平穏なる日々
グランバルに来てかれこれ半年経った。
言葉に出すと少し長いように思うが実際はあっという間だった。
はじめの一ヶ月は本当に風のように過ぎていった。
……
『主様、そこのキノコ!違うよ、後ろ!!あ、踏んじゃった!!!』
……
「そっちに行ったぞ、ユウナギ!!!」
『任せろ』
『あー、また逃げられちゃったねー。主様そんな怖い顔してたらいつまでたっても
捕獲できないよー』
といった感じで俺たちは低ランクの任務を重ねて行くことで金とギルドの信用を
得ていった。最近じゃBランクのクエストを受注できるようになっていた。
それはパーティーとしての信用が高くなってきたことを意味する。
所持金のほうもだいぶ溜まってきた。
「そろそろ難しいクエスト受けたい!」
レイナが頬を膨らませて言った。
場所は宿屋。
この国に来て初めて宿泊した宿屋よりもワンランク上の宿屋だ。
懐がだいぶ潤ってきた。
ボルドは隅で腕を組み黙って俺たちの話に耳を傾けている。
この男は基本的には聞き役に回る。しかしここぞ、という時には意見を述べ、そのうえで
「決断はお前さんに任せる。ワシはそれに従うのみよ」
と言うのだ。
俺をパーティーのリーダーとして立ててくれているのだろうと思うと少し嬉しくもある。
俺たちのパーティーランクは現在C。受けられるクエストの難易度はパーティーランクの±1
のものになる。これは高ランクのパーティーが低ランクのクエストを独占することで低ランクの
パーティーが受注できるクエストがなくなることを防ぐための制度だ。
俺たちが受注するクエストは大抵がCランク。Bランクも受注できるのだがこれらのクエストの多くは『赤き空』の『傘下』にあるパーティーが独占している状態でほとんど回ってこないのだ。
「赤き空自体はこの国を離れていることが多いみたいなんだがなぁ」
赤き空。数少ないAランクパーティー。どうも彼らはこの国と昔からの付き合いがあるようなのだ。そして彼らの傘下であるパーティーの多くはこの国を根拠地として活動している、いわばこの国は赤き空の縄張りということになる。
「珍しいことではない。力を持つパーティーは傘下とするパーティーを多く従えておるし、それだけ影響力があれば国そのものにもその効果は及んでいく」
ボルドが静かに言った。
「力のあるパーティーが国に常駐してくれれば、国家としては危険なクエストを請け負ってくれるわけで国としての安全は保たれるのだからな。この国は貿易に力を入れておるから軍事力そのものは大したことがないのだろう。であれば、なおさら赤き空との結びつきを国家として考慮するのも頷ける」
ボルドの言うことはもっともだっただけに俺も、レイナもしばらく黙り込む。
ボルドも目を閉じて何かを考えている様子だ。
「つまり、この国に居ても高難易度のクエストは回ってこないってことだ」
俺は交互に見やりながらゆっくりと続ける。
「もともとこの国にずっといるつもりだったわけでもない。ならもう少し金をためて、新しい国に行くとしようぜ。俺たちは俺たちの、根拠地となる国を探せばいいだけだろ?」
その時一瞬アルバノス王国が頭を過った。
が、俺はこの世界を自分の目で見て、どうなっているのかを知りたい。そう思ってあの国を飛び出したのだ。まだまだこの世界のことを知っていない。見ていない。
「そうじゃな。ワシは賛成じゃ」
「あたしも主様が決めることに文句なし!」
それぞれ賛成の言葉を口にしてくれた。
「となれば、明日からはりきって金を稼ごうぜ。期限を設けていたほうがいいだろう。いろいろ装備やらも充実させたいし、この国に滞在するのはあと一か月としよう」
俺たちは互いに士気を高めあい、明日に備えて床に就くのだった。




