豹変したペリドット
「晴明、『扉の空間』に行こう。」
「主の命とあらば。」
晴明に連れられて勇太たち5人は『扉の空間』に来た。
「晴明様に…えっ?!勇太も?!」
ルビーが驚いて言った。
「フラーレンは優しいからね。押しきられたんだろう。」
サファイアも言った。
「ペリドットは?」
勇太はルビーとサファイアが立っている後方にエメラルドと少し離れてつる状の植物にぐるぐる巻きにされている人の様なものがあるのに気づいた。
「エメラルド、それは何?」
樹理奈が聞いた。
「…ペリドットよ。でももう違う…化け物…」
「ぐぉぉー!」
叫び声と共に、つる状の植物がブチブチと音をたてて切れ、その間から大きな銀色の腕が2本伸びた。
「『魔力蔓』で抑えれるのも限界ね…」
つるが完全にほどけてペリドットが姿を現した。
ペリドットの目は充血して目を大きく見開いて、黒目は蛇のようにぐるぐる動き回っていた。背中には先ほど見えた大きな銀色の腕が生えていた。
樹理奈は思わず涙目になって両手で顔を被った。
「驚くのも無理はないよ。 」
サファイアが近づいてきて言った。
「マーキュリーの術にジワジワと犯されていた様だ。俺たちが気づいたときはもう…」
「そんな…ペリドット!」
勇太がペリドットに向かって叫んだ。
「アベノ…セイ…メイ…ノ…ウツワ…コロセ…」
ペリドットは勇太を見て、片言でたどたどしく言うと背中の腕が勢いよく勇太にめがけて伸びてきた。
「ふむ。」
晴明が勇太たちの前に立ち、手で円を描いた。
すると、大きな魔法陣が晴明の前に現れ、ペリドットの攻撃を防いだ。
腕は魔法陣の盾に当たってグニャリと不自然な角度で曲がり、そのまま元の長さに縮んでいった。
「あの背中の腕はマーキュリーのもの?」
あきがサファイアに聞いた。
「そうだろうな。」
勇太はまだ状況を飲めずにいた。ペリドットから攻撃されたショックもあり体が動かなかった。
「問題はほぼ魔術界にいるペリドットがいつマーキュリーと接触したか。」
サファイアが腕組みしながら言った。
『なぁ、ラーメン好きか?この前、150年くらい久々に人間界に行ったんだ。』
勇太はペリドットがターコイズとラーメンを食べに行った話をしていたことを思い出した。
『まさかその時…?!』
中級魔術師になる直前、ペリドットは何か落ち込んでいる様子を見せていた。
勇太はポケットに手を当てた。
ポケットに入ってる携帯電話のストラップにしている黄緑色の巾着はその後、ペリドットがくれたものだった。
『あの時も、ペリドットの様子が変だったな…』
ひどく汗をかいて、何か焦っている様子だった。
それから1人でニヤニヤしたりと明らかにおかしかった。
『俺、ペリドットの様子が変なのに気づいてたのに…』
勇太は拳をぎゅっと握った。
『主よ。悲観するでない。前を向くのだ。』
勇太の頭の中で晴明の声が響いた。
『そうだ…ペリドットとラーメン食べに行く約束してるんだ…』
勇太はまっすぐ変わり果てたペリドットを見た。
あの優しかったペリドットの面影がなく、舌をダラリと垂らし、背中を丸め、大きく見開いた目をギラつかせていた。
勇太は認めたくなかったが、エメラルドが『化け物』と表現したのが正しいように感じた。
「晴明、どうすればペリドットをもとに戻せる?」
勇太が聞いたが、晴明は黙ったままだった。




