休日の罠
休日、勇太と海斗と貴司であきと樹理奈へのバレンタインデーのお返しのお菓子を買いに繁華街へ行った。
「ここのマカロン、今人気らしいんだ。」
洋菓子店に入ると女子で溢れかえっていた。
『女子だらけ…男は俺たちだけ…』
勇太と貴司は一瞬躊躇したが、海斗は堂々とショーケースに向かって行くので慌てて追いかけた。
「ねぇ、あの人かっこ良くない?」
店にいる女子からそんな声が聞こえた。
『海斗のことだろうな。』
ただでさえ男だけで入店して目立っているのに、海斗に気づき始めた女子たちの視線を感じながらマカロンが15個入ったセットを買って店を出た。
「文子先生と金剛先生の分も入れたら余裕で足りるな。よし、行くか。」
「あっ、ゴメン!トイレ行かせて!」
そう言って貴司はトイレへ向かった。
勇太と海斗は2人きりになった。
勇太は先日の海斗とあきとのやり取りをずっと気にしていた。
海斗に野上さんのことを聞いてみるか、でもそんなことを聞いたら自分が野上さんに気があることがバレバレ…そう考えていると、
「そろそろさ、勇太に言おうかと思うんだけど…」
海斗が口を開いた。
『まさか…?!』
勇太は固唾を飲んで覚悟したときだった。
ズーンと地面が大きく唸り、体を押し潰されるような冷たく大きな圧力を感じた。
「何だ?!地震か?!」
勇太は辺りを見回しても、周りの通行人には何事もなかったかのように歩いているだけだった。
「俺たちしか感じなかったってことは…」
「魔術?!…この感じ、この前マンガニーズと戦った時に似ている…大林は?!」
海斗と勇太は貴司が向かったトイレに向かって走り出した。
「大林君!」
貴司はトイレの入り口に立っていた。
「僕は大丈夫だけど、みんなは?」
貴司はケロッとしていた。
その様子を見て勇太は安心した。
「大林君も感じた?」
貴司は足元を指さした。地面からうっすらと煙が出ていた。
「罠が仕掛けられてたよ。」
「えっ?!どういうこと?」
勇太は驚いて聞いた。
「トイレに入る前に『罠発見器』が作動して、ライトが罠の魔法陣を照らした途端に罠が爆発したんだ。」
勇太と海斗が感じたのは魔法陣から溢れ出た闇属性の魔力だった。
「あらかじめ俺たちの行動を予測していたのか、あるいは…」
海斗が辺りをキョロキョロ見回した。
勇太は後ろから視線を感じ、振り返った。
黒いローブを着て、フードですっぽりと顔を隠した人物が離れた所にある柱の陰からこちらを見ていたが、勇太が振り返った途端に姿を消した。
「今、誰かがこっちを見てた…」
「何?!」
海斗も勇太の視線の先を見た。
3人はしばらく体が固まったまま動かなかった。
3人はカラオケ店に入ったが、何も歌わずにじっと椅子に座っていた。
本来ならご飯を食べながら歌う予定だったが、罠の件ですっかりそんな気分ではなくなっていた。
デモ音楽だけが明るく流れていた。
「入るぞ。」
突然、ボサボサの髪に黒ぶちの円い眼鏡をかけ、無精髭を生やし、くたくたのパーカーを着た男が烏龍茶が入ったグラス片手に勇太たちがいる部屋に入ってきた。