魔術界
勇太たちの目の前に広がっていたのはテレビの時代劇で見たことのある昔ながらの町並みだった。
後ろを振り返ると天守閣が高々とそびえ立っていた。
「ほぅ、模様替えしたのか。」
勇太の後ろにはいつの間にか晴明が立っていた。
「人が歩いている…」
貴司が言った。
現代の洋服ではなく、町並みに合う着物姿をした人が行き来していた。
「式神よ。ここでの作物を育てたりjewelsの生活のサポートをするためのね。」
ルビーが言った。
「イメージと違うなぁ…」
海斗が言った。勇太も同感だった。
「何か、勝手に洋風なイメージしてたよな。」
教授の後について勇太たちも町を歩し出した。
初めに大きく“銀行”と書かれた建物の横を通った。
「人間界のお金がここに集まって、魔術界のjewelsたちの働きに応じて分配される。俺の給料の一部なんかも。」
教授が説明し始めた。人間界で働いているjewelsの給料の一部や『Bar 蒼い石』の売り上げなどいわゆる、ルチルクォーツに徴収されている『税金』が銀行でルチルクォーツが管理しているとのことだった。
勇太たちの師匠をしたjewelsたちには『師匠手当』というボーナスも出るとも教授が言った。
『ペリドットはその手当でラーメン食べに行ったんだろうな。』
と勇太は思っていた。
建物の入り口が開いていたので中を覗くと、人間界にある本物の銀行と同じで受付カウンターと待ち合いの椅子が置かれていたが、式神はおろか、誰もいなかった。
「ルチルはあまり人前には顔を出さない。俺にすら、用事がある時は人間界に式神をよこしてくるぐらいだから。」
教授が言った。
次の建物には“光属性”、“木属性”、“水属性”、道を挟んで“火属性”、“地属性”、“無属性”と書かれた建物が並んでいた。
「それぞれの属性にまつわる研究所や水属性なら川や海、木属性なら植物園、地属性なら畑といったものがある。後で行ってみたら良い。個人の空間は体の中の宝石核に意識を集中して、手のひらを出すんだ。扉を開くイメージで。そうすると新たな空間が開く。宝石核は鍵となるんだ。空間といっても自分の部屋のようにカスタマイズしていったら良い。その後、魔術界を自由に見てまわるんだ。ただ、天守閣は魔術界の重要な場所ではあるから、誰か他のjewelsに声かけて欲しい。」
それぞれが自分の空間を開くのを試そうとしている時だった。
勇太は後ろから視線を感じて振り向いた。
黄緑色の着物を着た女性がこちらをじっと見ていたかと思えば、建物の影に隠れてしまった。
『誰だろう?俺たち以外は式神だって言ってたけど。』
勇太はそう思いながら空間を開いた。
勇太は何にもない真っ白な光景が広がっていた。
「ここが、俺の空間?」
「そうだ。主が許した者のみしか入れぬ空間だ。」
晴明が言った。
「晴明は入れるんだ…」
「それと、主よ。さっきの女の後を追ってやってくれ。」
「えっ?!何で?誰なの?」
「ペリドットのヤツがの…」
晴明はニヤニヤしていた。
勇太は自分の空間を出て、キョロキョロとさっきの女を探した。
女は“木属性”の建物の影からヒョッコリ姿を現したと思うと建物と建物の間にまた入ってしまった。
勇太は教授たちの姿がないのを確認して追いかけて行った。
女は途中で立ち止まっていた。
「お待ちしておりました。」
女は笑顔でお辞儀した。
真っ黒で艶やかな髪を後ろに束ね、雪のように白く透き通った肌で女性に疎い勇太でも美人だと思ってしまった。
「こちらへ。」
女は手を何もない所にかざした。
勇太は胸の辺りが熱くなったのを感じた。
「ん?これか…」
勇太は首にかけている五芒星のペンダントを取り出した。
真ん中にあるペリドットの宝石核が光っていた。
そして、勇太は光にのまれた。