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黒の銃騎士   作者:
始まる物語
7/37

五話 『リピローグ城』

「……様。ユウナギ様!」


「ん……?え?」


 俺はゆっくりと目を開けた。

 目の前に少女の顔があったので少し驚く。


「おはようございます」


「ああ、おはよう」

 

場所は馬車の中。

辺りはまだ暗かったが太陽がでかかっているのか先ほど竜騎士と戦った時

に比べて周囲は明るくなっている。


「着きましたよ。私の家に」


「そうか」

 

 御者が馬車の扉を開ける。エリル、俺という順番で馬車から降りた。

 そして目の前の光景に驚いた。

 エリルの家は、西洋の城をそのまま持ってきたかのようなものだった。

 といっても西洋の城なんて間近で見たことがないから正確にエリルの

家が西洋風の城なのかはわからないけど、とにかく城だ。


「でかいな」

 

 俺の第一声はこれだった。

 とにかくでかい。こんだけ広かったら掃除とか大変だろうなぁ。

 いや、掃除をすることを専門とする人間を雇っている可能性が

高いな。


「こちらへ」

 

 少女に伴われて俺は城へと入っていった。


「おかえりなさいませ」

 

 50人は軽くいるだろうか。メイドたちが一斉に城の主の帰りに頭を下げる。

 いやぁ。ほんとにあるんだ、こういうのって。俺、初めて経験したわ。

 一生経験することないだろうな、って思っていただけに衝撃がすごい。

 エリルはメイドたちの行動を意に介したことなくずんずんと進んでいった。

 まぁ、たぶん日常茶飯事のことだからもう慣れてるんだろうな。

 俺のほうはというと、その圧巻の光景にだいぶ気おされていたが。

 

 少女に案内されてたどり着いたのは食堂、のような場所だった。


「急いで料理を用意させます。少しお待ちください」


「あ。ああ」

 

 とてもじゃないがおかまいなく、なんていえなかった。俺、押されまくりだな。

 一番そばにあった席(下座?)に腰掛ける。

 五分くらいすると料理が次々と運ばれてきた。

 食ったこともないような豪華なものばかりだ。

 いや、豪華そうな、ものばかりだ。

 実際にこんな食物を目の当たりにしたことがないので予想としてしか言えない。


「どうぞ、遠慮なく召し上がってください」


「あ。ああ」

 

 俺はそういってフォークとナイフを使って料理を食べ始めた。

 箸はなかった。フォークとナイフなんてふだん使わないから使いにくい。

 だがそんな煩わしさなど吹き飛ぶほど料理はおいしかった。

 腕のいいコックがいるんだろうな。こんなものを毎日食えるとは、うらやましい。

 俺の家は母親が離婚して家を出ていて父親と二人きりで過ごしてきたため

コンビニ弁当が多かった。そのためこのように『他人』の手作りの料理を食べるのは

久しい。父親はまったく料理などしない男で学校への弁当は俺が作っていた。

 エリルも運ばれてきた料理を、こちらは俺と違って礼儀正しくたべている。

 肩がこるような食べ方だな、と思った。

 食べていて思ったがどうやら俺のいた『日本』の食とこちらの食材は

共通しているようだ。まず見た目がそっくりだし、味に関しても

『あぁー、これの材料はたぶんあれだな』などと予想できる。

 毎日弁当を自分で作っていたので腕のほうはともかく食材に関しての知識は

これでもある程度はある。もしかしたら世界が違うため食べるものが

違うんじゃないか、そしてそれは俺の舌にあわないものなんじゃないか、

と心配していたが杞憂だったようだ。

 一通り食べ終わったあと少女が俺に尋ねた。


「これからどうなさるつもりですか?」

 

単刀直入なその問いに、俺も端的に答えた。


「決まっていない。なんとかするつもりだが」

 

 何とかするというのはあまりにも漠然としすぎているが具体的に

何をするか決まっていない以上そうとしか言えない。

 

 クスっと少女が笑った。


「よければ、しばらく私の家に滞在しませんか?」


「え?いや、そんなに迷惑をかけるわけには……」


「迷惑だなんて思いません。父と母も快諾してくれると思います」

 

 え、そうなのか……?いや、とはいってもなぁー。

 親戚でもなく、なおかつまだ知り合って間もない人の家にタダで居候、というのは

なんというか、気まずい。

 しかしこちらの世界に関しての知識が皆無の俺が一人で歩き回ったら最悪その辺で

のたれ死にする可能性だってある。

 助けてくれるというのならその助けにすがったほうが今はいいのかもしれない。

 変に意地を張って死んでしまったら元も子もない。

 そんなことを考えているとメイドの一人が食堂に入ってきた。


「お嬢様。旦那様と奥様がお目覚めになりこちらにもうじきいらっしゃいます」


「わかったわ。ちょうどいいわね」

 

 ちょうどいい?何が……?まさか、このタイミングで俺のことを報告するつもりか?

 いや、まぁ早いほうがいいけど、さ。こっちにも心の準備ってものがー



「あら、エリル、いつにもまして早起きですね」

 

 心の準備をしようとしていたところで落ち着いた女性の声が食堂に響く。

 俺は声の主のほうを振り向く。そこには二人の人物がいた。

 先ほどのメイドの言葉から察するにエリルの父親と母親のようだ。

 振り向いたことによって母親のほうと目があった。


「えーっと……?」

 

 呆然と立ち尽くしている母親と違って、父親のほうは異分子(自分で言うのも

アレだが)である俺をさっと見据える。

 その目は、父親の目ではなく一人の戦士として俺の真価を見定めようとする、

そんな目だった。

 エリルの父親となると、やはり魔法が使えるんだろうな。やりあったら

簡単には勝たせてくれなさそうだ。まだ自分の力を完全に制御できているわけではないが、

俺としてもただ負けるつもりはないけど、ってなんでそんなこと考えてんだ。

異世界に毒されてきたかな。

 俺が腰を浮かせ臨戦態勢に入ろうとした直後、父親は戦士の目から娘を持つ

父親の目、やさしさを伴った目へと変わり俺の動きを制するように右手をかざした。


「エリル。客人か?」

エリルの父親は威厳のある声でエリルに問いかける。


「はい。大切な客人です」


「うむ。娘の客人は私の客人も同然」

 そういって父親は上座へと向かった。遅れて母親も首をひねりながら続く。

 俺への警戒心はなくただこの状況に戸惑っている、という感じだ。

 ちなみに俺は長机の一番下座に座っている。

 父親、母親が腰を下ろす。えーっと、俺から挨拶したほうがいいのか?

 などと考えていたらエリルの父親が先に口を開いた。


「私はボルド・フォン・リピローグ。こっちは妻のスーラだ」

 紹介された母親は小さく会釈する。その表情はさきほどの戸惑いはもうなく

微笑を称えている。優しそうな母親だな、と思った。


「白神 夕凪です。お邪魔しています」

 うむ、と父親は頷く。運ばれてきた料理を、これまた礼儀正しく食べている。

 まさしく「貴族」という感じだ。ドラマや映画で見ていた光景が今目の前に広がっている。

 抱く感想としては「堅苦しいな」だが。たぶん訓練されてもここまで完全に

作法をマスターすることは俺には無理そうだな、と思った。


「父上。申し上げたいことがあります」


「なんだ?」


「この方、ユウナギ様をしばらく我が城に泊まっていただこうと思っています。

よろしいですか?」


「このような言い方をするのは無礼にあたるが、エリル。そちらの者の素性

は分かっているのか?見たところ、戦士としての肝は十分に据わっているようではあるが」


ちらっとエリルの父親が俺を見る。


「素性は、正直なところ私もよくわかりません。ですが、この方は信用に値する

方であることは間違いありません」

 

 母親は黙って会話を聞いている。

 しかし聞いていて思ったんだが素性もわからないのに信用に値する、などと言う

エリルはどの辺をもって俺を信用しているのだろうか。

 普通はエリルの父親のようにまずは怪しむはず。なのでエリルの父親から怪しまれる

ことを俺は当然だと思い別段気分を害することはなかった。こうして飯を食わせてもらっている

だけでもどこぞの馬の骨ともしれぬ男に対する扱いとしては十分すぎるくらいだ。


「ふむ。しかしな。エリル、今の情勢をかんがえー」


「父上。この方はいずれ大陸中に名を轟かせるお方です。父上といえど、これ以上の

暴言は礼を失した行為とし、決闘を申し込みます」


 決闘!?え……!?え、親子で!?この世界でいう決闘ってのは親子喧嘩

みたいなものなのか?いや、でもそんな生優しい雰囲気じゃないぞ。

 エリルから発される闘気はまさしく戦士のそれだ。それこそ『今からお前を殺す』などと

口走ってもまったく場違いではないほどに。

 これはもしかして今から魔法合戦が起きるパターンか……?もしそうなら離れた場所から観戦したい。いや、俺が原因なのに、って思うかもしれないけど、

そんくらい怖いんだよ。目の前で魔法が飛び交うとか危険だろ、どう考えても。


「……ふむ。お前がそこまで言うのも珍しい。そこまで言う理由があるのなら、

ぜひとも教えてくれ」

 エリルの父は娘を宥めるように優しく問いかける。

 エリルは少しためらう素振りを見せた後口を開いた。


「この方は、先ほどグリテン帝国国境付近にて三大騎士が一人バルノ・ガン・レイブン

との勝負にて互角の戦いをしました。万全の状態であればあの場で三大騎士の一人は

この世から消えていたことでしょう」


「なに……!?三大騎士と勝負だと!?それが本当なら、いや、待て。

なぜお前が国境付近で起こったことを知っている?エリル、まさかお前」


「すみません。父上……ですのでこのことは申し上げたくー」


「あれほど国境付近には近づくなと言っていただろう!!まったく。誰に似たのか」


「フフフ。きっとあなたね」


それまで黙っていた母親がクスっと笑いながら会話に入ってきた。


「っな!?こら、お前!」

 なるほど。エリルの顔や笑い方は母親譲りのようだ。頑固さは父親譲りのようだが。

 しかし、とここで俺は考える。先ほどのエリルの言葉。三大騎士バルノを仕留めることが

できただろう、という発言に関してだ。

 確かにエリルの言うとおり俺は万全の状態ではなかった。

 だが、同時に相手も万全の状態ではなかったように思う。

 というより本気を出していなかった、という言葉のほうがしっくりくる。

 まだ戦士としてなり立てではあるが、あの男はまだ本来の力を隠している

ということがなんとなくわかる。お互いが万全の状態で戦ったらどうなるかのか。

まだ己の限界を知らぬ俺にはわからないことだ。


「ユウナギ様、とおっしゃいましたね」


「はい」

 バルノについて考えふけっていた俺をエリルの母親の言葉が現実へと戻す。

「どうか夫があなたのことを訝ったこと、お許しください。しかし、この時勢、

身を守るには人、特に素性の良く分からぬものを簡単に信用することは身を滅ぼす

ことに繋がるのです」

 ああ、そうだな。俺もさっき似たようなこと考えてたからわかるよ。


「わかっています。こちらとしてはこうして料理を振舞っていただけた

ことだけでも十分感謝すべきことですので」

 えーっと、で、おれ、どうしたらいいんだ。この場を去ったほうがいいのか?


「城には部屋がいくつもあまっている。好きな部屋を使ってかまわない」

 母親の言葉を引き継ぐようにエリルの父親が言った。

えーっと、何、俺、ここにいていいのか?流れてきにしばらく居ていいっぽいみたいだ。


「見たところ身一つの様子。何か事情があることは一目瞭然だ。

娘が君にかなり肩入れしているようだし、気の済むまで居てもらってかまわない。」

 だが、と父親はこれから先の言葉を強調するために一息入れる。


「ひとつ君に頼みがある。いや、こんな言い方をすればここに居ることを許可する

条件のように聞こえてしまうだろうが。私の娘であるエリルを守ってやってほしい」


「父上……」


「この時勢。いつなにが起こっても不思議ではない。そんなとき、娘の安全が私たち

にとっては何より心配なのだ。だから君がここに滞在する期間は娘のことを頼み

たい」

 えーっと。なに、護衛を頼まれてるってことか。まぁ、俺としてはエリルに対して

いやな感情を抱いているわけではないし、ここに居させてくれる、とも言っているし

当てのない俺にとっては破格の申し出だよな……。


「承知しました。お嬢さんの身は、自分が必ず守ります」


「うむ。その言葉を聞いて安心した!」


「フフフ。よかったわね、エリル。頼りになる騎士ができて」


「は、母上。からかわないでください」

 エリルの頬が赤く染まっていることには気づかなかった。

 それから俺たちは四人で朝食(向こうの世界で昼食を食う前にこっちの世界にきてなんだかんだで

飯を食いのがしていたので俺にとっては昼食だが……)を楽しんだ。

リピローグ家は三人家族らしい。エリルは一人娘としてめちゃくちゃかわいがられているようだ。


「エリル。学校はどうするのだ?」


「ユウナギ様の身の回りのこともあるので午後から登校しようかと思っています。」


「ふむ。ん……そういえばユウナギ君。君、年はいくつだね?」


「17です」

 そういや俺、高校二年生の普通の少年だったんだよな。少し前まで。

 なんかもうすでにこの環境に適応しようとしてやがる。


「17か。となると学校に通う年齢だな」

そういえばさきほどからちらほら学校という単語を聞く。

こちらの世界にも普通に学校という教育機関はあるらしい。


「そうだ!よければユウナギ様も学校へ通いませんか?」


「え!?」

 学校。いや、学校はなぁ……あんまりいい思い出ないし。

 俺としてはずっとこのでかい城でゆったりとくつろいでいたい、というのが

本音だったのだが。いや、もちろんくつろぎながらもこちらの世界のことに関する

知識を蓄えてこれからの身の振り方を考えるつもりだ。さすがにいつまでもこの城で

厄介になるわけにもいかないしな……



「それはいい案ね。なにより騎士様に常に傍にいてもらわなきゃエリルも

不安だものね」

 ニコっとした笑みをエリルに向ける母親。

 エリルは顔を真っ赤にしながらなにやら抗議している。

 先ほどからやけにエリルの母親が俺のことを強調しているが、何なんだ?


「しかしまぁ、スーラの言うことに一理あるな。かの三大騎士とやりあうほどの

実力を持っているというのなら尚更更なる修練のためにもなるだろう

どうだね、ユウナギ君。学校に通ってみるというのは。

理事長とは古い知り合いだから融通も利く。午後には準備が整うと思う。」

 

 いや、結構です。とはとてもいえないな。エリルの父親は好意で言ってくれて

いるわけだしなぁ。一応もう一度くらいやんわり相手を立てるように断りの

言葉を言ってみるか。


「いや、そこまで迷惑になるわけには……」


「なに、金は余っているくらいなのだ。」

 ハッハと父親が笑っている。そうなんすか……


 俺、もう学校に通うしかないじゃんな。


「わかりました。通わせていただきます」


 気乗りはしませんが、とは心の中でつぶやく。


「それではさっそく準備にとりかからないと!」

エリルが威勢よく立ち上がる。


「とりあえず制服を作るための採寸が必要ですね。今すぐ採寸道具を持ってくるのでお待ちを」

 そういってエリルが飛び出していった。

 採寸なんて何十人もいるメイドにやらせればいいんじゃないか?


「ふふ、あんなに元気なエリルを見るのは久しぶりですね」


「うむ。ユウナギ君。正直私は心の底から君のことを信じきれているわけではないのだ」

 それが正常だと思う。俺自身エリルはともかくエリルの父親については

完全に気を許せていないのだから当然だ。


「だが、あんなにも元気な娘を見ていたら、信じてもよい、と思うのだ」

 さきほどから元気な姿~とか言っているが、エリルはあまり元気じゃなかったのか?

考えたところで答えは出なさそうだが。


「娘のこと、改めてよろしく頼む」


「はい。彼女は俺にとって命の恩人ですので」

 

 エリルがいなかったら食い倒れていただろうからな。


 タタタタとこちらに向かってかけてくる音がする。


 勢いよく食堂の扉が開いて採寸道具を持ったエリルが現れた。




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