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黒の銃騎士   作者:
始まる物語
5/37

三話 『帰還』

 バルノは手懐けている龍に乗りグリテン帝国へと帰還していた。


 考えていることは一つ。先ほどの少年のことだ。

 ユウナギ、という名前の少年。


 今や世界の半分を支配する帝国の王女がなにゆえ一人の少年のためだけに

このようなグリテン帝国支配域の末端に行かせたのか不思議でならなかった。

 それもたかだが力量を測るためという理由だけで。

 一時的に休戦協定を結んでいるとはいえ三大騎士の一人である自分が

 『連合軍』との国境付近に行けば何らかの問題が起こる可能性も予想できた。

 連合軍との決戦にはまだ時間が必要、という理由で休戦協定を結んだにも

かかわらず自分の行動が原因で再び戦火が大地を覆うことになるのではないか、

とバルノは思っていた。



 結果からいえば何事もなく終わった。

 いや、何事もなく、というのは違うな。

 さきほどからずっと考えていた。


『あの少年はいったい何者なのか』と。


 少年の特徴といえばまず髪の色。

 彼は明るめの茶色をしていた。


 世界の髪色は大きく『金髪・銀髪・青・赤・緑・黒・黄色』に大別される。

 初めて見る髪の色だった。髪の色だけではなく服装もまた見たことがない

ものだった。


 そして何よりもバルノを驚かせたのは彼の『力』

 あれはいったい何なのだろうか。


 魔法ではない。


 魔力を感じなかった。

 ふと気づく。足が震えていることに。その震えがなんなのか、バルノは数秒考える。

不安?いいや、違う。もしこれが不安なら俺の心はこうも高揚していないはず。


 これは、武者震いか。

 初めてこの俺と対等に渡り合うことのできる人物が現れたのかもしれない。

『かもしれない』と言うのはバルノが本来の力をまだ完全に出し切っていないためだ。

 とはいっても、少年のほうも自身の力を完全には出しきれていないようだった。

 というよりも自身の力をコントロールできていないという表現のほうがしっくりくる。

 互いに己の力を完全に出し切った状態でやりあえばどうなるのか。

 考えるだけで体が熱くなる。


 未だかつて全力で戦ったことのないバルノにとって、ユウナギとの勝負は

表現しきれないほどの衝撃だった。



 ユウナギという少年について考えているうちにグリテン帝国・王城に着いた。

 馬車なら何日もかかる距離だが最速の龍にとってはものの数時間の距離だ。


 バルノは龍から降り、足早に目的の場所へと歩く。

 途中見張りの兵士たちに敬礼をされた際には軽く手を上げて返した。


 しばらくして『目的地』へと到着する。場所は王女の部屋。

 部屋の扉の前には屈強な騎士が二人見張りとして待機していた。

 バルノの姿を確認すると二人の騎士は軽く会釈したあとさっと扉の脇に移動する。


「バルノです。只今戻りました。入ってよろしいでしょうか」


「どうぞ」

 

 短い王女からの返事を聞き終え静かに扉を開ける。

 扉には魔法障壁がかけられており中にいる王女が許可しない限り

立ち入れないようになっている。無理やり魔法でこじ開けようとしても

障壁によって阻まれびくともしない。


 扉を開けるとベッドに一人の少女が腰掛けていた。

 綺麗に梳かされた金に輝く髪。

 年は今年で16になる。

『アリス・ラノバーグ・グリテン』

 グリテン帝国王女。


 王女はなにやら本を読んでいたようだが俺が入ってきたのを機に

パタンと本を閉じ脇に置く。


「ただいま戻りました」

 良いながら騎士の礼を取る。

 

 王女アリスは感情の込もらない目でこちらをじっと見つめる。

 見つめてくるだけで言葉を発する様子はない。

 何があったのか報告しろ、ということだろう。


「グリテン帝国支配域の最南端にある地下聖堂にて少年を確認しました」


 その言葉に王女の目に意思が宿るのがわかった。それまで暗かった

瞳が輝きを発したかのようだ。


「力量を測る、という命を果たすべく我が龍にブレスを放たせました」


 たんたんとあの時のことを王女に報告する。

 王女はうんうん、と首を小さく縦に降っている。

 このように人の話に興味を示す王女を見るのは初めてだった。


「結果を報告しますと、ブレスは綺麗に回避されました。それだけでなく、

我が龍を地に落とし、我が魔法をも相殺しました」

 王女が微笑を称える。その微笑は『満足だ』と言っているようだ。


「穏便に連れ帰れ、との命に関してですが、何やら少女が近くにおり、

すでに知り合っていたようで穏便に連れ帰るのは無理かと思い、帰還した次第です」


 報告を終えたあと、王女は数秒ほど思案し口を開いた。



「任務、ご苦労です。少女が近くに、ですか。なるほど。これもまた運命です」


 若干気を落としたように王女が言った。


「それでは。これにて」


「お手数をおかけしてすみません」


 王女からの労いの言葉をもらったあとバルノは王女の部屋を出た。

 今日はもう仕事も残っていないし、寝るとするか。

 すでに夜は明けようとしていた。



「やはり来ませんでしたか。聖堂に現れるところまでの未来は見ることが

できたけど、その先の未来は見れなかった。けれど、こうなるんじゃないか、

と思っていたし……」


 バルノに力量を測るよう命じたのは本当に彼が『その人』なのかを確かめるため。

 古い伝承に登場する戦乱を収めるために現れるという救世主。

 まだ見ぬ力をもった異界より来たりし少年。

 バルノの報告を聞く限り彼で間違いないようだ。

 3千年前。人間の国家が一つだった時代に人々を治めていた王が用いたとされる

『未来視』の力。この力が王であることを証明するとされていた時期も

あったと聞く。血が薄まっていくにつれその力を継承する者は少なくなり、

またその力は薄まっていった。

 初代王はその力で自らの『死』をも視たといわれている。

 初代王は自らが死んだ後の未来も視ておりそれらは

古の伝承として書物に記され現在まで伝わっている。

書かれた書物は保護魔法が掛けられているものの3千年の時を経た

ことで随所随所の文字が見えなくなっているところもある。

 『グリテン帝国』にはその原書が保存されている。原書の一部が

コピーとして出回っており、最も強調されているものの一つが先ほども

言った『救世主』の項目なのだ。


 今回は出会うことができなかったが、彼とはいずれ出会う運命にある。

 未来を見たわけではないが、彼女は直感的に感じたのだった。



 もう夜が明ける。バルノの報告は聞けたし、もう寝よう。



 この日を境に、世界は少しずつ動き始める。

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