宝石核(ジュエルコア)
「勇太、久しぶりだな。」
ペリドットが笑いながら言った。
勇太は涙が出そうなくらいうれしかった。
半透明なペリドットの体をじっと見ていると、ペリドットの足下に落ちている橄欖石から出ている光がホログラムの様にペリドットを映し出しているのが分かった。
「こいつは俺の宝石核の片割れだ。」
ペリドットが足下の橄欖石を指差して言った。
「条件を満たしてjewelsに入るときにダイヤから宝石とその宝石の名前をもらうんだ。それが宝石核だ。半永久的に光輝く宝石に自分の魔力核を入れることで、宝石の持つ神秘の力が魔力核と魔力の力を高めてくれる。それが宝石核だ。」
「じゃあ、jewelsはみんな宝石核を持ってるってこと?」
「そうだ。」
「『片割れ』って?」
「俺の宝石核はもともと丸いものだったんだが、真っ二つに割ったんだ。」
ペリドットは真剣な顔になった。
「こいつをお前に預かってもらうために…お前に伝えたいことがあったから…」
ペリドットは深呼吸をした。
「俺は魔術界を裏切った。」
勇太は未だにペリドットが裏切っていたことが信じられずにいたが、改めて本人の口から聞いてまたショックを受けた。
「なんで?」
勇太は聞きたくない気持ちもあったが思いきって聞いてみた。
「まだお前の師匠をしている時だった…」
ペリドットが話始めた。
ちょうど勇太から薬学部について話を聞いた日だった。
ペリドットは150年ぶりに人間界に出た。
薬学部の校舎から少し離れた附属高校の校舎の屋上から変わってしまった人間界を眺めていた。
『これが、今の人間界か…』
見たこともない形の大きな建物、きっちりと舗装された道路には色とりどりの車輪のついた箱が動いている…そんな景色に驚きと戸惑いが入り交じった気持ちだった。
「お前はペリドットね。」
ペリドットは驚いて後ろを振り向くとマーキュリーが立っていた。
人間界の景色に驚きすぎて金属中毒に対して全く警戒していなかった。
ペリドットが慌てて構えようとした。
「可哀想な人よね。だって、騙されて魔術界に入っちゃったんだから。」
マーキュリーが本気で哀れむような顔で言った。
「騙されただと?」
ペリドットは術を発動させる構えをした。
「あら、お文って女の正体、まだ気づいてなかったの?少し調べたら分かることなのに。」
マーキュリーはニヤリと笑った。
「図書館の禁書の中に『C60-4』って書かれた本があるわ。その本には封印の術が5重もかけられてる。その封印を解いたら分かるわよ。」
そう言ってマーキュリーは姿を消した。
気になってしまったペリドットはその夜、図書館に忍び込んで禁書の棚の『C60-4』と書かれた本を見つけた。
ページをパラパラめくっても、どのページも白紙だった。
『封印術がかけられている様にも見えないが、何にもかかれていないのに禁書扱いってのも変だな…』
ペリドットは本の表表紙に手を当てた。
封印解除の術を5回かけた。
すると、本のタイトルが『C60-4』から『Fullerene4』に変わった。
「Fullerene…フラーレン?」
ペリドットはフラーレンという魔術師の存在は知っていたが会ったことがなかった。
ページをめくった。
「…これは!?」
ペリドットにとって衝撃的な内容だった。
「勇太…お文はな…フラーレンだったんだ…」
ペリドットは声を震わせながら言った。
「今のフラーレンの3代前のフラーレンだったんだ…フラーレンってのは時代ごとにいたダイヤの娘が代々受け継いでいるんだ…まだ魔術修行の身の俺たちを監視していた…お文も4人目のフラーレンだった…マーキュリーは『お文シリーズ』って言ってたな…フラーレンを受け継いだ娘には『文』という名前がついている…」
今のフラーレンである助手も『文』子だ。勇太はまさかペリドットが話していたお文と助手が時代を越えた姉妹だったことに驚いた。