初枝ばあさんの過去
あきの祖父はあきから祖母の昔の話をしだした。
「ばあさんは顔はひどかったが、心はキレイだった。キレイになっていく妹のことをわしの前では妬むようなことを言わんかった。しかし、“美人薄命”とはよく言ったものだ…妹は16歳で病で死んでしまった。その後だ。ばあさんの肌がみるみるキレイになって、妹顔負けのベッピンになったのは。妹が生きているときにばあさんに毒を盛っていたのではと言う輩がおったが、ばあさんは怒っていた。『あの子が私にそんなことするはずない!』と。でも、妹は死に際にばあさんに言ったらしいんだ。『初枝ちゃん、私のせいでゴメンね。私が死んだら初枝ちゃんは苦しまなくてすむからね』と。それでもばあさんは妹を信じてた…」
「あきー!あれっ?ここにもいない。部屋に行くって言ってどこ行ったのかしら…って、お父さん飲みすぎよ!中島君、ゴメンね!顔真っ赤じゃない!」
話の途中であきの母親が食卓に入ってきた。
「あき来なかった?」
「いえ、来てませんけど。」
「お母さん、呼んだ?」
あきがひょっこり顔を出した。
「あき!あんたどこ行ってたの?」
「自転車のカギ探しに外出てた。」
「あったの?」
「うん…中島君、顔赤い。」
あきが勇太の顔を見て笑った。
「そんなに?」
勇太はだんだん酔いが回ってきている感じはしていた。
『その勢いで今宵は女の部屋に泊まって押し倒せ!』
と晴明の声が聞こえた気がしてきた。
「帰り、ご自宅まで送っていくわ。」
あきの母親がエプロンを脱ぎながら言った。
「大丈夫です。風に当たったら覚めてくると思うんで…ごちそうさまでした。すごくおいしかったです。」
「お母さん、私、駅まで送っていくから。」
あきが言った。
あきの母親は心配そうな顔をしていたが、勇太が家を出るときは、
「今日は来てくれてありがとう。お土産もわざわざありがとうね。また来てね。気をつけて帰ってね。」
と笑顔で見送ってくれた。
あきの祖父も、
「また飲みにおいで。」
と言ってくれた。
「大丈夫?結構飲んだでしょ?」
駅までの道であきは勇太に言った。
「うん。すごく気分良いよ。」
勇太はあきの実家では酔いを抑えていたが緊張が解けて酔っ払っていた。
「はい、これ飲んで。」
あきは勇太に魔ザクロの実のエキスを1粒渡した。
「後で飲むよ。今すごく気分良いんだ。」
「完全に酔っ払いじゃない!今飲んで!」
あきに促されて渋々魔ザクロの実のエキスを飲んだ。
体からさーっと酔いが引いていくのが分かった。
「じいちゃんと何話してたの?」
あきが聞いた。
「色々…おばあさんの話もしてくれた。」
「ばあちゃんの…じいちゃん、中島君に心許してくれたんだ…ばあちゃんのことで色々気になることあるんだけど…」
あきはそう言いかけたが、駅前に着いて時計を見た。
「もう電車来るね。また今度ゆっくり話すね。」
あきは勇太の左手をぎゅっと握って真剣な顔で勇太を見つめた。
「中島君、今日はありがとう…あのね、お願いがあるんだ…これから何が起こっても私のこと信じてくれる?」
勇太はあきが何故こんなことを聞いてくるのか理解できなかったが、
「もちろんだよ。」
勇太も手を強く握り返した。
「…ありがとう。」
あきは微笑んだが、勇太には少し寂しげにも見えた。
帰りの電車の中で勇太はあきの言葉の意味を考えていたが、自宅に着くまでには気にならなくなっていた。