四話 『揺れる馬車にて』
少女の言う通りしばらく歩いていると馬車が停められていた。
「あれが私の家の馬車です!乗ってください」
馬車なんて随分と時代錯誤なものがあったものだな、などと思いつつ
その馬車の豪華さに気後れするように俺は馬車に乗った。
馬車の中も一目で分かるくらい豪華なつくりだ。
こちらの世界にはどうやら科学的なもの(車とか)はないようだ。
まぁ魔法なんてものがありゃぁ科学で出来ること以上のことが
出来そうだしな。
「お嬢様。そちらの方は?」
御者らしき男が少女に声をかけるのが聞こえた。
お嬢様、と呼ばれていることから少女は金持ちの娘なのだろうなぁ、
と当たりをつける。
「大切な客人です。粗相のないように」
「っは!了解いたしました」
御者が一礼して馬車を引く馬へと戻っていった。
少女が馬車へと乗り込んだのを確認し、御者が馬へ鞭を打ち
馬車がゆっくりと進み始めた。
「申し送れました。私はエリル・フォン・リピローグです」
少女が名乗ってくる。
エリル・フォン・リピローグ。なんか、西洋風の名前だな。先ほどの
バルノといい。それにひきかえ俺の名前、もろ日本名だなぁ。
それにしても異世界にもかかわらず言葉が通じるのはなんでだろ。
世界に俺が適応しているのか?
よくわからんは今の状況的にはそれほど気にするような問題でもないか。
俺にとっては良いことなわけだし。
「俺は白神 夕凪」
名乗られたのでこちらも名乗っておく。
「ユウナギ様、ですね。変わったお名前ですね」
俺の名前を噛み締めるように言い返す。
「みたいだな」
たぶんこちらの世界の者は皆ミドルネームがあるのだろうなぁ。
俺も何か作ろうかなぁ。『ユウナギ・ド・シラカミ』とか、ちょっとよくないか?
「ああ、そういえば」
俺は懐から少女に借り受けていた拳銃を取り出す。銃口からトリガー部分にかけて
ぼろぼろになっているそれを。流石にそのまま持っているのも気が引けるし。
壊れたものを渡すのもすげぇ気が引けるけど。借りパクするわけにはいかない。
「すまない、壊れてしまった」
とりあえず謝っておく。高価なものだったら弁償させられたりするのだろうか?
お嬢様っぽいし、家宝とかじゃないことを祈る。
「お気になさらないでください。それは護身用。今、もし私が襲われたら、ユウナギ様
が私をお守りしてくださるのでしょう?」
「え。ああ、まぁ、そうだな」
銃の代わり、か。まぁこの際なんでもいいや。それで弁償が免れるのであれば。
「それならなおのこと、銃のことはお気になさらないでください」
「ああ。わかった」
受け取ってもらえなかった銃はとりあえず懐にしまっておくことにする。
「銃が主な使用武器なのですか?」
「ああ。まぁ他の武器は使ったことがないからわからないが
一番使い勝手がいいのは銃だ」
武器といってもエアガンを使った経験しかないんでな。剣とか触ったことすらない。
なるほど、と少女がつぶやくのが聞こえた。
さて、少女の家に着くまで時間がありそうだしこれからの身の振り方を考えた
ほうがいいな。今日は、夜遅いし朝まで泊めてくれるのだろうか。
たぶん、そうなるだろうな、などと厚かましいことを考える。
問題はその後だな。少女、エリルの家を出たあとどうするか。
金はズボンのポケットにしまっている財布の中にはいっているが多分
使えないんだろうな。つまり今の俺は無一文状態だ。
幸い言葉は通じるしアルバイトみたいなことをして金をためるしかないな。
こりゃ、何日かは野宿になりそうだ。野宿なんて、やったことないぞ。
火の起こし方はサバイバル番組で何度か見たことあるけど、あれ、めっちゃ
難しそうじゃねぇか。キャンプすらしたことない俺にできるのか……?
それに無事火が付いたとしても食物に困るだろうことも予測できる。
よく『この植物は食べれるんですよ!』とかいう豆知識を披露する奴が
いるが(主に本の登場キャラ)、俺にそんな知識はない。
野いちごとか、見た目果物っぽいものでも食っていくしかないのだろうか。
『実は毒りんごでした!死亡!』とかなりそうで怖い。
知らないものを口にすることほど怖いことってないと思う。
エリルに植物図鑑でももらったほうがよさそうだ。
しばらく植物を食うことになりそうだし、エリルの家で出される食物(飯にありつける
ということは俺の中では確定事項。厚かましい、とか思わないでくれ。こっちは
生きるのに必死なんだからよ)で腹をふくらませておく必要があるな。
身の振り方、なぁ。旅でもしてみるか。昔から何ヶ月も休みが出来たら
旅でもしてみたい、と思っていたし。旅をしながらゆっくり時間をかけて
この世界について知っていく、っていうのも一つの生き方のように思う。
まぁ、無一文で旅ってのはかなり無謀だししばらくエリルの住んでいる国で
お金を貯めたほうがいいかな。いや、エリルの住む国に住むってものあり
なのか?だめだ。考えれば考えるほどわからなくなる。
今は難しいことは考えず目の前のことに集中しよう。そうじゃないと
頭がおかしくなりそうだ。
などと考えていると馬車の揺れが心地よかったのか俺はいつのまにか眠りについていた。
「お嬢様。明日の学校はどうなさいますか?」
御者がエリルに質問を投げかける。
「昼から登校するつもりよ」
「了解です。そちらの客人のほうは?」
「眠ってしまったみたい」
「左様ですか。お嬢様、もうこのようなグリテンの傘下国との国境付近
に行かれるようなことはお控えください。
旦那様にきつく注意されているのです。いくらグリテンと『連合軍』が
休戦協定を結んでいるとはいえ所詮は協定。いつ破られてもおかしくないのです。
今回の一件でその休戦がー」
「大丈夫。もうしないから」
(だって、目的の人は見つけられたから)
「それならばよろしいのですが」
少女は馬車から月を見上げていた。今日の出来事は、きっと生涯忘れること
はないだろう。毎日のように夢でみた少年。赤みがかった茶色の髪、
全てを見透かし、さびしげな目をした少年。やっと出会えた。
そう思うと胸が高鳴る。
間違いなくこれから世界は動き出す。それがどのように動き出すのかは
わからないけど。でも、今はこの人に出会えたことを喜びたい。
いつしか少女もまた、静かな寝息を立て始めた。