捜査開始
ここで一つの都市伝説を紹介しよう。DNAについてのものだ。もちろん某秘密結社と似たような存在であると言ったものだ。なかでもその本部の場所は特に都市伝説の数が多い。DNAはかつての警察とは違い本部を秘匿している。もちろんそれを知るのは一部の関係者のみで総理大臣にも知らされていないと言われている。DNAに勤める99パーセントの人間が支部で一生を終える。そのためか富士山の火口にあるだったり、国会議事堂の地下深くに存在するだったりと憶測が飛び交っている。
つい先日まではそんな都市伝説を馬鹿らしいと気にかけていなかったが、現実問題として呼び出されてしまったのだから彼らの間違いを正したいところである。勿論そんな事をすれば特殊部隊何かが出てきて口封じのために殺されることになるだろう。まあそんなものがいればの話だが。
しかしそんな些細な事よりも俺の中にあったのは出世への希望だった。支部で働きはじめて3年。ようやく、一人で案件を扱う事を認められこのままいけば係長くらいにはなれるかなあなんて思っていた矢先にこれだ。これに成功して名前を覚えてもらう事ができれば本部勤めも夢ではないかもしれない。これは一生に一度しかないチャンスだ。俺は自分にそう言い聞かせて、高揚を押さえながら本部へと向かった。
俺が本部のある場所につくと本来必要な手続きをすっ飛ばして奥へ奥へと案内される。入り口から二つ目の部屋に入るとそこには一人の老人が立っていた。老人は細い目をゆっくりとこちらにむけて俺の顔を見る。まるで心の奥底まで見透かされているような気がする。そして老人は口を開いた。
「あなたが有馬探偵ですね。」
「あ、はい。俺じゃなくて私が大阪支部のBクラスの有馬悠悟です。」
そう言って俺は身分証明書を見せる。警察ならば警察手帳があったように探偵にも似たようなものがある。手帳というよりは免許書に近い形のもので中にはICチップやらなんやらで俺のDNA情報までもが登録されている。老人は専用のリーダーに読み取らせること無くそれを俺に返した。
「お待ちしておりました。では申し訳ありませんが規則ですのでこれをかけください。」
そう言って老人はサングラスを手渡した。言われるがままにサングラスをかけると何も見えなくなった。あわてる俺に老人は落ち着いたまま声をかける。
「目隠しの代わり、と思っていただければ結構です。それではこちらへ。」
老人がそういうと後ろからやって来た二人組に支えられながらさらに奥へと連れていかれ車の様なものに乗せられる。今ここでたとえ事故だとしてもサングラスが取れたりしたらたいへんなことになっていただろう。5分ほどして車は止まる。右に行ったり左に行ったりで方向感覚はくるい今どこにいるのかも分からない。屈強な男たち(いかにもといった感じの)に車から降ろされてようやくサングラスを外すように言われた。そこはホテルのロビーのような場所だった。高級感が漂いながらもどこが厳かしさがある。自然と身が引き締まりネクタイを締め直したくなる。正面には大きな黒い扉があり、それ以外の出入り口といえば俺が入って来た(と思われる)白い扉しかない。窓なんてものはなく外からは見えない仕組みになっている。両サイドには黒いソファーが並べてあり、そこにはすでに4人の探偵たちが待っていた。
「これで皆さまおそろいのようなので話を始めさせていただきますね。」
「あれ?今回呼ばれたのは僕を入れて6人のはずでは?」
この中で一番若いと思われる男が老人に聞き返す。その後すぐにすぐ横にいた上司らしき女性にグーでげんこつを落とされ頭を抱えたまましゃがみこむ。
「はい、北山探偵。確かにあなたのおっしゃる通りで6名の探偵をお呼びしたんですが、残りの一名の方がこちらの方に来るまでに事件に遭遇したとのことで、『チョー特急で片付けて来るから』とおっしゃっていたので。」
「移動中に事件にあうなんてそんなやついるのかよ。俺は推理小説くらいでしかきいたことねえぞ。」
40代の無精ひげを生やしたおじさんが声をあげて笑う。それにしても上司であろう会長にため口とは一体どんな奴なのだろうか。きっとチャラチャラした金髪ピアスに違いない。
「そんなくだらないことはどうでもいい。事件の詳細を。」
そんな騒ぎから一歩離れた場所にいたイケメンお坊ちゃまは話の続きを促す。さっきの無精ひげはジャージという場違いな格好でこの場にいるがこいつは全くその逆だった。この場にふさわしい高級スーツを着こなしている。俺があれを買おうものならば俺の貯蓄はなくなってしまうだろう。
「はい。今回みなさんに解決してもらいたい事件は、こちらをご覧いただければ分かると思います。」
そう言って老人は重い黒い扉に手を掛けて押す。扉は音もなく開いた。
そこには荒らされた部屋、そして大量の血痕だった。