蛍の導き
「これは?」
光は勇太の前で止まったが、浮いている状態でも動きがふらふらとしていた。
「蛍みたい…あっ!」
貴司が声をあげた。樹理奈も何かに気づいてハッとした。
「魔力蛍!」
貴司と樹理奈が同時に叫んだ。
「もしかしてこの前のヤツか…」
海斗が言った。
勇太はようやく、晴明に憑依されていた時に道案内役だった魔力蛍のことだと分かった。
「へぇ…これが。でも蛍っていうよりおにぎりみたいな大きさだな。」
勇太は魔力蛍を両手で掬おうとした。
「前見た時よりかなりでかくなってるよな。成長したのか?」
海斗は魔力蛍を覗きこんで言った。
「とにかく師匠に報告しないと。」
クォーツが言った。jewelsたちは集まってまだ揉めていた。
「ダイヤは気づいているかも。最近になってあきのjewels入りに難色を示してたから。疑問に思ってたけど、気づいていたのなら納得よ。」
エメラルドが言った。
「その蛍は無理矢理好みでない魔力を喰わされた様だな。」
突然、勇太の背後に晴明が現れた。
「うわっ!晴明!…もしかして晴明は野上さんのこと気づいてたとか?」
貴司が晴明に聞いた。
「わしを誰だと思っているのだ。」
晴明はニヤリと笑って言った。
「じゃあやっぱり…」
勇太のなかで、ペリドットが言っていた秘密の1つで、『魔術界を揺るがす大きな秘密』がこのことだと確定した。
「晴明様!」
クォーツたちが晴明に気づき、近づいてきた。
「主よ、その蛍を手にのせるのだ。優しくな。」
勇太の手が魔力蛍に触れた途端、魔力蛍から強い光が放たれた。
勇太たち4人は光に飲み込まれていった。
「ここは…」
光が収まると、勇太たちは『扉の空間』とは全く異なる場所に立っていた。
「学校の中の教室みたい。」
樹理奈が言った。
机と椅子がきちんと並べられていて、教室の前には大きな黒板とグランドピアノが置かれていた。勇太たちは教室の後ろ側にあるドアのそばに立っていたのだ。
「音楽室…みたいだな。」
海斗がキョロキョロ見回しながら言った。
「音楽室…附属高校の音楽室に似てる…」
貴司が言った。
ふと、黒板の前に女子学生が3人立っていた。
3人とも附属高校の制服を着ていた。
「明日の練習メニューはこれでいこうか。」
「じゃあ、帰ろっか。」
「ゴメン。私、もうちょっと残るね。」
「じゃあ、あき、鍵お願いね。」
勇太たちは女子学生たちのやりとりを見ていた。
女子学生2人がカバンを持って教室から出ていった。
2人とも勇太たちのそばを横切ったが勇太たちがいないかのように、全く目もくれなかった。
残った女子学生は附属高校の制服を着たあきだった。
「やっぱりここは附属高校の音楽室だ。確か、野上さんは吹奏楽部だったし。」
貴司が言った。
「じゃあ俺たちは野上の高校時代の過去にいるのか?」
海斗が言った。
「でも、野上さんもさっき出ていった2人も俺たちのこと気づいてないよ。」
勇太が言った。
「過去じゃなくて…記憶だとしたら?」
貴司が言った。
「自分の記憶や思念体を魔力に込める術なのかも。でも、ただの記憶じゃない。僕たち、野上さんの視点にいないから…記憶を再現しているのに近い…かなりレベルの高い術だと思う。」
勇太は教室を出ていった2人に笑顔で手を振っていたあきが、2人が見えなくなると険しい顔になったのに気づいた。