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黒の銃騎士   作者:
放浪編
32/37

エイバランス

 歩くこと半日。俺たち三人はレイナの故郷『エイバランス国』へと到着した。


 道中は特に敵に遭遇することもなく思っていたよりも早くエイバランスに到着

ことができた。時間は正午を少し回ったくらいなので1時くらいだろうか。


 エイバランスもまたキルローナ同様巨大な入国門がある。どこの国もそうなのだろう

か?ただ関所のようなものは配置されていない。兵士が何人か立っているだけだ。

 キルローナに比べて治安がいいということか、それとも単に警戒意識が低いだけなのかは判断がつかないがこちらとしては楽なので助かる。


 レイナの話では人間と他種族が共存している、ということだったし鎖国気味だった

キルローナとはまた違った国風なのだろう。


 入国門をくぐるとそこには綺麗に家や店が整理された町並みが広がっていた。

 国の真ん中にある道は向こうのほうまで続いている。中央道みたいなものだろうか?

 それにしてはかなり横幅がある。30mくらいありそうだ。


「メインストリート。別名『境界線』だ」


 ボルトがしゃがんで俺の耳元で囁く。境界線?


「この国はこのメインストリートを境界線として入国門から見て右が人間。左が他種族

といったように生活区域が分かれているのさ」


 なるほど。それで別名『境界線』か。共存しているという話だったから人と他種族が

ごちゃまぜになっているのかと思っていたのだがどうやら違うらしい。

  完全に区別されたそれを果たして共存というのかは少々疑問だが。


 レイナのほうを見ると感慨深げに街を見渡している。やっと故郷へと帰って来れた

安堵、喜びを噛み締めているのだろう。邪魔するのも悪いな。


「行くぞ」


「ん?レイナは?」


 ボルトの言葉は無視して俺はさっとその場を離れた。ボルトの話では人間の生活区域

は右という話だったのでそちらに向かう。ボルトはドワーフだがまぁ、嫌なら来ないだろう。ってかなんで行くぞ、なんて言っちまったんだか。

 まるで付いてきてほしいみたいじゃねぇか。


 念のため後ろを振り向くとボルトは付いてきていた。


 レイナが見えなくなるくらいまで離れてから立ち止まる。


「お前、この国には詳しいのか?」


「知ってて当たり前のことくらいしか知らんな。お前さんよりは知っているのは確かだがどこにどの店があるとかはわからん」


 なるほど。とりあえず歩き回って宿屋でも見つけるとしよう。

 その前にだ。


「最後に聞いとく。俺と本当に来るのか?」


 俺の言葉にボルトは迷うことなく頷いた。そんなにこいつに気に入られることしたっけ?

 


「んじゃぁ宿屋を探すぞ。宿賃とか食費はお前もちな。俺は一銭も持ってないからよ」


「はぁ!?おいおいまてまて。ワシもそんなに金は持ち合わせておらんぞ」


「はぁ?よくそれで旅なんて出来たもんだな」


「無一文のお前さんにだけは絶対に言われたくない言葉だな」


「いや、おれは仕方なかったんだよ。あんときは慌ててたからな。必要最低限

のものしか持ってこれなかったんだ」


 必要最低限っていうのはコートと『天』『地』のことだ。もうちょっと準備を整えて

きたほうがよかったかな、と思うものの下手にだらだらとあそこにいればそれに慣れて

しまう。それがいやだった。


「まぁ数日程度なら宿屋を選べば過ごせるだろうがとりあえず仕事を探したほうがいいな」



 俺とボルトは再び歩き始めた。安い宿屋を探して。




 久しぶりに見る故郷の町並みにレイナはただただ見惚れていた。

 帰って来れた。帰って来れたんだ!


 もう無理だと諦めていたけれど一人の少年が救ってくれた。彼がいなかったらあたし

の人生はどうなっていたのだろう。考えたくもなかった。きっとロクなものにならなかった

だろう。一生かかってもこの恩は返せないだろう。

 そこでハッとしてすぐ後ろにいる少年に呼びかける。


「主様!これがあたしの故郷だよ!!人間区にはあまり行ったことがないのでよくわからない

けど他種族区はすごく賑やかなんだよ!」


 そう言ってレイナは振り返った。そこにいるであろう少年を見るために。しかしそこには

主様だけでなくドワーフのボルトの姿もなかった。。


「主様……?」


 辺りを見回してもどこにも二人の姿はない。何者かに連れ去られたのだろうか?いや、それは

ない。あのドワーフは見たかんじなかなかの腕を持っているだろうし主様に限っては敵なし

なんじゃないかと思えるほどの強さだ。仮にあの二人よりも強い者がいたとしてもあたしに

気づかれないように連れ去ることなどまずできないだろう。


 ということは……。


『お前を故郷まで送り届けてやる』


彼の言葉が頭を過ぎる。彼との約束だ。そしてその約束は今すでに達成されている。



 彼が今朝言った『解散』という言葉が道中何度も頭を過ぎった。故郷に帰りたい、そう思うと同時にもし故郷についてしまえば彼と別れなければならないということを考え初めてからなんだか心がモヤモヤしていた。


 故郷に帰ってこれたんだから喜びしか感じないはずなのに。なぜか今あたしの心には寂しさや悲しみという気持ちがある。


 涙が出そうになったのを空を見上げてこらえる。

 彼がよく見上げていた空。今もどこかで同じようにこの空を見上げているのだろうか。


 ここでこうしていても仕方ない。多分彼はここには戻ってこないだろう。

 一度自分の家に戻ろう。それからこの先のことを考えても遅くはないはず。主様たちも

多分しばらくはここにとどまるだろう。



 レイナは走り出した。悲しみや寂しさを振り払うように。




 他種族区を走り抜ける。どこに何があるかは完全に把握している。子供の頃から

駆け回っていたからだ。ここ数日見なかっただけなのになんだかすごく久しぶりに

来たみたい。本当は主様と来たかった。主様にこの街を案内してあげたかった。


 レイナは立ち止まる。彼女の生まれた家にたどり着いたからだ。

 暗い表情を首を横に振って振り払う。きっと家族や知り合いはあたしのことを

心配してくれていたはずだ。それなのに帰ってきたあたしが暗い顔をしていたら

みんなが素直に喜べない。


 意を決してドアを軽くノックしドアノブを回す。鍵はかかっていなかった。


「ただいま!」


 家中に聞こえるくらい大きな声で帰ってきたことを家族に知らせる。


 直後ドタドタとこちらに駆け寄ってくる音が聞こえたかと思うとすぐに

両親が現れた。二人共今にも泣き出しそうにしている。


「レイナ……!レイナなのね?」


 母のアンナがあたしの頬を両手で摩る。


「レイナ、心配したんだぞ!」


 父のダドンは大粒の涙をこぼしながらあたしの肩に手を置いた。


「心配かけてごめんね。でも大丈夫!どこも怪我してないし何もされて

ないから!」


「話はリビングでゆっくりしましょ。さ、上がって」


 それから三人でリビングへと移動した。よく腰掛けていたソファに

ゆっくりと腰を下ろす。最近は安いベッドや草の上で寝ていたせいか

ソファの感触に戸惑う。なんだか慣れないものに座っているようなそんな

感じだ。


「映像を見ていたよ」


 最初に口を開いたのはダドンだった。手にはコーヒーカップを握っている。

 どうやらコーヒーを飲んだことで少し落ち着いたらしい。


「びっくりしたのよ。レイナが突然映ったかと思えば結婚だなんて。それもあんな

男と!」


 アンナはカンカンの様子だ。無理もない。一人娘があんなクズ貴族に嫁がされる

なんて親としては我慢ならないものだろう。それも知らされていなかったとなれば

尚更。



「あんなものを見せられて親としては黙っていられない。俺たちだけじゃない。他種族区に住む者たち皆あの映像には頭にきていた。キルローナに侵攻するぞ、と意気込む者さえいた」


 父の話にレイナは驚く。それほどまで話は大きくなっていたのか。もしそんなことになればそれこそ人間VS他種族という戦争が再び繰り返されていたかもしれない。


「だが俺たちはそれを思いとどまった。あの黒いコートを来た者。巷じゃ『黒の銃騎士』と呼ばれているのか?あの者の行動によって我々は鎮まった」


 黒の銃騎士。主様のことだ。あの映像はかなりの国に流されていたようだから主様の存在はかなりの者に知られたことになる。



「レイナ、「黒の銃騎士」は一体何者なの?」


 何者なのか。かなり抽象的にアンナは問うてくる。まぁ分かっている情報が少なすぎるから仕方ない。


「人間だよ。人間の少年」


 言おうかどうか迷ったが結局レイナは言った。


「人間!?本当なのか?レイナ!」


 ダドンはとても驚いている。無理もない。むしろ驚かないほうがおかしいというものだ。

 母のアンナも声には出さないものの目が大きく見開かれ自分を落ち着けようと胸に手を当てている。


「本当だよ。一人ぼっちで森で過ごしていたあの夜、彼と出会ったの。そして約束してくれた。必ず故郷まで送り届ける、って」


 言いながら涙が出そうになる。一度言葉を区切り手で目を拭う。


「すごく強いんだ。持ってる力も、心も。今はまだ小さな存在かもしれないけど、でもきっといつか必ず世界の表舞台にあの人は立つよ」


 世界が彼を求める、そんな気がする。別に根拠なんてないけど。


「そうか。まぁ、とにかくゆっくりしなさい。まずは休むことだ」


「そうよ。母さんと父さんはが腕によりをかけて夕飯を作っておくからね」


「ありがとう」


 そう言い残してレイナは自室へと向かいベッドに横になった。ふかふかのベッドだ。

 レイナの家は裕福な家庭であり、そして一人娘ということもあってとても大切に育てられてきた。と、思う。だから主様と過ごしたたった数日間はレイナにとって大冒険のようだった。

 また彼の顔を思い出してしまった。いつも隣にいてくれた人。あたしの窮地に颯爽と現れ、そして風のごとく飛んで来てくれた。とってもかっこよかった。

 あたしはー




 場所は人間区のぼろ宿『スワン亭』


 その中でもボロ部屋に分類される部屋で俺とボルドは床に座って話し合っていた。

 ちなみに部屋にはベッドはおろか椅子も用意されていなかった。


「当面の問題は金だな」


「うむ。ワシもこんなぼろ宿にはもう泊まりとうないからな」


「さくっと金を儲ける方法はねぇのか?」


 俺は肘をつきながらボルドに問う。地道に稼ぐよりもさくっと稼ぎたい。無論そんな仕事をすれば注目を集めてしまうかもしれないがさっさとこの国から出ちまえば問題ないだろう。


「となると討伐系の任務か暗殺系の任務となるな」


「任務?」


「ギルドで受けられる仕事のことだ」


 ギルドか。そういや漫画とかでよくあるな、そういうの。魔術師ギルドとかいろいろさ。


「お前さんギルドには入っているのか?」


「入ってない」


 それに入りたくもない。どうせ入団テストみたいなのがあって魔力量とか魔法操作能力とか調べられるんだろ?馬鹿にされるのがオチだ。断固拒否だ。


「一人で旅をしておいてギルドにも入っておらんとはな」


 やれやれ、というようにボルドが首を横に振った。


「なんだ、ギルドに入るのは必須事項みたいなもんなのか?」


「別に絶対入らないといけないわけじゃぁない。例えばパーティーで旅をしているとすればそのうちの誰か一人がギルドに入っていれば仕事を請け負うことはできる」


 なるほど。一人旅をしている者はギルドで仕事を請負いたくばギルドに加入しなければならないわけだ。


「んで、お前は入ってるのか?」


「当たり前だ。旅に出る前に入った」


 準備万端の状態で旅に出たわけか。そういや一応金も持ってるしな。俺とは大違いってわけか。


「旅に出た理由とかあるのか?」


 それとはなしに聞いてみる。こいつも見た感じ一人で旅していたようだし俺と同じように一人旅をしていた者がどんな気持ちだったのかはちょっと気になる。


「つまらん理由だがな、まぁ成り上がってやろうと思ってな」


 成り上がる?抽象的すぎてよくわからない答えだ。とにかく有名になりたかったってことなのか?


「故郷はどの辺にあるんだ?」


 レイナの故郷が今滞在しているエイバランスということもあって目の前のドワーフの故郷がどこなのか気になった。


「名もない小さな村さ。今はもう合併されてなくなっちまったがな」


 ボルドは遠い目をしている。亡き故郷を思っているのだろうか。合併か。市町村合併、とはまた違うんだろうな。恐らくエイバランスのように共存を謳う国に移り住んだか、それともより強い村に取り込まれたか。どちらにしろもとの村の雰囲気は取り払われてしまう。


「そういやお前さんの故郷はどこだ?」


 その言葉に俺は意識を現実に戻した。俺の故郷か。


「今更ながらじゃがお前さんと同じ髪の色をした者は他に見たことがない」


 次から次に質問を投げかけてくる。どうやら向こうは向こうで気になっていることがあるようだ。


「故郷はずっと遠いところだ。簡単に行ける場所じゃない。髪の色は俺も知らん」


 ずっと遠いところ、遠すぎて行き方もわからねぇところだ。髪の色については本当に俺も知らない。元いた世界でも『本当に地毛なのか?』と教師に何度か注意されることはあったものの見世物になるほど珍しかったわけじゃない。



「ふむ。何から何まで不思議な男だ」


 ボルドはあまり詮索しない方がいいと思ったのか話を切り上げてくれた。こういうところは気が利くらしい。


「話を戻そうか。仕事の件だがワシがギルドに入っているから任務を請け負うことはできる。問題はどの任務を受けるかということだ」


「暗殺系は気が向かないな。そもそもそういうのはその道のプロがやることだろ。となると討伐系になる」


 暗殺のプロフェッショナル『アサシン』とかもこの世界にはいるのだろうか?ちょっとかっこいいな。いつか会ってみたい。


「そう言うと思っていた。どの任務もそうだが『ランク』が設定されている。ランクが高くなればなるほど獲得金額は大きくなる仕組みだ」


 ふむふむと俺は相槌を打つ。下手に話の腰を折らない方がいいだろう。


「ランクはE~Sとある。ただしSランクに挑戦するのはまだ早かろう。現存する最強種である龍族や封印指定された太古の怪物が相手となるからな」


「Sランクは除外するとなるとAランク任務だな」


「がはは。やはりそう来たか」


 ボルドは豪快に笑った。


「よし、そうと決まればさっさと行こう。ワシがギルドで任務を請け負ってくる間お前さんは外に入ろ」



 それからしばらく話した後俺とボルドはギルドへと向かった。この世界のギルドってのは魔術師ギルドやら暗殺ギルドがあるわけではないらしくギルドは『ギルド』ということらしい。


 俺も完全に理解できたわけじゃないが派遣会社みたいなかんじなのだろうか。所属していると言っても強制的に仕事をやらされるわけではなくただギルドは仕事を紹介し紹介賃を回収し利益を生む、という仕組みになっているらしい。


 しばらく待っているとボルドが戻ってきた。


「無事任務は受けられたか?」


「ああ、ただ注目を浴びてしまった。Aランクともなれば凄腕の戦士が受ける任務だからな」


 と照れくさそうにボルドは頭を掻いている。この辺恐縮しないあたり腕に自信はあるようだ。


「討伐対象は『ガノン』と呼ばれる凶暴なモンスターだ」


 ガノンな。そう言われても知らないからいまいちピンと来ない。


「倒したことはあるのか?」


「ない。というか高ランク任務を受けるのはワシも初めてでな」


 ほんとかよ。となると二人共ガノンというモンスターと初見で戦わないといけないわけか。

普通ゲームとかならある程度情報を集めてから挑むだろ?こりゃ無謀だぜ。


「わかってる情報は?」


 もしかしたらボルドがギルドで何らかの情報を掴んできたかもしれないと思い尋ねる。


「凶暴なモンスターだそうだ」


 いや、そりゃぁさっきお前が言ったから俺も知ってるよ。つまりそれしか分かってないわけだ。


「場所はエイバランスを出てすぐ近くにある山の頂上だそうだ」


「頂上か」


 山の頂上に居座るモンスター。こりゃなんか強そうだ。ただ登るのが大変そうだな。


「行って帰ってくるのに一日もかからんがどうする?手間取ってしまえば帰るのは夜更けになるが」


「今から行ってさっさとぶっ倒す。そして夜は盛大な飯と行くぞ」


「がはは。ああ。そうだな。ワシもそうしたいと思っていた」


 その後俺とボルドはエイバランスを出て山へと向かった。俺の初めての任務だ。






 「山頂はまだなのか?」


 場所はエイバランス近くの山。俺は肩で呼吸をしながら前を歩くボルドに尋ねる。


「もう少しだ。それにしてもお前さん体力なさすぎじゃないか?」


 ボルドの方は全く疲れがないようで汗一つ掻いていない。


「こんな本格的な山登りは初めてなんだよ」


 幸い山中でモンスターに襲われることはなかった。つまり俺は単純に山を登る

という行為で疲れているわけだ。こりゃ体を鍛えたほうがよさそうだ。


「ん!」


「どうした?」


「息を整えろ」


 ボルドの緊迫した声に俺は言われたとおり深呼吸をし息を整えた。何かを見つけたようだ。

 この場合目当てのモンスターである『ガノン』だろうか。


「凶暴、か。なるほど確かにそうだな」


 そう言ってボルドは背中に担いでいた巨大な戦斧を抜いた。おいおい、気が早くないか?

 山頂までもうちょいあるんだろ。と、そこで何やら音が聞こえてくる。ドンドンと一定のリズムを保って。まるで何か巨大な者がこちらに駆けてくるようなー


「あやつ、ワシと目が合った途端こちらに駆けてきた!もうそばまで来てるぞ!!」


「おいおい!まじかよ!」


 目が合っただけで敵と判断するなんてどういう頭してんだ?だがなるほどこれで合点がいった。

ここまで来るまでにモンスターと合わなかった理由はこういうわけだったのだ。まぁそりゃ俺がモンスターでもこんなところにはいたくねぇしな。


 そしてここまできてようやく俺も『ガノン』というモンスターの姿を目で捉えることができた。

 見た目はティラノサウルスに似ている。体長は10m以上ある。めちゃくちゃでかい。


 俺はホルスターから『天』『地』を引き抜き銃口に空気を圧縮していく。込める力は無論最大だ。今の俺の全ての力を出し切る。


 見るとボルドのほうも臨戦態勢に入っており魔法の詠唱をしている。


「魔法付加。『地王』」


 ボルドが魔法を唱えた途端近くの地面が抉れ岩石物がボルドの持つ戦斧に吸い寄せられていき戦斧が巨大化していく。


 初めて見る魔法だ。見るとボルドの目は敵を狩るハンターのそれになっていた。

 魔法戦士、って言葉が似合いそうだな、などと悠長なことを考えている場合じゃないな。


「グォオオオオオォオォォオオオオオ」


 ガノンの雄叫びが鳴り響く。もう目の前に来ていた。


 ボルドはガノン目掛けて駆ける。俺もあとに続くように疾走する。


 ガノンとあと数メートルというところでガノンの口が大きく開かれそこから業火が吐き出された。


 しかしその炎が俺たちにぶつかることはなかった。ボルドが振り下ろしていた戦斧を高々と振り上げ炎を打ち消したからだ。戦斧の大きさは5m程度。とてもじゃないが俺じゃ振り回せない。

 


 そして俺たちはガノンの目前へと迫った。


「ボルド!!!ガノンを全力で打ち上げろ!!!!」


「わかったぁあ!!!!」


 ガノンの足元まで駆け抜けたボルドは気合の一声とともに戦斧を先ほどよりも数倍の速さで振り上げた。


「うぉぉぉおおおお!!!!!!!!!」

 

 ボルドの雄叫びの直後、ゴンと鈍い音がこだましガノンの巨体が上空30mまで飛び上がる。


 俺はガノンの周辺の空間に焦点を合わせ『飛ぶ』



「ぐぉぉぉおおお」


 ボルドの一撃に悶え苦しむようにガノンが悲鳴を上げる。しかしそれでもその目には闘気が満ちている。さすがはAランク指定の討伐モンスターといったところか。


「悪いが俺たちの勝ちだ」


 そう言って俺は『天』『地』をガノンに向ける。


『エア・デストラガン』


 俺は二つの銃口から圧縮した空気弾を打ち放つ。その軌道上にはバルドに打ち上げられた巨体のガノンが口を開き再び豪火を吐き出そうとしていた。

 

 俺は衝撃波に巻き込まれないようにするためにすぐに視点をガノンから数十メートル離れた空間に視点を合わせる。


 直後ガノンが先ほど吐いた業火よりもさらに多くのブレスを吐き出す。その炎に空気弾の一つが接触し衝撃波を生む。それによって炎の業火は跡形もなく拡散する。そしてもう一発の空気弾がガノンの巨大な頭に撃ち込まれそこを起点に衝撃波が生まれた。


『ゴオオオオオ』と爆音を響かせながら衝撃波は拡大し続ける。


 一つ分かったことだが俺の空気弾は何かに触れた場合圧縮された空気が開放されるような仕組みになっているが俺の生み出した空気弾による衝撃波に触れてももう一発の空気弾の圧縮は解けないようだ。だが衝撃波も『物質』の類に分類されるはず。

 もしかしたら俺の意識によって空気の拡散のタイミングを決定することができる

のだろうか?今頭の中にあったのは『もう一発の弾は奴の頭に撃ち込む』というものだった。


 その辺はおいおい修行なり実戦なりで自分のものにしていく必要があるな。


 俺は滑空しながらぼろぼろの姿になって地面へと落下するガノンを目で追っていた。






 地面へと着地しゆったりとした歩調でガノンが落下した地点まで行くとそこにはボルドの姿があった。


 さらに近づいていくとボルドが右拳を前にかざす。俺の身長にあわせてかかなり下に向けられている。

 

 俺も右拳を突き出しボルドのそれと打ち合う。


「見事だった、ユウナギ」


 歯を見せてボルドは笑っている。そういやこいつに名前で呼ばれるの初めてだ。

 そう考えると俺もボルドの名を呼んだのはさっきが初めてだった。


「お前もな、ボルド」


 俺も笑いながらボルドの名を呼ぶ。


「討伐した証拠品はすでに取ってるぞ。あとは戻るだけだ」


 気の利く奴だな。俺はちらっと背後で死んでいるガノンを見る。この山の王者だった者の姿を。どんなに強くなってもいつかは自分より強大な力を持った者に倒される。

 盛者必衰の理、か。


「ボルド」


「ん?」


「俺はよ、自分がこの世界で何が出来るのかを知りたくて旅に出たんだ」



 ボルドは黙って聞いている。その顔には先ほどの笑みはなく真剣な表情だ。


「答えなんてない旅かもしれない。それでも付いてきてくれるか?」


 俺の言葉にボルドは迷わず頷いた。


「無論だ。何度も言わせるな。ワシはお前に付いていくと決めた」


 たった一人で大勢の敵に挑むその姿。決して迷いのないその瞳。そしてその

堂々とした騎士の如き立ち姿にワシは魅せられてしまった。この男と一緒にいれば

ワシはもっともっと高みへと上っていける。そしてこの男と共に戦いたい、そう

思ったのだから。



「そうか。じゃぁそろそろ帰るか。飯が俺たちを待ってる」


「がはははは!!おうよ!今日はぱぁ~っと盛大にやろう!」



 俺たちは他愛のない話をしながら下山した。

 日はすでに落ちようとしていた。


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