就職試験
「何とか終わったな。」
七里中央病院を背に勇太は歩いていた。
採用試験が終わったのだ。
自信は半々だったが、やりきった気持ちだった。
“試験終わったよ!
今日は研究室行かずに帰るから!
明日から行く(^_^)”
勇太はあきにメールした。
合否は1週間後に分かる。
「ただいま。」
「おう。今日は研究室に行かなかったのか?」
帰宅した勇太を腕立て伏せをしながらペリドットが迎えた。
「うん。やっと試験終わったし、そんな気分じゃなくて。晴明は?」
「ダイヤから呼び出しがかかったらしい。それよりどうだった?」
ペリドットは腕立て伏せをやめて座って勇太に話しかけた。
「うーん。落ちた気は…しないかな。でも定員3人に対して30人以上来てたんだ…ウチの大学の薬学部は新設だから俺たちが初めての卒業生なんだ。だから卒業生とのコネが他の大学と違ってないから就職は不利って言われてて…考えたって仕方ないか。終わったことだし。」
「そうだ。お前が後輩たちに道を作ってやったら良いんだ。」
「そういえば、昨日は魔術界のラーメン食べたよ。なかなかおいしかった。特に麺が。」
「ほとんどの作物は魔術界で作っているからな。魔術界の空気と水で浄化されて魔力を蓄えた作物でできた料理なんだ。そりゃ上手くないわけがない!」
「ペリドットも何か作ってたの?木属性の建物で作ってるって聞いたけど。」
「色々担当したことはあるけど、俺自身が開発した自信作は『超スタミナニンニク』だ。魔ザクロを越える魔力回復アイテムを開発しようとしたが、まだまだ越えられなかった。でも、ウマイぞ!ラーメンとかカレーに入ってるはずだ。ホイル焼きにしたら最高なんだが…この前、こっそり取ってきたら良かったな。」
「今度、オリーブに頼んでみようか?…母さん帰って来た。俺、下に行ってくる。」
勇太は部屋を出て1階に降りていった。
「…何故隠れているのです?晴明殿。」
「気づいておったか。」
ペリドットの前に晴明が姿を現した。
「そなたたちが楽しそうに話しているのでな。」
「ダイヤとの話、良くない話だったのでは?」
「大也も多少なりとも気づいておった。わしに敵陣営の探りを入れてこいと。ずいぶん荒い扱いをしてくれる。わしはお前の式神ではないと言ってやったわ。」
「ってことは…」
「銀と銅が動き出したと。」
「銀と銅…敵のボスに一番近い存在が2人も…勇太には…あのことは…?」
「まだ何も言わない方が良いであろう。」
「しかし、勇太も…ダイヤにあのことは…?」
「言ってはおらん。」
「勇太…」
「そう心配するな。さて、わしはネットでもするか。」
1週間後、七里中央病院の採用試験の結果が郵送されてきた。
“合格”の文字が目に入った途端、勇太は思わずガッツポーズをした。
将来に向けて一歩前進できた気がした。
『後は、卒業と国家試験…』
その前に勇太に大きな影が近づいていることに勇太はまだ気づいていなかった。




