モリオンとカラオケ
「モリオン!」
貴司は驚いて立ち上がった。突然入ってきた人物はモリオンだった。
「おいおい、カラオケに来て歌わないって何しに来たんだよ。」
そう言ってモリオンはグラスをテーブルに置いて貴司の横に座った。
『この人がモリオン…』
勇太はモリオンと会うのは初めてだった。
「そうだ、モリオン。罠があったんだ…」
「あぁ、分かってる。」
モリオンはふーっと息をついた。
「こんな人混みで仕掛けてくるとはな。ヤツらも焦ってるな。」
「何で俺たちのいる場所が分かったんだ?」
海斗が聞いた。
「自分で作った道具の居場所ぐらい簡単に分かるさ。」
モリオンは当然のように言った。
『この人、ペリドットが言うには…』
勇太は数日前にたまたまペリドットからモリオンのことを聞いていた。
「魔術界で研究者と呼ばれる、魔術を伴った道具や植物を開発した功労者は3人だ。オニキス、ガーネット、モリオンだな。」
「でも、オニキスもガーネットもいないんじゃ…」
勇太が言った。
「だから大きな痛手なんだ。オニキスは魔術道具の基礎を作った。ガーネットは魔術と人間界の植物のざくろを融合させて『魔ざくろ』を開発し、それを応用して食べ物や薬を作った。お前によくやってたチョコレートもその成果の1つだな。オニキス亡き後、研究を引き継いでいるのはモリオンだ。」
『ほんと、いかにも『研究に没頭してる』ような見た目だな。』
勇太はそう思った。
「芽が出る前に潰そうとしているんだろうな。師匠のオニキスとガーネットの発明はヤツらをかなり追い詰めた。ガーネットは相変わらず行方不明のままだが、オニキスがやられたのはこちらとして相当なダメージだったからな。無属性のトップでもあったから。だから新たに無属性魔術師でかつ研究者と成りうる貴司を狙っているんだろう。」
勇太にはモリオンの目が少し悲しそうに映った。
「まさか、あんたも狙われているんじゃ…」
海斗が言いかけた。
「その通り。散々刺客を放って来てくれている。だが、俺も用心深い性格なもんでね。」
モリオンがニヤッと笑った。
『モリオンはかなり用心深い。自分の空間や研究所に誰も入れない。式神すらも入れない。自分の式神が誰かに乗っ取られることもあるから。だが、かなりの頭脳派でもある。あらゆる事象の可能性を計算して行動するからムダがないんだ。ダイヤたちがお前を晴明殿の“器”にしようとしてることもいち早く気づいてくれたから前もって色々準備して対応してくれたな。』
勇太はペリドットの言葉を思い出していた。
「今のところヤツらと直接は接触していないな。まぁ、今は大丈夫だ。この店にはヤツらは入れないように色々と仕掛けているから。」
部屋に店員がラーメンや焼き飯、ポテト、唐揚げといった食べ物を運んできた。
「さっき俺が注文しておいた。おごってやるから遠慮なく食べたら良いぞ。」
モリオンはポテトをつまみながら言った。
そして、モリオンはデンモクを操作しだすとデモ音楽が止まった。
「お前らが歌わないなら俺が先に歌うぞ。」
ロック調の音楽が流れ、モリオンは歌いだした。
モリオンは音程を全く外さず、抑揚や声量も原曲通り歌っていた。
『見かけによらず、意外と上手いな。』
勇太と海斗は目が合った。
モリオンの歌を聞いているとお互い口元が緩んできたのが分かった。
「次、俺が歌うわ。」
海斗がデンモクを操作して次に歌う曲を予約した。




