水属性の中
「もう、どこに行ってたの?」
あきが少々怒り気味に勇太に言った。
勇太は晴明と建物の裏側に何かあるか見てまわっていたと嘘をついた。
勇太とあきは水属性の建物の中に一緒に入った。
建物の中とは思えない、清らかな川が流れている自然の風景が広がっていた。
勇太はオリーブと別れた後、あきと合流したのだった。
「オリーブ、俺はもう死んだんだ。だからここには戻ってこれないんだ。」
「…分かりました。あなた様がそうおっしゃるのなら。」
「すまない。ここを頼んだぞ。」
ペリドットの言葉に寂しげな顔をしたオリーブのことが勇太は気になっていた。
「どうしたの?」
あきが心配そうに勇太の顔をのぞきこんだ。
「…ここの景色がキレイだなって思ってさ。」
勇太はもっともらしいことを言って誤魔化した。
「あっちには海があるって。この川の水は木属性の方にも流れているって。」
あきは勇太の手を引いて川沿いを歩き出した。
川の水は魔力を帯びていて、人間界の水よりも透明でキラキラと輝いていた。
「そういえば、この水にどうやって魔力を加えているんだろう。」
勇太が言った。
「それは良いところに気がつきましたね。」
いきなり、後ろから声がして、勇太とあきは振り向いた。
「せっかくのラブラブ中失礼しました。お久しぶりです。カバンサイトです。」
高校生ぐらいの幼い顔つきの小柄の天然パーマの男が笑顔で言った。今日は青いオーバーオールを着ていた。
勇太はカバンサイトとは初対面だった。
「魔術界の物はすべて魔力を帯びています。もちろん、空気にも。敵がこちらに直接攻めてこないのはこちらに有利であるのが分かっているからだと言われています。」
カバンサイトは両手で川の水をすくって放り投げた。
水はふわふわと浮いた後、球状になってカバンサイトの手の中に戻ってきた。
「上流にヒントがありますよ。」
カバンサイトはそう言って球状になった水を川に戻してどこかへ去っていった。
勇太とあきは手を繋いで上流へ歩いていくことにした。
『自然に囲まれてのデートも悪くないな…』
勇太は次のデートはゆっくりと自然観賞ができる所にしようと思っていた。
「あっ、あれ!」
勇太が指差したのは何もない空中から川の水が涌き出ていた。
「どうなっているんだ?」
「たぶん、別の空間からきているんだと思う。」
あきが言った。
「別の?」
「行こっか。」
あきは勇太の腕を引っ張った。
結局、水の魔力の謎は分からずじまいだった。
「良かったわね。あきがあれに触らなくて。」
天守閣の中のある1室で、クォーツとアメジストが水晶玉を通して勇太たちを見ていた。
「さっき、不可視化させたからな。たぶんあきは気づいていただろうが。」
「覗き見とは悪趣味だぞ。」
2人の前に晴明が現れた。
「晴明様。」
「ちっ、違いますよ。監視です。アメジスト、後は頼んだ。」
クォーツがアメジストに水晶玉を渡して去っていった。
「…兄は、勇太と過去の自分を重ねているんです。きっと。」
アメジストが晴明に言った。
「ふーむ。」
晴明も水晶玉を覗いた。
「さて、どうなるか。」
晴明はうっすら笑みを浮かべた。