目覚め
目を開けた勇太はゆっくり息を吐いた。
「大丈夫か?」
勇太のベッドの横で海斗が座って本を読んでいた。
「海斗…」
勇太は体を起こした。
「無理するな。」
そう言いながらも海斗は勇太の背中を支えた。
「ゴメン…ありがとう。」
しばらく2人は沈黙していた。
「俺さ…全然余裕なかった…周りが全然見えてなかったし、あきのことも…付き合ってよく分かっているつもりでいた…」
勇太がポツリポツリ話始めた。
「でも、ほんの少しだけ…あきのこと知って舞い上がってただけだった…あきの中の闇のことも…金属のことも…目をつぶって見ないようにしてた…避けて話題にもしないようにしてた…」
海斗は黙って聞いていた。
「本当に…情けないよな…結局、俺1人で舞い上がってただけ…俺は…」
勇太は言葉が詰まってしまった。
「勇太も野上も付き合うの初めてだったからすごく初々しく見えてた。でも、野上の方がはしゃいでるように見えたけどな。」
海斗はいたずらっぽく勇太に笑いかけた。
勇太は少し驚いた顔をしていた。
「野上は5年も感情を封印してたってことは感情は5年前の高校生のまま。だとしたら野上のはしゃぎ様は納得できるんだよな。」
勇太は海斗をじっと見ていた。
「野上はほとんど友達も作らずに講義以外は屋上でずっと1人でいたんだ。この3年以上も。普通、寂しいはずだけど感情がないからそんなのも感じれない。それも寂しいだろうけど、野上はずっと1人だった。今思うと…気づいてもらいたかったのかも。誰かに自分のことを。待ってたのかもしれないな。最近、そんな気がしててさ。」
勇太の気持ちは複雑だった。
「少なくとも。勇太と一緒にいた野上は演技ではなかったと俺は思ってる。野上も本気だったと確信してる。原田も同じこと言うと思うぜ。たまに野上から勇太の話を聞いてたみたいだから。」
勇太はふと気づいた。
『海斗、あきのことよく見てるな…やっぱり…海斗はあきのこと…』
あきが海斗と付き合ってたらあきは裏切ることはなかったのかもしれないと勇太は思った。
「お似合いだった。勇太と野上は。すごく幸せそうで、羨ましがってたヤツ多かったんだぜ。意外と彬とかも羨ましがってたって。『あんな純粋な付き合いって良いな』って。」
海斗は勇太の推測を微塵にも感じさせないくらい明るかった。
「でもさ、俺、刺されたんだ。後ろから。男が現れた後に。」
「男?」
「今までに感じたことのないヤバい感じだったから金属中毒なのは間違いないと思う。チャラチャラした感じで、チェーンとかアクセサリーがジャラジャラしてて…あきのこと、『女王』って呼んでた。」
「女王…?」
「女王…プラチニウムって。」
「それはブルーサンドストーンがプラチニウムだというのがほぼ確定したということだな。」
モリオンと貴司が勇太の病室に入ってきた。
「一緒にいたという男。名乗ってなかったか?」
モリオンが勇太に聞いた。
「何も…」
「恐らく、シルバーだ。最近、コッパーと共に動いてると情報があった。シルバーは厄介だ。向こうのボスの側近だ。」
「そういえば…コッパーの名前を出してた…」
勇太はシルバーの言葉を思い出した。
「ダイヤに知らせた方が良いな。海斗、後で1人で来い。それと、ブルーサンドストーン、野上あきの存在が人間界から消えた。つまり、ブルーサンドストーンはプラチニウムとして金属中毒に受け入れられたということだ。」
モリオンはそう言って出ていった。