嫉妬
「海斗!」
戦いの気配を感じた勇太とあきと樹理奈と助手も駆けつけた。
「松下君、怪我してるじゃない!」
樹理奈が言った。海斗はマンガニーズに殴られて、頬が赤く腫れ上がり、口の中を切って口から血を流していた。
「大丈夫…いてっ…殴られただけだから。」
海斗は殴られた方の頬を押さえて言った。
「魔術で傷ついたところは魔術で治したら良い。今回は魔術による攻撃ではなく、ただ殴られたものだが、男前の顔がいつまでも傷ついていたら言い訳するのも大変だろう。」
教授がいたずらっぽく笑いながらそう言うと、助手が海斗の頬に手を当てた。
手が一瞬光り、助手が手を離すと海斗の頬の腫れがひいて元に戻っていた。
クォーツ、ルビー、サファイア、エメラルド、ジルコンも現れた。
「魔術界に連れて帰ってくれ。俺たちは報告に行ってくる。」
教授はクォーツたちにマンガニーズを指さして言った。
マンガニーズは悔しそうにクォーツたちを睨んでいた。
「君たちは研究室に帰ってなさい。もう、人払いは解いて良い。」
そう言って教授と助手は姿を消した。
「無事で良かった。」
エメラルドがニッコリして言った。
「じゃあ、俺たちも行くか。」
クォーツがそう言うと拘束されたマンガニーズと共に消えた。
勇太にはクォーツはわざと自分を避けているように感じた。
5人は研究室に戻った。
「何でまた急に襲ってきたんだろう。」
樹理奈が言った。
「…僕が標的だったみたいなんだ。」
貴司がうつ向いて体を震わせて言った。
「大林君が?!」
勇太は驚いて言った。敵が貴司だけの命を狙っている理由が分からなかった。
「大林君、モリオンの魔術道具の開発を手伝っているって言ってたわよね?」
あきが貴司に言った。貴司は頷いた。
「それかも。魔術界にとってオニキスが殺られて痛手な理由の1つが魔術道具の開発者の人手が減ったことみたいだから。大林君がオニキスの代わりになったら厄介だって思ったのかも。しかも、大林君はオニキスと同じ第一属性は無属性だし。」
貴司はポケットからポケットからマッチ箱ほどの小さな黒い箱をと取り出した。以前、勇太奪還の時にモリオンから渡された『罠発見器』だった。
「モリオンが改良してくれたんだ。闇属性を感知できるようにしてくれて。さっき、マンガニーズが後ろにいた時にバイブが作動したからまさかと思ったんだけど。」
「だから、すぐに気づいたんだな。」
海斗が言った。
「野上、『化学反応』を教えて欲しいんだけど。」
あきや海斗がマンガンを酸化させたり、過酸化水素を発生させたりするのは水属性魔術の中の『化学反応』と呼ばれる術だった。
「松下君、スゴかったよ!あの場であんな術を使えるなんて!」
貴司が興奮気味に言った。
「前に野上が使ってたのを真似しただけだったけど、ダメだったな。『扉の空間』で教えてくれないか。」
海斗とあきは『扉の空間』に行って戻ってきたのであろう、
「ありがとな。」
と海斗は言った。
『『扉の空間』に行っても人間界にいる人間には何の違和感も感じない…こういうことなんだな。』
しかし、勇太はあきと海斗のやり取りを見ていると心の中がモヤモヤしているのに気づいた。
海斗に対して悔しいような、苛立ちのような心の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚だった。
『俺…海斗に嫉妬してる…』
勇太は男前で、勉強もできて、運動神経も良くて、モテている海斗のことを羨ましいと思ったことはあったが、嫉妬を感じるのは初めてだった。
勇太は自分の胸の辺りをぎゅっと握った。
『悔しいならお前も頑張ってあきにアプローチすれば良いじゃないか。』
頭の中でペリドットの声が聞こえた。
『…まさか、海斗も野上さんのことを?!…考えすぎかな…?』
海斗への嫉妬心がそう思わせているのかと勇太は思うようにした。