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黒の銃騎士   作者:
放浪編
35/37

グランバル

~グランバル~


 俺たち『黒の一行』はグランバルの入国門を無事通り抜けたところだった。

 入国する際に時間をくうかと思ったが案外すんなり入れた。これだと危険なやつがすぐに入国できることになるが治安は守られているという状況は疑問だ。

 よほど国内に強者の警備兵がいるのだろうか。


「わー!!すごい!めちゃくちゃ広いね!!」


 辺りをキョロキョロと見回しながらレイナが叫ぶように言う。


「ああ。想像を遥かに超える広さだ」


 レイナと共に感嘆の声を上げる。


「がははははは。町並みも綺麗で悪くないな。それに人外種も見受けられる。ここでならワシらもそう窮屈な思いはせんだろう」


 ボルドはレイナを安心させるように言った。でかい図体の割にこいつは気が利くからな。先日恐ろしい思いをしたレイナを気遣っているのだろう。


「うん!」


 ボルドの言葉にレイナは元気よく頷く。彼女をもう二度とあんな目に遭わせないように注意しないとな。


「どうする?とりあえず自由行動か?」


 修学旅行などでは目的の場所についたとき自由行動時間が設けられているからな。みんなグループで行動していたみたいだが俺は単独行動だった。自分の好きな場所を回れたから別に楽しくなかったわけじゃない。行きたくない場所に行かされるよりマシだと思う。


「馬鹿言うな!こんなところで別別に行動したら簡単には合流できんぞ!」


 ボルドが何を当たり前のことを言っとるんだ、とばかりに言った。

 確かにキルローナとは比べ物にならないほどでかい。まとまって行動したほうがよさそうだ。


「わかった。まぁ危険があるかもしれないしな。っていっても自由行動

でもレイナとは一緒にいくつもりだったがな」


 そういうとにゃーといってレイナが腕に抱きついてきた。まるで子供のようだがこいつ年は確か俺と同じ17だったよな。


「おい!ワシを一人にさせるつもりだったのか?まぁいい。とりあえずギルドに行くか。任務の状況を確認しておきたい」


 俺たちは辺りを見回したり人に道を尋ねたり(主にボルド)してなんとかギルドまでたどり着いた。途中結構な数の人外種とあったがみんな割とフレンドリーな感じだった。


「さすがにでかいな」


 ボルドが感慨深げにギルドの建物を見上げて言った。

 小さな城くらいの大きさはある。エリルの家を一回り小さくしたくらいだろうか。

 ってかこうして考えるとエリルの家ってやっぱりでかかったんだな。


「今回は俺も一緒に中に入るよ」


「わかった。まぁだがあまり期待はするなよ」


 そう言ってボルドを先頭にギルドの建物へと入っていく。レイナは俺の手をぎゅっと握っている。俺もその手を離さないように少し力を込めて握り返した。

 念のためギルドの入口を凝視しておく。いざって時に飛べるように。


「カウンターにはワシ一人でいく。お前さんらは少し離れたところで待機していてくれ」


「了解」


 ボルドが向かっていったカウンターの周辺には何人かがたむろしていた。

 中の広さに比べてカウンターはそれほど大きくないからパーティーのうちの一人が向かうことになっているのだろうか。


「主様。何人かがこっちを見てるよ」


 確かに先程から視線を感じていた。それもあまり好意的ではないものだ。


「なにか仕掛けてきたときはしっかりとやり返すさ。心配するな。俺とお前、それにボルドがいれば何も怖くないよ」


 安心させるようにレイナに言葉を返す。それに、実際俺たち三人ならここに

いる奴らを全員相手取ったとしても勝利を収められるだろう。


「うん!そうだね!」


 ボルドのほうに視線を戻すとボルドと受付の女性とが話をしているところだった。




「任務を請負いたいと思っているんだが」


「パーティー名をお願いします」


「『黒の一行』だ」


 さすがにまだ名乗らなければ通じないか。


「黒の一行様ですね。つい先日登録されたばかりのようですね」


「ああ。だが腕には自信があるつもりだ」


「二人でAランクの討伐任務をクリア、ですか。確かにこれが本当なら大したものですね」


 何やら受付の女性の言葉にトゲがある気がした。あまり穏やかな感じではない。


「本当のことだが?」


「そうですか。となるとここでも高ランクの任務を行うつもりでしょうか?」


「ああ、そのつもりできた」


『ケケケ。おい兄貴。聞いたか?あいつ駆け出しのくせにAランク以上の任務を受けようとしてやがるよ』


『ヒヒヒ。世界を知らねぇでくのぼうはこれだから困るぜ。二人でAランクってのもFランクの間違いだろ』


 すぐ近くのテーブルについている二人組の話し声が聞こえてきた。人間の耳でも聞き取れる音量だった。つまりはわざと聞こえるように言ったのだ。



「申し訳ありませんが現在Aランクの任務は『赤き空』パーティーに優先して回すように、という達しが来ているのです」


「少しぐらいはあろうが!」


 思わずバンとカウンターのテーブルを手で叩いてしまった。音が周囲に鳴り響く。しまった。目立ってしまったか。ワシとしたことが冷静さを失ってしまった。

 高ランク任務の独占はわかりきったことではあったがここまで徹底されているとは思わなかった。


「暴力的行為を行使した方は力づくで排除せよ、と命じられております」


 受付の女性がちらっと先ほどからワシに聞こえるように会話をしていた二人組の男へと目を向けた。

 それが合図だったのか二人の男が立ち上がり武器を手にする。

 なるほど。はじめからぐるだったわけか。こうして高ランクの任務を無理に受けようとする者が出た場合に備えてギルドがあらかじめ用心棒を雇っていたのだ。


「ケケケ。ここは『赤き空』様たちパーティーの縄張りなんだよ!!」


「ヒヒヒ。死にな。でくのぼうが!!」


 奴らが駆け出そうとした直後だった。急に二人が立ち止まった。

 なぜ立ち止まったのかはすぐにわかった。


「死にたくないなら動くな」


 男たちの背後にユウナギがいた。右手に握られた銃は片方の男の頭に押し当てられている。

 そのとなりには魔法を詠唱し魔法陣を展開したレイナもいた。


(おいおい。うそだろ。いつの間にこいつら俺たちの背後に!?)

(兄貴、こいつらなんかやべぇよ……。それに場に流れる空気もこいつらよりだし)


 男たちが小声で会話をしていたがそれが終わるとさっと武器を下ろしてその場を去っていった。ブツブツと何か言っていたが聞き流した。

 あたりからちょっとした歓声が聞こえる。

 

「お前さんらが出てくるまでもなかっただろ」


「確かにそうだがあまり舐められるのは好きじゃない。ある程度こちらの『格』を見せてやったほうがいいだろうと思ってな」


「ガハハハ。しかし予想通り高ランク任務は独占されているようだ」


 ボルドがちらっと受付の女性を見ると女性はさっと目を落とした。

 どうやら先ほどの男たちとぐるだったことを多少は申し訳ないと思っているらしい。

 

「主様!この女を脅して無理やりにでも任務を受けようよ!」


 おいおい。この娘恐ろしいことをさらっと言うな。

 まぁユウナギのぶっ飛び具合についていけるのだから納得はできるが。

 しかし気になるワードがいくつかあった。まず「赤き空」。言わずと知れたトップパーティーだ。そして高ランク任務は優先的に回すよう「達し」が来ているということ。予想以上にギルドと赤き空の癒着は激しいようだ。


「どうするユウナギ?最終的に決めるのはお前さんだ」


「ここは一旦引こう。少し目立ちすぎた」


「そうだな。また来るぞ」


 ワシが受付の女性にそう伝えるとビクっと女性が肩を震わせた。




「とりあえず宿を見つけるか」


「主様!ふかふかのベッドがあるところがいい!!」


「よさげなところがあったらさっと入っちまおう」


「ふむ。宿はたくさんあるからな。選ぶとなればキリがないぞ」


 三人で辺りを見渡すとボルドの言ったとおりあちこちに宿が

見受けられる。


「選ぶのもめんどくさいしアレにしよう」


 俺は適当に目に入った一軒の宿屋を指差した。


「えーっと『柏亭』って書いてあるね。悪くなさそう!」


「じゃぁあそこにするか。部屋はどうする?ワシとしては無駄金を

使いたくないから三人ひと部屋がいいんだが」


 ボルドはレイナを見ながら言った。


「あたしもそれでいいよ!主様と一緒に寝るから」


「わかった。では問題はなさそうだな」


 レイナの発言をさらっとボルドは流したが問題あるだろ、これ。

 まぁでも部屋を別別にするのはレイナを一人にすることでもあるから

一緒の部屋にいたほうがいいのはそうなのだが。やっぱり年頃の女と

一緒のベッドに寝るっていうのはな。俺も一応男なわけで少し寝にくいだろ。


 そうこうしているうちに俺たちは宿へと入りボルドがチェックインの

手続きをし、部屋へと案内された。


「わー!綺麗な部屋だね」


「俺の目に狂いはなかったようだな」


 さすが俺だ。一発で宿の綺麗さを見抜くなんてな。まぁ適当に選んだだけ

なんだけどさ。


「ベッドは二つか。じゃぁワシはこっちのベッドを使うとしよう」


 窓際に設置されていないほうのベッドにボルドは荷物を下ろした。

 俺とレイナに窓際のベッドを譲ってくれたのだろう。なんか俺とレイナ、って

表現がちょっと恥ずかしいな。


 俺たちはそれぞれのベッドに向かい合うようにして腰を下ろした。レイナは俺の隣だ。


「んで、ボルド、お前なんて言われたんだ?」


 男たちが大声で喧嘩をふっかけるのは聞こえたが受付の女性との会話までは聞こえなかった。


「ああ。『赤き空』がこの辺のAランク任務を独占している、というようなことだ」


 赤き空。この間ボルドが言っていたトップパーティーの中の一つだ。


「嫌なやつらー!主様、そいつら倒そうよ!他のパーティーに迷惑だよ!!」


 レイナの言う通りだ。俺たちのように困っているパーティーはほかにもいるはずだ。だからこそ俺たちが用心棒らしき男たちを追っ払ったときに歓声が聞こえたのだろう。

 だが妙だ。なぜこれほどまでにあからさまな独占をしているのにどのパーティーも『赤き空』に反発しないんだ?無論トップパーティーってのもあるんだろうが複数のパーティーが連合を組めばなんとかなりそうだが。


「ボルド。『赤き空』ってのはそんなに強いのか?」


 ボルドは少し考えるようにして答えた。


「実力は確かだ。だが悪い噂が絶えん。高ランク任務の独占も然り。裏で暗殺パーティーと同盟を結んでいるという話もある。さきほどワシに襲いかかってきた二人を見るにどうやら噂は本当らしい」


 暗殺パーティー。名前のとおり暗殺系の任務をこなす連中か。先ほどの男たちレベルの連中なら何人いても関係ないがその道には必ずプロがいる。

 あまり敵にしたくない連中だ。


「厄介な奴らだな。レイナの言うとおりいっそぶっ倒したほうがよさそうだ」


 うんうんととなりでレイナが頷く。


「早まるな。言っただろう?奴らの強さは確かだ。一対一ならワシらが勝てる見込みはあるが向こうのパーティー人数は『四人』。頭数が一人足りん」


「一人くらい主様が同時に相手にできるよ!」


「ユウナギが二人を相手に戦える状況になれば、な。じゃがそう甘い相手ではあるまい。奴らは数々の任務をこなしている。状況分析は得意だろう」


「つまりお前はもう一人仲間が必要だ、と言いたいわけか?」


 俺はボルドが言いたいであろう結論を口に出した。


「そうだ。どのみち必要になるだろうしこの辺でじっくり骨のある奴を

探して見るのも悪くなかろう」


「仲間云々は置いておいても確かにここは居心地がよさそうだからなぁ。

高ランク任務にこだわらなければ任務は受けられるようだしちまちま

するのは好きじゃないがしばらくは何も考えず受けられる任務を受けていく、んでいい感じの人材を探す、と。」


「うむ。急ぎではないからな。Bランク任務なら肩慣らし程度にはなるだろう」


「ねぇ、主様!買い物行こうよ!旅をするとなればもう少し必要なものも

あるだろうしさ!」


 俺はどうしようか、というような目でボルドを見た。


「ふむ。まぁ金はあるにはあるが余り無駄遣いはするなよ。それとこの部屋

からは一人では出ないようにしたほうがいい」


「そうだな。いろんな奴が居るだけに危険も増している。それと合言葉を

決めておこう」


 先日レイナを部屋に置いて外に出たときのことを思い出したからだ。


「合言葉、か。確かにこの先も必要になってくるかもしれんし今のうちに

作っておくか」


 三人でんーとうなりながら数分ほど考える。合言葉、っていうくらいだし

応答系にしたほうがいいな。「~~~は?」「~~~だ」みたいな感じの。

 それでいて『黒の一行』にしか分からないような答え。


「う~む。なかなか思いつかないな」


「だね~」


 ボルドとレイナの二人もなかなか思いつかないようだ。あまり複雑すぎるのも

まだろっこしいしな。


「あ!これはどうかな?『リーダーの最初の所持金は?』」


 レイナがひらめきました!とばかりに声を上げる。


「おう!悪くないな。答えは『ゼロ』。普通旅に出るものが無一文で出ることなどないだろうし、『所持金は?』という聞き方だと金を持っていたように聞こえる」


 いや、まぁ悪くないけどなんだろう。すごく馬鹿にされているような気がする。


「じゃぁ当面の合言葉はそれできまりだ」

 合言葉としては成り立っているし、あまりぐだぐだ考えて時間を無駄にする

のももったいない。


「じゃぁ主様!早くいこ!」


 たったったとレイナはドアのところまで駆け寄りすでに部屋を出ようとしている。


「そう慌てるなよ。ボルド、留守番頼むぞ。あまり遅くならないようにはする」


「がははは。気にせず遊んでこい」



 ボルドと少しやり取りを交わしたあと俺は部屋を出た。内側から鍵がかけれる

音を確認する。



「おっと」


 部屋をでたところで隣の部屋から出てきた者とぶつかりそうになったので

さっとかわした。


「すいません」


 目深に帽子を被っており鼻から下しか見えないが謝ってきた声は女性のものだった。

 背は俺と同じくらいだから女としては普通より少し高めくらいか。

 

 隣の部屋から出てきた女はそれだけ言い残して階段を下りていった。

 ちなみに俺たちが泊まっている部屋は2階の奥から一つ手前の部屋だ。


 なんとなくその女性の後姿を目で追っているとレイナに話しかけられた。


「主様!行くよ!」


「あ、ああ」


 階段を降りている途中でレイナがそういえば、と思い出したように言ってきた。


「さっきの人、人間じゃなかったね」


「そうなのか?」


「うん。人間とは違う匂いがした。あたしやボルドとも違う匂いだったから

たぶんだけど『エルフ』じゃないかな。確信はないけど」


 エルフ、か。向こうの世界でのエルフって言えば耳が長いのが特徴だったか。

あと美形だったりするパターンもあるようだ。それと魔法に精通しているという

設定もよくあるな。っま、あくまで俺が元いた世界での設定だけど。


「エルフもまた人間とは対立しているのか?」


「うーん、まぁ、仲はよくないね。やっぱりかつて争った仲だから」


 なるほど。服装からして俺たちのようにあまり目立ちたくないようだったし

何かワケありなのだろう、俺らみたいに。あまり関わらないに越したことはないな。



「たっくさんお買い物しようね!」


 笑顔でレイナが言ってきたのでそうだな、と俺は答えた。



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