本当のあき
「晴明様、分かっていたのなら何故?」
ジルコンがようやく口を開いた。
「何故?と。わしこそお前たちに問いたい。何故、気づかなかったのだ。大也よ、お前は弟子たちに表を任せすぎた。こんなことも気づかんとは。風子、お前もだ。わしの弟子ならすぐに気づいていいものを。」
晴明は教授とジルコンに言った。ジルコンは肩を落として落ち込んでいた。
「しかし、まだあきがスパイの可能性が残っています。」
クォーツが言った。そして、あきに近づいて、
「あき、お前を拘束する。」
と険しい表情で言った。
「スパイだなんて!そんな!」
樹理奈は叫んだ。
「もし、スパイならとうに俺たちを始末してると思うけど。」
海斗も言った。
「そうだよ!証拠がないじゃないか!」
貴司も言った。
しかし、クォーツはそんな3人をギロッと睨んで、
「スパイじゃない証拠もない。闇魔力核を隠し持っていた。それだけでも十分拘束する理由になる。」
そう言ってクォーツが術を仕掛けてくる素振りを見せたので、勇太も構えた。
「クォーツ、落ち着いて。俺たちは野上さんに色々助けられたんだ。だから、野上さんのこと、信じてるよ。」
勇太は盾の魔法陣をクォーツに向けて言った。
それを見た晴明はニヤニヤ笑っていた。
『何となく、晴明が思っていること分かるんだけど…』
たぶん、『漢になったな』とでも思われているんだろうなと晴明のニヤケ顔を見て勇太はそう思った。
「仲間意識が強いってことね。」
ルビーはため息をついて言った。
「皮肉にも魔術修行や今までの出来事のお陰でね。」
アメジストがクォーツの後ろに歩いて言った。
「確かにあきがスパイであるというのは少し考えにくいな。確率的にも低い。」
モリオンが言った。
「クォーツ、中島君、止めるんだ。野上さん、事情を我々に説明してくれるかい?」
教授がクォーツと勇太の間に割って入った。
「…分かりました。」
あきは教授に向かって歩き出した。
「今日の修行はここまで。」
教授がそう言うと勇太たちは元の研究室に戻っていた。
『そうだ、野上さん…』
勇太はキョロキョロしてあきが戻っているか探した。
あきは自分の実験台の前に立っていた。
『良かった、元気そうで。』
勇太と目が合ったあきが少しはにかんだ。
『クォーツから拷問とか受けてなさそう…かな。』
『あぁ、大丈夫だ。』
頭の中で晴明の声がした。
『一応、念のため監視をつけるにとどまったがな。』
それを聞いて勇太は安心した。
勇太は気持ちが高ぶっているのを感じた。
『さっき、目が合ったとき笑ってくれた…』
ものすごくうれしかったが、冷静になるように努めた。
「私たちは少し出るわね。」
助手が教授と共に研究室を出ていった。
「ちゃんと私の口で説明するね。」
あきが話始めた。
闇魔力核を入れられた後、親友を亡くした悲しみが沸き上がってきたことで、感情ごと『紅色封印術』で闇魔力核の力を封じたこと。
その後、サファイアとの修行が始まり、水属性を習得し、ジルコンから陰陽術を含めた無属性を教わり、属性を2つ習得したが、jewels入りを拒否したのはやはり闇魔力核を持っていたからだということ。
これ以上戦いに関わりたくない、周りも巻き込みたくない、親友の死も自分のせいかもしれないと思い、闇魔力核の存在を隠し続けてたこと。
半年前に再び扉が開いたときに、自分がjewels入りを拒否したせいでみなを巻き込んでしまったことに後悔したこと。
ルビーやクォーツにみなの修行を止めるよう懇願していたこと。
大学内の敵の潜入を突き止めればみなを解放できると思っていたが、かえって魔術界により関わることになってしまったこと。
勇太奪還の時の晴明の攻撃が『紅色封印術』にダメージを与えてしまい、闇魔力核の力を抑えきれなくなることを悟って、闇魔力核の力を抑えるのではなくコントロールする方向に変えて密かに術の研究をしていたこと。
そして、今回、人間界で影響を及ぼさないように、サファイアに『扉の空間』に呼び出された時に、闇魔力核の力を解放し、コントロールすることに成功したこと。
教授からは闇魔力核が暴走しないように、金属中毒が接触してこないように今まで以上の監視をつけると言われたことを話した。
話している時のあきの表情は悲しそうだったが、最後は少し笑っていた。
「信じてくれてありがとう。」
『これが、感情を取り戻した本当の野上さんの表情なんだ。』
勇太はあきを見てそう思った。