モリオンとバー1
勇太たちはフリータイム中ずっと歌って、カラオケ店を出た。
会計はモリオンが4人分支払ってくれていた。
「モリオン、ありがとう。」
貴司がモリオンにお礼を言った。
「良いってことよ。」
「魔術師なのに人間界のお金、持ってるんだな。」
海斗がこそっと勇太に耳打ちした。
「ホントだ…」
勇太も納得だった。
「一応、俺も人間界で働いてる身なんでね。」
モリオンが言った。勇太たちの会話が聞こえていたようだ。
「飯、食いに行くか?」
モリオンが言った。勇太たちはモリオンについていくことにした。
モリオンは人気のない路地裏に入った。
「誰も見てないな。」
モリオンはあたりをキョロキョロして言った。
「半径1㎞人の気配なし。よし。」
モリオンを中心に地面に魔法陣が現れた。
「移動するぞ。取りあえずこの魔法陣を踏め。」
勇太は突然、モリオンが魔術を使ってビックリしたが、慌てて魔法陣を踏んだ。
3人が魔法陣を踏んだ途端、周りの景色がグニャリと曲がった。
すると、どこかの建物の廊下に4人は立っていた。
薄暗い廊下に赤いカーペットが敷かれていて、奥の方に小さな看板が光っていた。
「あっ!ここって!」
勇太は思い出した。
看板には“Bar 蒼い石”と書かれていた。
「“Bar 蒼い石”って…」
貴司も思い出したようだった。
「魔術師が経営している大学の近くのバーだ。色々話を聞きたそうにしてるからな。人間界ではここが一番気兼ねなく話することができる。」
モリオンは海斗をちらっと見て言った。
モリオンはバーの扉を開けた。
「いらっしゃい。あら、珍しいわね。モリオンに連れがいるなんて。」
金のスパンコールがキラキラと光る青いドレスを着たラピスラズリが笑顔で4人を迎えた。
「ラピス、奥の部屋は空いてるか?」
モリオンが聞いた。
「空いてるわよ。」
ラピスラズリは4人を奥の部屋へ案内した。
途中、厨房にはカイヤナイトを含めた数人の青いドレスを着た女性が出入りしているのが見えた。
「元気そうで良かったわ。」
部屋のソファーに腰かけた勇太を見てラピスラズリは言った。
「あっ、その節は…」
勇太は慌てて頭を下げた。
「良いのよ。色々あってどうしてるかなって心配してただけだもの。」
ラピスラズリは勇太に微笑んだ。
「さぁ、何飲む?」
モリオンは並んで座っている勇太たち3人にメニュー表を見せた。
「ファーストドリンクだけはサービスするわ。それ以外はダメなのよ。ルチルがうるさくって。」
ラピスラズリが言った。
「ルチル…ルチルクォーツって…」
海斗が言いかけた。
「そう。『銭ゲバ』のルチル。」
ラピスラズリがうんざりした顔で言った。
「アクアから聞いたことあるな…」
「アクアの給料、ルチルが狙ってたからな。アクアもうんざりしてたな。ラピス、俺はいつもので。」
モリオンが言った。
勇太は知らないjewelsの名前が出てきてペリドットに聞いてみようと、ペンダントに意識を集中させようとしたが、
『やめておけ。』
と頭の中で晴明の声がした。
『えっ?!』
晴明に聞き返そうとしたが、頭の中で晴明の気配も感じなかった。
「どうした?」
海斗がずっと黙っている勇太を見て言った。
「何でもない。俺も同じカクテルで。」
そう言うとラピスラズリと目が合った。
『そっか、この人がいるから…』
ラピスラズリと目が合った瞬間、勇太の考えていることが見透かされているような気がした。
『俺が下手にペリドットや晴明とコンタクトを取ろうとしてもこの人にはバレそうな気がする。だから晴明は警告したのか…』
「じゃあ、お酒とおつまみと持ってくるわ。ごゆっくり。」
そう言ってラピスラズリは部屋を出た。