実習終了
病院実習はやる気のない女子もいて大変だったが、
「中島君、日吉先生から聞いたよ。ウチを受けたいんだってね。ホームページで募集かけると思うからチェックしておいたほうが良いよ。試験はさほど難しくないけど、薬理学や病態生理学はきちっと勉強しておいた方が良い。」
実習生の指導担当の薬剤師の木内がそう教えてくれた。
調剤だけでなく、病棟周りを同行したり、メーカーの勉強会にも参加したり、大変ではあったが、勇太には将来のための貴重な経験に思えていた。
そして実習が終わり、次の日は例の女子を除く9人で打ち上げを兼ねての飲み会をした。
「乾杯!」
「お疲れー!」
「レポートの提出来週だっけ?早すぎよね!」
女子たちを含めて実習のメンバーとはかなり打ち解けてきた。
「ねぇ、中島君。野上さんとはどうなの?」
「実習中は指輪外してたよね?」
「野上さんって2人きりのときはどうなるの?甘えてくる?」
「聞きたい、聞きたい!」
女子たちは前のめりになって勇太に聞いてきた。
「えっと…続いてはいるよ。」
『この人たちとあきは仲良くないし…』
勇太は女子たちがただの興味本位だけで聞いてきているのは分かっていた。あきの知らないところで色々言いふらすわけにはいかないと思ったので頭の中で言葉を選んでいた。
「ねぇねぇ、松下君と樹理奈って付き合ってるの?研究室一緒だったよね?」
話題が逸れて勇太はホッとしたが、
「そういえば、マンションも一緒だって誰かが言ってた。」
「美男美女だもんね。」
「松下君、最近彼女いるとか聞かないよね?」
「樹理奈の彼氏の話聞いたことないかも。いるの?芸能人してた時は週刊誌に撮られてたけど。俳優の武田シオンだっけ?」
「あれって相手の売名だったって。実際はドラマの打ち上げの後、たまたま隣で歩いてたところを上手く撮られただけらしいよ。」
「武田シオン、そのおかげで売れたもんねー。」
勇太は斜め前に座っている貴司の顔をチラッと見た。
貴司は気まずそうな顔をしていた。
「で、あの2人付き合ってるの?」
女子たちがまた勇太に詰め寄った。
「付き合ってないだろ。なぁ、勇太。」
賢二が勇太に変わって言った。
「う、うん!そんな話聞いたことないし。」
勇太は賢二が何故勇太の代わりに答えたか気になりながら言った。
「そっか、残念。」
「お似合いと思うけどなー。」
女子たちがまた話題を変えて盛り上がっていた。
『賢二、もしかして…』
勇太は賢二が貴司が樹理奈に好意を持っていることに気づいたのではないかと思った。
打ち上げを解散し、勇太は帰路を歩いていた。
突然、冷たく鋭い視線が突き刺さるのを感じ、振り返った。
誰もいなかった。
『何だ…今のは…マーキュリーの時の闇魔力の様な感じ…酔ってるから感覚が変なだけか、それとも…式神たちは…近くに2体いるけど…帰ったらペリドットや晴明にも聞いてみよう。』
勇太は小走りで自宅へ向かった。
「アイツが女王の男か…チッ、湿気た面してるな。あんなのどこが良いんだか…」




