あきの記憶
「はぁ…はぁ…」
あきは胸を押さえながら立ち上がった。
胸を押さえている手の指の間から黒いもやが漏れ出ていた。
「沙耶香…ゴメン…」
あきは深呼吸した。
「図書館で読んだやつ…陰陽術の…落ち着け…」
あきはまた深呼吸した。
あきの足元に大きな魔法陣が現れた。魔法陣は赤く光っていた。
「あれは『紅色封印術』だ!陰陽術ベースの封印術なんだけど…」
貴司が叫んだ。
魔法陣は浮き上がってあきの体を通って胸の辺りの高さで止まった。
また足元に大きな魔法陣が現れて、胸の辺りまで浮き上がってはまた足元に大きな魔法陣が現れてが繰り返された。
「この封印術は自分に対しての呪いなんだ…野上さん、闇魔力核を封じるつもりなのか…」
魔法陣はあきの腰まで連なっていた。
あきは手をゆっくり上げた。
連なった魔法陣は弾けて小さな赤い玉になって数珠繋ぎにくっつき、あきにグルグル巻き付いた。
「紅色封印術、発動…」
あきがそう呟くと数珠玉は赤く光り、消えた。
あきは胸を押さえていた手を離した。表情に笑顔も悲しみも何もなかった。
『表情が…前の野上さんの顔だ…感情がないみたいに…』
勇太がそう思っていると周りがまた光に包まれた。
勇太たちはまた別の場所に立っていた。
真っ白で何もない場所だったので『扉の空間』に戻ってきたと思ったが、附属高校の制服を着たあきが目の前に立っていた。
あきの前にはワインレッドの袴を履いた装束を着た女が立っていた。
勇太たちが見たことがないjewelsだった。
「あき、私との修行は今日でおしまいね。」
女は寂しげに言った。
あきは表情を変えなかった。
『これも野上さんの記憶…闇魔力核を入れられた後の記憶なのか…』
無表情のあきを見て勇太はそう思った。
「これ、あげる。私の研究室の中のと繋がってるからなかなか減らないと思うけど。」
そう言って女はあきにタブレットケースを渡した。
『あれは…ってことは!』
見覚えのある、あきがいつも持ち歩いているタブレットケースだった。
『これ、いなくなる直前にガーネットにもらったの。』
女の正体は今現在は行方不明だと言われているガーネットだと分かった。
「あの人がガーネット…」
勇太がつぶやくと、3人は驚いて勇太の方に振り返った。
「えっ、あの人が?!確かにtwelvesの特徴は袴の色が宝石の色と一緒だから。」
貴司も納得していた。
「いなくなった人…?いなくなった理由を野上さんは知ってるってこと?」
樹理奈が首をかしげた。
以前、勇太にもガーネットがいなくなった理由は知らないと言っていた。
「ここだけの話、他の2人は記憶を消されるって。つまり、フェードアウト。あき1人になってしまうけど。でも、あなたは1人じゃないわ。私は陰ながらあなたを応援してるから。次の師匠はサファイアなんだけど、弟子思いで有名なの。サファイアもあきにとって良い師匠になるよ。」
ガーネットはあきに微笑んだ。
勇太にはその様子があきとガーネットが姉妹関係にも見えた。
あたりがまた光に包まれた。