貴司の秘めた想い
「そういえば、ラピスラズリさん。」
貴司が話題を変えた。
「コスモオーラって人、いますか?」
「いたけど、やられてしまったわ。」
ラピスラズリが悲しそうに言った。
「そっか…」
「貴司、コスモオーラを知ってたのか?」
モリオンが聞いた。
「いや、ちょっと気になって…」
貴司は言葉を濁した。
勇太は樹理奈の話をだと分かった。
「先日、あきと樹理奈って子にもコスモオーラのこと聞かれたわ。樹理奈って子、コスモオーラのアイドルグループの子だったのね。コスモオーラは人間界で存在を消してしまったけど覚えていてくれた子がいたなんて。少しうれしかったわ。」
勇太たちにとっても、『こすもおーら』のプロデューサーの三輪宙人が魔術師のコスモオーラだったことがはっきりした。
『来てたんだ…』
勇太はあきとすれ違いだったことに内心がっかりしていた。
「じゅ…原田さん、それで最近元気なかったんだね。」
貴司が言った。
「なぁ、大林!」
海斗がニヤニヤしながら貴司の肩に腕をまわした。
「原田のファンだったのか?」
貴司は顔を真っ赤にしていた。
貴司は何度か樹理奈のことを『原田さん』ではなく『じゅ…ーJuri』と呼びかけていたことがあったので、勇太も気づいていた。
「あら。」
ラピスラズリは微笑んでいた。
「んー?」
モリオンが貴司をじっと見た。
「う、うん!でも!言わないで!原田さんにだけは!」
貴司は顔を真っ赤にしたまま必死で言った。
恐らく、樹理奈とあきも気づいていることだと思っているが勇太も海斗もそのことは黙っていた。
「多いよね。原田さんってやっぱり人気だったんだ。ウチの兄貴もファンだったみたいだし。この前、『彼氏いるのか?』って聞かれたよ。」
勇太が言った。
「本当に言わないで!」
貴司は必死に勇太たちに手を合わせて言った。
「別にもう隠すことないと思うけど。だいたい、原田目当てに入学してきたヤツ、わんさかいるのに。」
海斗が言った。
入学当時、樹理奈は薬学部以外の生徒によく絡まれていた。中には告白する者までいたのだった。
「僕はその…たまたまだったんだ!Juriが一條学園薬学部を受けるって噂は知ってたけど、まさか本当だったなんて…しかも研究室まで一緒で…」
貴司はカクテルをイッキ飲みした。
「あらあら。無理しないでね。」
ラピスラズリが言った。
「ファンだったことは原田さんに打ち明けないの?」
勇太が貴司に聞いた。貴司は少し落ち着いた様子だった。
「うん。だって僕がファンだって知ったら気持ち悪がられるんじゃないかって…僕も追いかけて入ってきたんじゃないかって。研究室も一緒だし、ストーカーだと思われてしまいそうで…」
「大林君の成績で原田さんはそんなこと思わないと思うけど。」
「なぁ、貴司。そいつのどういう所が好きでファンになったんだ?」
ずっと黙っていたモリオンが貴司に聞いた。
「…デビュー直後たまたまテレビの特集で取り上げられているのを見て…輝いてたんだ…キラキラしてたというか、応援したくてなってしまって…」
「あの子、オーラがあるわ。コスモオーラからも話を聞いたことあったわ。『まるで天使だ。逸材だ。アイドル界のトップになれる。』って。それにキレイな子だしね。 」
ラピスラズリが言った。
「彼氏いるんだろうか…」
貴司はポツリと呟いた。
「聞いたことないよね。」
勇太が言った。
「大林、やっぱり。」
海斗はまた貴司の肩にニヤニヤしながら腕をまわした。
「原田が好きなんだな。」