屋上
お弁当を食べ終わって勇太と海斗は屋上に向かおうと廊下を出た。すると、
「中島君!松下君!」
と後ろから自分たちの名前を呼ばれた。ビックリして振り向くと貴司が1人で立っていた。
「あぁ、やっぱり野上さんを探しにいくんだね。僕も野上さんに聞きたいことあるんだけど、いつも野上さんいなくなっちゃうから探しに行こうと思ってたんだ。」
「今から屋上に行って聞こうと思っているんだけど一緒に行こうよ。」
勇太は貴司を誘った。
「そっか、屋上だったのか。僕も誘ってくれたらよかったのに。そうだジュ…原田さんも呼ばない?」
貴司は悔しそうに言うと、
「勇太はそう言ってたけど、原田も誘うとなると…なっ、めんどくさいだろ。」
講義室のドアからチラッと樹理奈を見て海斗が言った。樹理奈は取り巻きの女子数人と楽しそうに話していた。
それを見て貴司も納得した顔で頷いた。
3人は屋上に上ってきた。屋上の隅にあるベンチにあきが1人で空を見上げながら座っていた。
「あの…野上さん。聞きたいことあるんだけど…」
あきに近づきながら勇太が言った。あきはじっと勇太たちを見た。
「なんか分からないことだらけで、その…魔術修行ってどんな感じなの?」
あきは息を短く吐いて答えた。
「初めは魔力をコントロールする訓練をするの。師匠によって教えかたは違うみたいね。それができたら初級魔術師に昇進して、魔力を文字や記号の形に練って発動させる『術式』を使えるようになったら中級魔術師に昇進、術式同士を繋いで円や多角形の形に練って発動させる『魔法陣』が使えるようになったら上級魔術師に昇進。目指すのはここなの。」
貴司がまたメモをとっていた。
「Jewelsはさらに上なんだけどここまでは分かった?」
「師匠ってダイヤって人?俺たちはダイヤに教わるのか?」
海斗が聞いた。
「違う。jewelsの誰かが1人ずつ個別につくと思う。ダイヤは絶対私たちの前には出てこないわ。」
「ダイヤはなんで俺たちに姿を見せないの?」
今度は勇太が聞いた。
「分からない。」
あきに即答された。
「あの人たちの世界ってどんな感じなの?」
貴司がメモをしながら聞いた。
「たくさんの空間があってそれぞれ違うみたいね。『扉の空間』はそのうちの1つ。こちらの世界で生活している人もいるみたいだけど。」
「野上さんみたいに?」
勇太の質問にあきは少し驚いた顔をしたように見えた。
「私は5年前にあの人たちが扉を閉めてから魔術を使ったのは2回だけ…ルビーに頼まれ事をされた時だけでそれから魔術を使わないようにずっと監視されてた。あの人たちの中には元はこの世界の人間でjewelsまで昇進した人もいるみたい。」
「魔術師たちは元は違う世界の人間ってこと?」
海斗の質問にあきは少し考えて、
「魔術師の世界を作ったのはダイヤみたい。けれど、どれくらい前からあるのかまでは分からない。」
「サファイアってヤツと仲よさそうじゃん。聞いたことないのか?」
海斗がまた聞いた。
「サファイアは私の師匠なの。魔術師の世界、『魔術界』のことを質問したことあるけどjewelsに入らないと教えられないって言われた。」
「なんでjewelsに入らなかったの?」
勇太が聞いた。あきは勇太をじっと見て、
「…それは今は答えられない。」
と言った。
しばらくみな黙っていた。
「ごめん。私も知らないことがいっぱいあるのが正直なところよ。分からないことが出てきたらその都度聞いてくれたら教えれることがあればちゃんと教えるから。」
そう言ってあきはまた空を見上げた。
「ありがとう、野上さん。」
3人は屋上を降りていった。