散歩していた。
『前にあきとここに入ったな…』
水属性の建物の前に立ち止まってふとそんなことを考えていた。
体が自然に建物の中に入っていった。
勇太は何も考えずに上流に向かって川沿いを歩いた。
「あれっ?」
濃い青色の透き通った勇太の顔より一回り大きい球体がプカプカと浮いていて、そこから川の水が流れ出ていた。
「これが前にカバンサイトが言っていた答え…?」
「この宝石から魔術界の水が供給されます。」
勇太が振り返るとカバンサイトが立っていた。
「魔術界はこのように特別な宝石から魔力を帯びた水や火を使って生活できているのです。開発したのはダイヤ様と安倍晴明様です。」
そういえば晴明はどこへ行ったのだろうと勇太は思った。
あきに刺されて以来、頭の中で晴明とペリドットに呼びかけても全く応答がなかったのだ。
「前に見たときはこれ、見えなかったんだけど。」
勇太は青色の宝石を指差した。
「見えないようにされていたのかもしれませんね。あの時、もう一方いましたから。」
勇太はあきのことを言っているのだと思った。
「闇に触れられるのを一番避けなければならないので。クォーツ様辺りがそのようにされたのでしょう。」
カバンサイトはふーっと一息ついた。
「今、魔術界ではあきさんーブルーサンドストーンの話で持ちきりです。残念です。あなたが一番辛いでしょうが。」
勇太は黙っていた。
「傷が早く治って良かったです。この魔術界の空気と水があなたの治癒の手助けをしてくれたと思います。では、僕はこれで。」
カバンサイトは下流の方へ歩いていった。
勇太は宝石から出てきている水を両手ですくった。
水は冷たく、ひんやりとした感触が手から腕へと伝わっていくのが分かった。
水が勇太の体の中を駆け巡り、浄化してくれているような気分だったが、傷痕の辺りだけはむなしく冷たい感触が伝わってくるように感じた。
心の傷だけは魔力でも癒えていなかった。
『あき…俺、まだ信じられないよ…』
勇太は傷痕にそっと触れてひとり立ち尽くしていた。