二十話 『表彰』
『エリル・フォン・リピローグ。リサ・ル・マルトーズ。ナナ・サン・フォーラル。
ギルバルト・ゴウ・オーゼル。シラカミ ユウナギ。数多のチームを打ち破り
優勝を勝ち取ったことをここに賞する』
学園長の言葉の後教頭が大きなトロフィーを俺に手渡した。
おめでとう、という言葉に小さく会釈する。
両手で抱えるトロフィーに視線を落とす。
俺一人では届かなかったであろう優勝。それを勝ち取ることができたのは……
「エリル」
「はい?」
戸惑う彼女にトロフィーを差し出す。
「え?え?」
「このトロフィーは俺たち全員の力で勝ち取ったものだ」
なんとなく『トロフィーは俺のもの』みたいな流れになっていたが
俺が戦ったのは決勝の最終試合だけ。立て役者は誰かという話になるなら
エリルやリサたち女三人だろ。ギルバルトも俺同様決勝まで出番がなかったし。
「え、え、わわ、重いです!」
俺から渡されたトロフィーを受け取ったエリルは本当に嬉しそうな表情をしている。
「あ。リサさんやナナさんも!」
そういって近くにいたリサにトロフィーを差し出すと
リサはぴたっと右手でトロフィーに触れるだけだった。
「やった!!!トロフィーゲット!!」
ナナはがっつりトロフィーを抱えてぴょんぴょんはねている。おいこら、落とすなよ、と後ろからギルバルトがぬっとトロフィーを抜き取るようにしてとる。
「あぶねぇな!ったく」
そういってトロフィーを高々と持ち上げる。
「あんた、触りたかっただけでしょ!」
「触っちゃだめなのかよ!?」
その後無事閉会式が終わり俺たちは一旦教室へと戻った。
他の生徒達は先に教室に戻っている。
「あぁー、そうだ。お前らこのあとどうする?」
「寝る」
ギルバルトの質問に俺は即答した。かなり眠い。
魔法を使うことで魔力を消耗するのなら俺の超能力は集中力を消費する。
使いすぎると頭が上手く働かないようになるのだ。まぁこれはこれからの慣れや訓練によって軽減できそうではあるが。なんにせよまだ力を扱う事に慣れていない
俺にとっては結構な不安が体にかかっているのだ。
「答えるの早すぎだろ!このあと打ち上げでもしようと思うんだが」
「賛成!」
真っ先に同意を示したのはナナ。
「打ち上げですか。いいですね!」
続いてエリルも同意。そういやさっきエリルの両親と会ったときに
今日は遅くなってもかまわない、みたいなことを母親から言われていたな。
ただし俺同伴の上で、とも言われていたが。
「問題ない」
リサも静に同意。
俺以外みんな賛成か。こいつら疲れてないのか?
「わかった。じゃぁ、ぱぁーっとやるか」
最後に俺も同意する。エリルが行くならどのみち俺もいかなきゃいけないし。
それにまぁ、優勝を祝うってのは大事だもんな。俺自身優勝できたことは
めちゃくちゃ嬉しいと思っているわけだし
「きまりだな。んじゃ、そうだな。俺の寮の部屋でいいか?」
「そうね。あたしもエリルもリサの家もここから結構距離あるし
あんたの部屋が一番妥当ね。」
「おし。じゃぁ帰りにいろいろ買って帰るか」
「おっけー。簡単な調理道具くらいは置いてあるんだろうし、
夕食の材料におかしなんかも買ってっと」
このあとのことを話しているうちに俺たちは教室へとたどり着いていた。
教室では何人もの生徒がうろたえていた。
「な……なぁ、俺、どうしよう。あいつのこと、すっげぇ馬鹿にして笑っちまった」
血の気の引いた顔で男子生徒。
「私もよ。どうしよう……殺されないよね!?」
動揺しうろたえる女子生徒。
「絶対怒ってるよね!?あれだけ馬鹿にしちゃったし。もうヤダ」
あまりの出来事に泣き出しそうになっている者さえいる。
頭を抱えているのは何も生徒だけではない。
2-Aの担任セラ・ロウ・ファスタルもまた胸のうちは不安だらけだった。
あの時、生徒に罵られる彼をかばうことなく傍観を決め込んでいた。
それは彼女がまだ教師になりたてでキャリア不足という理由もある。
しかし、教師としてあの場をおさめるべきであったことに違いはない。
だが誰がこのような未来を予想できただろう。
優勝するという彼の宣言をあの時、誰が本気にしただろう。
いや、いた。あの時多くの生徒が馬鹿にする中に彼らとは違った目つきを
したいた生徒が。
エリル・フォン・リピローグ。 彼をまっすぐ見つめる彼女の瞳には
揺ぎ無い信頼と期待があった。思えばリピローグ家が推薦した、という時点で
気づくべきだったのかもしれない。ただの小僧を、あのリピローグ家が推薦
するはずがない、と。
そして、リサ、ナナの二名の生徒。エリルとともに学年最強として名の挙がる
二人は彼を試すような目でみていた。同じチームのギルバルトは気持ちよさそうに
寝ていたが。
あの時、彼らはシラカミ ユウナギの持つ力に気づいていたとは考えにくい。
エリルに関しては恐らく前もって知っていた可能性もあるが。
彼らの戦士としての勘が、もしかしたらユウナギの特異性を見ぬいたのかもしれない。
戦場に置いて戦士の勘は己の命を救う。いつ、なにが起こるかわからない戦場において、勘が優れた戦士ほど生き延びる。
一流の戦士になるために必要なものは才能、努力、そして勘とセラは教わった。
自分には才能と勘はなかったな、とセラは自嘲気味に笑う。
そんなことを考えていると教室のドアががらっと音を立てて開いた。
教室が一瞬にして静寂に包まれる。
リサを戦闘にナナ、エリル、ギルバルト、そしてユウナギという順で
教室に入ってきた。
各々の席に座る。
ただそれだけの動作。にもかかわらず彼らの動きに生徒は注意深く目を
向ける。
生徒達が自分に目を向けてくる。そうだ。私が何か言わなければならない。
「えっと、まずは優勝おめでとうござ-」
「心にもないことを言うんじゃねぇよ 」
セラの言葉はユウナギによって遮られた。
彼から放たれるプレッシャーに体を硬直させる。
誰一人物音を立てない。背中をぴしっと伸ばし硬直している。
セラはユウナギの凛とした言葉に口を閉じる。
その言葉には物を言わせぬプレッシャーがあった。
それ以上口を開けばただでは済まないぞと脅しをかけられているかのような。
「申し訳ありません。これから打ち上げをやろうと思っているので、
用件だけ短く伝えてくださると助かります」
エリルの発言は言葉こそ丁寧だが発言の内容は教師に言うようなものではない。
その後担任の短い事後連絡の後解散となった。
優勝チームが自分のクラスから出たにもかかわらず、2-Aの雰囲気は最悪
だった。それを作ったのは他でもない自分達にあるのだ、と生徒や教師は
反省する。
「じゃぁ、行きましょ」
ナナの言葉を合図に五人は立ち上がり教室を後にした。」
五人がいなくなったことで生徒達は緊張を解く。
「俺、死ぬかと思ったわ。生きた心地がしねぇよ」
「あたし、膝の震えがとまらなかったよ」
余談だがこの経験がセラにとって苦いものとして脳裏に刻まれたことは
言うまでもないだろう。セラはこの経験を生かし後に生徒の気持ちを
考え多くの優秀な人材を導いていくのだが、それはまだまだ先の
話だ。




