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黒の銃騎士   作者:
放浪編
33/37

次なる国へ

 下山し終え俺とボルドは無事エイバランスへと戻ってきた。時刻は

夜の9時を回っていた。


「ふぅ。腹が減ったな、ユウナギ」


「ああ。とりあえず獲得金をもらって飯を買い漁るか」


「宿はどうする?」


「どうせ食って寝るだけだ。それに明日にはここを立とうと思ってる」


 ボルド曰くAランク任務をこれだけの早さで遂行すればまず間違いなく

注目を浴びるそうだ。確かにガノンはなかなかの強敵だった。あれを倒した

となれば噂になるのも仕方がない。それもたった二人でやり遂げたとなれば

なおさらだろう。


「ふむ。じゃぁ詳しい話は宿に戻ってからするとしよう。ワシは金を貰って

その金で食べ物をぎょうさん買ったあと宿に戻る。お前さんはさきに戻って

おくといい」


 ボルドなら一人でも危険はないだろう。それにどうもギルドの手続きで

手間取りそうだという話だしボルドの提案を素直に受け入れた。


「それじゃぁまたあとで会おう」


 そういってボルドは一人ギルドへと向かっていった。


 俺は俺でボロ宿へと向かって歩き出した。



 宿に着いて一時間ほど待った末にようやくボルドは戻ってきた。両手に

食べ物を抱えている。


「すまんな。思った以上に足止めを食らった」


 部屋に入ってきて食べ物をどさっと床に置いた。


「ギルドでいろいろ聞かれてな。適当にはぐらかしたがそれでもちょっとした

噂にはなるだろうな。それでほら、見てくれ」


 そういってボルドは背中に担いでいた袋からなにやら取り出す。


「お前、そんなの買ったのかよ」


 ボルドが取り出したものをみて俺は嘆息した。ボルドが俺に見せたものは

黒いフードつきのコートだった。ただし俺のコートと違い黒一色だ。


「ワシもこの一件で面が割れたんでな。金もあることだし買わせて貰った」


 がはははとボルドは豪快に笑いながらコートを脇に置く。


「だからって黒にする必要はないだろ。黒いコートを着た男が二人組みなんて

一目につくだろ?」


「確かに多少一目は引くだろうが面がばれるよりはましだろ?それに

統一感があってよかろう」


「そうなのか?まぁ買っちまったもんはしょうがないしな。そんなことより

食おうぜ。俺はもう腹が空いて死にそうだった」


「がはは。ワシもだ。肉に野菜にパンも買ってきた」


 それから俺とボルドは無我夢中で食べ物を口にした。

 肉はすでに焼いてあった。かなりうまい。相当上等な肉のようだ。こんなもん

生まれて初めて食った。


「金はどんくらい余ってる?」


 一通り食い終えた後ボルドに尋ねた。残ったパンは袋につめて明日の朝食にする。


「かなり残ってるぞ。二割はギルドに紹介賃として持っていかれたがそれでも金貨3枚だ」


「おいおい、ほんとかよ」


「分配についてだがどうする?」


「お前が持っとけ。俺は別に特に買うものなんてないしよ」


 それに金の使い道も良く分からない。食料選びはボルドに任せて問題ない。

 俺が持っているよりもボルドが持っていたほうが良い。


「ふむ。確かにお前さんは金使いの荒い男ではないようだしな。だが一応

これだけ渡しておくぞ」


 そういってボルドが金貨を一枚取り出し俺に手渡す。確か金貨一枚が銀貨100枚分なんだっけか?んでえーっと、銀貨1枚あれば余裕で一日過ごせるんだったよな。よく覚えてないがまぁざっくり言ってそんなかんじだろ。

 無一文、ってのはさすがに冒険者として恥ずかしいし受け取った金貨は

大事にコートの内ポケットにしまっておく。


「それでこれからのことについてだがどうする?ワシとしてはお前さんの方針に

従うつもりだ」


「さっきも言ったが明日この国を立つ。お前の話だと割りと目立ってしまったみたいだしな」


「うむ。ここに居ればいずれは居場所が突き止められてしまうだろうな。この宿に戻る途中も尾行されていたくらいだ」


 その尾行を撒くのにもしかしたら時間がかかったのかもしれない。


「ここまでかなり急ペースの旅だったから俺としては一度腰を落ち着けたいと想ってる」


「ふむ。となると次に向かう国は『グランバル』がいいかもな。あそこには一度行ったことがあるが『連合軍』領じゃ一番栄えた国だ。貿易都市なんて呼ばれている。人間だけじゃなく人外種も多く住んでおる。エイバランスのように住み分けはされていないが」


 住み分けされていないってことはごちゃ混ぜ状態ということだろうか?もしそうなら『共存』しているという意味ではエイバランスよりもグランバルのほうが当てはまりそうだ。


「そこなら欲しいものも大体手に入るだろう。何か欲しいものはあるのか?」


 ボルドに聞かれて俺はしばらく考え込む。


「ぱっと思い浮かんだのは『馬車』だな」


「馬車か。う~む。値段はピンからキリまでじゃが、それでも金貨三枚じゃ馬を2頭買えたら儲けといったところだ」


 車はいろいろカスタムできるからな。まず車を引かせる馬の数。これは車の大きさに左右される。そして次に馬の質。年老いた馬より活気のある馬のほうがいい。


「一流のパーティーは2頭の馬に車を引かせる。2頭も居ればある程度の道は超えていけるからな。ワシたちも馬車での移動をするというのであれば当然2頭飼う」


 おいおい2頭買ったら金貨なくなっちまうんだろ。なにも一流にこだわらなくても、と思うものの今後のことも考えればあまり妥協するのもよくないと思い直す。


「馬2頭に車の部分もそれなりのものを買うとすればどのくらい金は必要だ?」


「うむ。金貨3枚で馬二頭と言ったが上等な馬を選ぶとすれば車も含めて

金貨10枚は最低でも必要だ」


「金貨10枚か」


 なんつぅ大金だよ。ランクAの討伐任務で金貨3枚だろ?それをあと3,4回しなきゃいけないのか。といっても俺とボルドならそう苦戦を強いられることも

ないだろうし、それほど苦でもない、か。


「そのくらいは見積もっておいたほうがいいだろう。まぁワシとお前さんの二人ならAランクならそう苦戦もせんだろうし時間があれば難しくないだろう。急ぐ旅ではないのだろう?」


「ああ」


 答えを探す旅、なんてかっこいい理由っぽいがぶらぶら世界を回ってみようぜ、とりあえず、的な感じだし俺としてもこの辺で一息つきたい。


「それと仲間についてだ」


「仲間?」


「旅の連れのことだ。どう考えているんだ?」


「どうもこうも別に何も考えてない。俺と二人じゃ不安か?」


 そう尋ねるとボルドは真剣な顔をして切り出した。


「ユウナギ、お前さんは確かに強い。そしてこれからも強くなっていくだろう。だがこの世界にはお前の想像をはるかに凌ぐ怪物がいる。この前話した封印指定の怪物がその一例だ。

ワシもお前の足を引っ張るつもりはない。だがいつか二人では遅れを取る敵が現れるだろう。そのとききっとお前さんとワシは仲間を作らなかったことを後悔するだろう。それに仲間が増えれば高ランク任務をより安定して遂行できる」


 ボルドの言うことは確かに正しかった。俺とて自分の力を過信するつもりはない。少なくとも一人俺と同等、もしくは俺以上の力を持つ敵を知っている。

 忘れもしない。この世界に来て初めて戦った男。

 

 『龍騎士』バルノ・ガン・レイブン。


 確かに今後旅をしていくためには仲間が必要なのかもしれない。


「ちなみに『一流』のパーティーは何人構成なんだ?」


 俺はにっと笑ってボルドに尋ねる。するとボルドも俺同様笑って返した。


「少なくとも4人だな。内訳はアタッカーが二人に後方支援が二人。うち一人が回復魔法の使い手だ。これにディフェンダーや俊敏性の高い遊撃手が加わるなどすればさらに多彩で安定したパーティーになる」


 なるほど。ボルドはばりばりのアタッカータイプだろう。俺は空気弾を用いたアタック役と空間転移を用いた遊撃手の役割を果たせそうだ。

 ボルドはばりばりの前衛タイプ。俺は近接もある程度いけなくはないだろうが

『天』『地』による攻撃は中距離~遠距離によるもの。

 現在は近接と遠距離タイプが一人ずついるということにあんる。



「ワシとしてはレイナはなかなかの逸材だと思ったんだがな」


 レイナか。確かにエリルを初め学園のトップクラスばりの魔法を使いこなしていた。魔力量は人間より豊富ということらしいし遠距離からの攻撃はお手の物だろう。それに回復魔法の心得もあるようだったし持っている力という点からすれば問題はない。というよりは現時点では最高の人材だろう。


「あいつはだめだ。あいつの目的は故郷へと戻ることだった。それが達成されたんだから俺たちと旅をする理由がない」


 そう言うとボルドは複雑そうな顔をした。まぁ確かに俺もレイナが来てくれれば頼りになる仲間が増えるわけだし心強い。だがせっかく故郷へと戻ってきたあいつを無理に連れ出そうとはとてもじゃないが思えなかった。あいつには穏やかな人生を送って欲しいと思う。仮にもあいつの「主」を名乗っちまったからな。主として彼女の幸せを望むのは当たり前のことだ。彼女の幸せは故郷で家族と平穏に暮らすことのはず。


「ボルド。俺たちのパーティー、つっても今は俺とお前だけだが、のルールを決めよう」


 ルール。集団を形成する上では欠かせないものだ。ルールは人を縛るものであると同時に人を守るものでもある。


「そうだな。今後の旅を円滑にするためにも今のうちに決めておこう」


「ああ。とりあえず思い浮かんだのは『仲間の勧誘はしない』だ」


「どういうことだ?」


 バルドは不思議そうに首をかしげている。無理もない。たった今仲間が必要だと話したばかりなのだから。


「言葉通りさ。俺たちからスカウトはしない、ってことだ。その代わり一緒に旅をしたいと言って来た者がいればそのときは俺たちパーティーで話し合ってどうするか決める」


「なぜスカウトを禁止する?お前さんとて足手まといが仲間に入るよりは優秀な者を入れたいだろう?」


「確かにそうだ。だがボルド、俺たちの旅はまだ始まったばかりだが俺はいつかSランク任務にも手を出したいと思ってる。そうなれば当然危険が伴うだろう」


 そこまで言ってボルドはようやく納得したとばかりに頷いた。


「自分から仲間になりたい、くらいの根性のある奴じゃないときっといつかパーティーに疑問を抱くだろう。実際このパーティーの目的はなんなんだ?と聞かれてお前なんて答える?」


「えーっと、お前さんの~」


 ボルドの言葉を遮って俺は続ける。


「と、まぁ的確な答えは返せないわけだ。勇者パーティーみたいに『打倒魔王』という立派な理由があれば何もしなくても人は集まってくるかもしれないが俺たちの場合それはない。俺は『俺の役割』、答えを探すため。お前は成り上がるため、というようにそれぞれが確固とした目的を持ち、なおかつその目的が俺たちと旅をすることで達成されるかもしれないということが大事なわけだ」


 言っていてなんだがこれ、仲間になってくれる奴いるのかな。多くはないだろう。四人集まればいいわけだからあと二人。なんとか集まってくれることを祈るしかない。世界は広そうだし大丈夫だろ。多分。


「そんな者がいるのか疑問だな。だがまぁ確かに間違っているとは思わんしそれで行こう。ただワシらが良いと思った者に接触すること事態は問題ない、これでいいな?」


「ああ。それでいこう」


 これでルールが一つ決まった。


「ワシも一つある。『ユウナギの意思に従う』だ。旅をしていればいつか意見が割れることがあるだろう。そのとき最終判断をパーティーのリーダーが下せないようではそのパーティーはろくな結末をたどらん」


「仲間がそれを承諾してくれるというのなら俺から言うことはないな」


 このルールは俺の自由を尊重するものだし俺にとっては好都合なルールだ。

 旅の主導権を俺が握れるわけだからな。ただし最終的な判断を任されるということはそれだけ責任を持たなければいけないということでもある。


「ああ、そうだ。言い忘れていたことがあった」


 ボルドはぽんと手を打って続ける。


「ギルドで任務を受注する際に『パーティー』として登録したんだがな、その時にパーティーの名前が必要だと言われたんで勝手に『黒の一行』という名前にしたぞ」


「はぁ?」


 黒の一行?いや、ダサすぎだろそれ。俺的には『獅子団』とかがよかった。

 『俺たちは獅子団だ』っていう台詞、ちょっとかっこよくないか?どうだろう。ダメか?ダメなら別にいいんだよ。うん。


「他にパッと思いつくものがなくてな」


 ボルドとしては精一杯ひねり出したものなのだろう。すでに決まったものだし今更どうこう言っても仕方ない。『黒の一行』か。まだたった二人なんで一行と言っていいのか疑問だが。


「巷じゃもう噂になっとるだろうよ。なにせ結成されたばかりのパーティーがAランクという高任務をクリアしたんだからな。トップパーティー入りもそう遠くないかもな」


 トップパーティーか。そういう連中といつか戦うことになるかもしれないし一応名前くらいは聞いておいたほうが良さそうだな。


「そのトップパーティーについて教えてくれ」


「おう。『最強のパーティー』という話題はしばしば挙がるがそこにいつも名を連ねるのが『白き翼』だ。リーダーはルリ・ファンサー。「剣聖」と称されている。得意魔法は風。二つ名は「風魔」だ。剣技と風魔法に特化しておる。他に仲間が四人いるがどれも強敵ぞろいだ」


 風魔、か。もしかしたらいずれ出会うことになるかもしれない。覚えておいたほうが良さそうだ。


「他にも『虚無の霧』『赤き空』といったパーティーもよく名が上がるな」


 その中に『黒の一行』というパーティーをさっさと入れたいものだな、とボルドは心の中で一人思うのだった。ユウナギと旅をしていればおのずと名が売れていくだろう。


「当面の目的は馬車などの旅に必要なものをそろえること。仲間を見つけることの二つだな。時間はある。仕事をしながらさらに今後のこともじっくりと考えていくとしよう」


 俺が勢いよく言うとボルドはなにやら思案顔になった。


「どうした?」


「いや、まぁ仕事についてだが今回は運よく高ランク任務を受けることができたが今後そううまくはいかんだろうなと思ってな」


「どういうことだ?」


 任務関係の知識は皆無なので俺はおとなしくボルドの説明に耳を傾けることにした。


「ギルドが一つしかなく仕事を紹介するという話はしたろ?つまりいい仕事をするパーティーとギルドの関係はおのずと強固なものになっていくわけだ」


 ボルドがそこまで言ったところで俺は彼が何を言いたいのか理解できた。


「なるほど。いい仕事は関係の深いパーティーのために取っておく、ってことか」


 ギルドとしても任務を任せる相手が頼もしいに越したことはない。つまりどこから来たか分からないパーティーがいい仕事を受注するのは難しいだろう、とボルドは言いたいのだ。


「そうだ。グランバルは『連合』の最大都市だ。当然多くのパーティーが滞在しておる。ここを拠点にする者も少なくないからな」


 うまいように仕事を見つけることは難しそうだな。俺たちもある程度グランバルには滞在するつもりでいるが時間がかかるよりは短時間で金を集めたい。


「中にはギルドを介さずに仕事を行う者もいる。スポンサーを見つけてな。まぁここでとやかく言っていても仕方がないだろうし一度グランバルのギルドを見に行ってみんことにははじまらん」


「そうだな。とりあえず明日の朝には発つ予定だしもう寝ようぜ」


「うむ。ワシは朝には強いからな。お前さんをたたき起こしてやろう」


「できるだけ優しく頼むぜ」


 その後俺とボルドは明かりを消し布団も敷かず床に寝た。かなり背中が痛かったが仕方がない。

 こんな生活も今のうちだけだと思えば耐えられないこともない。

 『とてもこんなボロ床じゃ寝れんな』などと言っていたボルドは寝転んで一分後には高々といびきを掻いて寝た。俺はというと背中の痛みとボルドのいびきのせいでそれから一時間ほど寝るのに要した。


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