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黒の銃騎士   作者:
始まる物語
2/37

プロローグ すべての始まり

『超能力』


そんな馬鹿げた力を持って生まれた俺は何の変哲もなく過ぎていく

日常に逆らうことなくただ身を任せるように過ごしていた。

 

 漫画のような『超能力者』同士の戦いの日々なんてどこにもない。


 子供の頃はよく『俺が伝説の超能力者だ。死にたくなかったら消えな!!』

とかいう病気みたいな妄想をしていたものだが、今となってはその辺にいる

平凡な高校生となんら変わりない『普通の少年』だ。

 何かやりたいことがあるわけでもなく、これだけはやり遂げたい、

というような信念もない。ただ生きているだけ。その他大勢の一人。


 部活に勤しむわけでなければ勉学に精力的に取り組むでもない。

 どちらもそれほど努力せずともある程度のレベルまでは楽に到達

できるのでそこで満足してしまう。何かを極めるためには、持ち前の素質

も重要だが、その素質を最大限に生かすために努力することが不可欠なんだろうな、

なんてことを偉そうに考えてる。

 

 もし俺が『超能力』を持って生まれなかったらもしかしたら違った

生き方ができたかもしれない。

 けれど俺はその『力』を持っているためか、ありのままの日常を普通の人間のように受け入れることにどうしても抵抗があった。

 普通の人間が持ち得ない『力』を持っているから、それはある意味では当然のことだろう。


 超能力ものの映画や漫画を見て何度も思った。


 こんな世界に行きたい。


 こんな世界で自分の力を思うまま使い自由に生きたいと。


『どこまでも思うがまま自由に過ごせたらいいのに』


 昔からずっと抱いている想い。

 この世界は広いようでとても狭い。それはきっと『常識』という見えない鎖に縛られて

いるから。

 その世界の中でもさらに小さいこの島国で生きていかなければならないのかと考えると

なんとも言えない気持ちになる。きっとこんな風に思ってしまうのは

俺が『普通』と違うから。普通の人間だったらきっとこの世界はそれ相応に

満足でき、そして美しい世界に思えるはずだ。


超能力なんて持っていてもそれを表立って使おうものならどこぞの施設に入れられかねない。

いや、最悪殺されかねない。人は未知なるものに恐怖を抱く。俺のこの『力』は間違いなく

人類にとって未知なるものだ。それが既知に変わる日が来るのなら、俺も少しは窮屈感から

解放されるかもしれない。そんな日がいつくるのかなんて分かりもしないが。

 

 だから俺は自分が『異端』であることを隠して生きなければならない。

 

 自分を偽って生きなければならない。


 何の変哲もない右手。

 教室にいる者の多くは教師が黒板に書いていく文字を

ノートに写すべくペンを握っている。右手を少しもちあげる。

 周りの生徒に怪しまれない程度に。右手で『あるもの』を掴むような動きを

とる。

 その手はただ何もない空間を握っているだけ。そしてその手を引いた。

 その直後どさっと音をたてて床に落ちるものがあった。

『カツラ』だ。

 音に反応した教師は黒板に文字を書いていた手を止めて頭を触る。

 そして異変に気づく。慌てて床に落ちていた『モノ』を拾う。

 生徒達はその光景を声を出さないようにして笑っている。

 あるものはわざわざ寝ていた者を起こしてその光景を見せ、状況を

説明し笑いを誘っている。


「今日の授業はここまでだ!!チャイムが鳴るまで次の予習をしておくように!」


 そう言って教師は慌てて教室から出て行った。

 言うまでもなく今のこの『出来事』を起こしたのは俺だ。


 先ほどの右手で何かを掴むような動きは教師のカツラを掴むイメージをして

行った。

 俺の持つ力。端的に言うなら『空間を自在に操る力』。

 ただこれだと漠然としすぎている。しかし俺自身、自分の力について

完璧に把握しているわけではない。

 さきほどの行為は空間を操る、というよりは俺が指定した

『空間内』の『空気』を操ってカツラを動かした。


 力を用いる際にもっとも使う方法はこれだ。離れたところにあるリモコンを

取る際に使ったりする。非常に便利だ。問題があるとすれば家族に見つからないように力を使うこと

だけ。

 初めて力に気づいたのは小学校低学年の頃。

 

 母親にこれ以上食べてはいけない、といわれ棚の上のほうにおやつを

しまわれた時だ。

 もっと食べたい、そう思って手を伸ばしても絶対に届かない。

 どうにかほしいと願っていたらおやつがふわりと宙に浮かび、

そして俺の元へと落ちてきた。

 それが初めて力を使った瞬間だった。

 それからも時々力を無意識のうちに使うようになり、いつしか意識して

使えるようにまでなった。


「見事にズラがとれたな」


「私、声を出して笑っちゃいそうだったよ!!」


「絶対声に出して笑っちゃ駄目よ!あいつ、笑った生徒の成績表を悪くするから」


 クラスの生徒が先ほどの出来事を口々に言い合っている。

 俺はただぼんやりと空を眺めていた。

 俺が先ほど教師にこのような行為をしたのはいつも授業に集中していない俺の

成績をテストの点数を差し引いて低くつけるからだ。ま、俺が逆の立場、教師だった

なら、自分の授業を真面目に聞かない生徒にいい成績をつけたりなんてしない。

だからこれは、成績を低くつけられることへの怒りとかではなく、力をおおっぴらに

使えないことでたまったストレスの、ちょっとした発散だ。先生には悪いけど。


 空をぼんやり眺めていると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 4時間目の授業が終わり生徒達は持参した弁当を鞄の中から取り出したり、

昼飯を求めて食堂へと向かう者など各々自由な行動を取り出した。

 俺はというと弁当片手に屋上へと向かった。

 教室に居るのは息がつまる。

 

 俺には友達と呼べる者はいない。別にそれを悲しい、と思ったことは一度もない。

 むしろ煩わしい者がいない分『自由』だとさえ、思う。

 それにたとえ友達がいたとしても、俺はそいつの前でも『普通』の人間を演じなければらない。

 自分自身を偽っているのに、本当の友情が築けるはずがない。

 そんな表面上での付き合いしかできないのなら、最初から友達なんて作らない方がましだ。


 そんな俺にも友達、というか『同族』の知り合いが一人だけいることには

いるのだが、今この場にはいない。元気にしてるだろうか。年を取っていくにつれて比例する

ように会う回数が減ってしまった。それを少し寂しく思う自分がいる。

 だが、あいつにはあいつの生き方がある。どんな生き方だって?それは知らない。

 知らないけれど、俺が干渉していいことではない。人生は人それぞれ。もし縁があれば

そのうちまたどっかで会うだろう。確か中学にあがる頃に引っ越したみたいだけど、

同じ県内だ。


 屋上へと続く扉を開ける。

 屋上にはいくつかベンチが設置されている。時々カップルの先着があったりするが今日は俺以外の姿は見当たらない。ラッキーだ。カップル空間に踏み込むことには結構な労力を要する。あいつら、完全に

二人だけの世界に入ってるからな。


 奥にあるベンチに腰を下ろす。


「ふぅ」


 一息つく。

 最近どうも寝不足だ。

 目を擦る頻度が多くなっているのもそれが原因だろう。

 寝不足の理由は分かっている。

 『夢』だ。

 最近毎日のように見る夢がある。


 夢というのは起きる頃にはほとんど忘れてしまっているものだが

こう毎日も見せられると記憶として定着してくる。

 夢の内容はいたってシンプル。

 

 少女が『助けて』と救いを求めているのだ。

 残念ながら毎回少女の顔は暗くて見えない。少女の顔だけでなく、周りの風景も全体的に

暗いことから夜なのだろうか。

 共通しているのは少女が俺に向かって助けを求めるということ。

 顔が見えないので俺の知る情報はその少女の声だけ。

 さきほどから『少女』と言っている理由はその声が若いから。

 といっても声を聞いただけでその声の主の年齢を正確に把握できる、という

能力は持ち合わせていないのでもしかしたら少女というより『女性』と

表現する方が正しいかもしれないのだが。少なくともおばちゃんやおばあさんの

声でないことは確かなのだ。

 それにしても、初めてこの夢をみたときはベッドから転げ落ちるくらいびびったものだ。

 少女の叫びではっと目が覚めた時は全身から汗をかいていた。覚えているのは少女が助けを求めるワンシーンのみなんだけど。

 

 今じゃぁ「そろそろくるな」などと余裕ができたが、それでも目が覚める。

 

 正夢、というものがある。もしかしたら俺が見るこの夢は未来の俺の状況を

暗示しているのだろうか?夢占い、などというものにはとんと疎い俺にはよく

わからないが。俺の夢に関する知識など一富士二鷹三茄子くらいなものだ。

 包みを広げて中から現れた弁当箱のふたを開ける。

 代わり映えのしないメニューだな、といつもと同じような感想を抱いたときだった。


『助けて!!!!主様!!』


「ん!?」


 声が、聞こえた。

 呼ばれたの、俺?いや、もしかして誰か他の人を呼んだのか??

 

声の主を探そうとあたりを見回したもの屋上には俺以外の生徒は誰もいない。

 だが、声の主が回りにいないという事実以上に俺を驚かせたのは、その『声』を

聞くのが初めてではなかった、ということだ。その声はまさしく俺がここ最近毎日

見た夢にでてくる少女の、助けを求める声にほかならなかった。


『お願い……あたしを助けて!!!!』


 助けてといわれても、どこにいるのか分からなければ助けることなど不可能だ。


「どこにいるんだ?」


 場所がわかったところで俺が力になれると決まったわけではないが、それでも

居場所を尋ねる。しかしすぐに返事は返ってこなかった。

 思わず立ち上がっていた俺はベンチに再び腰を下ろした。

 傍から見たらどう見ても俺は精神に異常を来たした男にしか見えなかっただろう。

 回りに人がいなかったのは幸いと言える。独り言をつぶやいていた危ない野郎と

思われてはこれからの学校生活に支障をきたす可能性がある。いや、ひねくれて友達を作ってこなかったのですでに浮きまくってるから別にそれほど変わらないような気もするが。


「ふぅ」


 今日何度目かのため息をつく。幻聴まで聞こえるとは。疲れてるのか。

 疲れるほど何かにがんばっているわけじゃないんだが。

 弁当食ってさっさと教室にもどって寝ようと思った直後。

 俺の目の前に巨大な『何か』が出現した。

 これは、なんだろう。魔法陣、というのが一番的確なのか……?

 魔法陣というものを見たことがない俺にはこのたとえが正確なのか

 わからないが、しかしそれは魔法陣という表現以外どう表現したらいいのか

 わからなかった。円状の形をしたそれ。大きさは直径2mくらいだろうか。

 ところどころに神聖文字のような見慣れぬ文字が書き込まれている。

 幻聴に続き幻覚とは、精神病院に行ったほうがいいな。これは。


『貴方の力が必要です!!!!!!』


 もう一度、声がした。その声は魔法陣の中から聞こえてくるようだった。

 切実に助けを求める声。先ほどの声とは違ったような気がする。

 呼び方が『主様』から『貴方』になってるし。

 断言はできないけれど。


 ってか魔法陣?から声が聞こえてくるというこの状況、ちょっとやばすぎないか?

 ファンタジックすぎだろ。いかにもなかんじだ。どうすればいいんだ?ってか

これ俺以外の人間にも見えているのだろうか?誰か周りにいたら普段人とほとんど

はなさない俺だが間違いなく声をかけて聞いたはずだ。

 

 えーっと、どうすりゃいいんだ?これってたぶんあれだろ。触れたら

異世界に飛ばされる、という感じのパターンだろ。そんな状況くるわけが

ないと思っていたがこうして直面してみるとうろたえるほかない。

 いや、何度かこれと似たようなパターンの妄想をしたことはあったが

それでも冷静さを失ってしまうほどに俺は驚いている。


 悩むこと一分。俺は意を決した。『助けて』。誰かが俺の助けを求めて

いる。今まで誰かに頼りにされたことのない俺にとって人に助けを求め

られるというのはとても新鮮な気持ちがした。なんていうか胸が熱くなる、

というかちょっと嬉しくて涙が出そうになってしまった。この事実は

墓場まで持っていこう。恥ずかしすぎる。

 


 だからその時の俺の行動を責めないで欲しい。

 俺は右手で魔法陣に触れた。

 きっといつもの俺とは何かが違ったんだ。

 つまらない日常に腐りきってしまった俺にとって、あまりにもその

魔法陣はまぶしすぎたんだ。

 


直後、俺の体を光が包んだ。

そして、俺は異世界へ『飛んだ』。


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