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黒の銃騎士   作者:
学園編
16/37

十四話 『氷結』VS『風鈴』

ー模擬戦二日目ー




『さぁ!!ついに決勝戦の日がやってまいりました!!!!』


 昨日と同じ審判がマイクを通して会場に響き渡るように話す。

 審判の特徴を軽く説明しておくと職業はここアルバノス学園の教師。

 担当は主に魔法知識。俺の記憶が正しければ一度彼の授業を受けている。

 記憶があやふやなのは俺がその授業を全く聞いていなかったからだ。

 魔法知識なんて魔法を使えない俺に何のメリットがあるんだよ……

知もまた力なり、なんて言うが根本的なところで魔法を理解していない

俺にとっては模擬戦のように実際の魔法を打ち合うのを見ていたほうが

理解できるような気がする。学園の授業の中には実践練習もあるそうだが

模擬戦前ということで体調を整えるために実践練習ははずされていた。

 せっかく通っているのだから実践練習に参加することで生徒としての

自覚を深めたかったんだけどな。


 



『決勝戦 先鋒戦の対戦者を紹介します!!』

審判が一息入れる。観客たちが審判の声に耳を傾ける。


『二学年チームの先鋒は『氷結』のリサ・マルトーズ!!!!!!!

二つ名が示す通り特殊系統氷魔法を得意としています!』


 おおおおおおっと観客たちから拍手が沸く。

 俺も釣られて拍手してしまった。

 さすが二つ名持ちというだけあってリサの知名度はかなり高いようだ。


『三学年チームの先鋒は『風鈴』のジョージ・ゴ・ラッドン!!!

無駄なことは口に出さず背中で語る男!!!どんな試合を見せてくれるんだぁああ』


 おおおおおおっと再び歓声が沸く。聞いていると女子の歓声のほうが多い。

 ジョージの外見は審判が『背中で語る』というだけあってまさに『漢』を

表したかのような偉丈夫。筋肉ムキムキの高身長とは、俺とは正反対だな。

 いや、言っても俺まだ17歳だしまだまだ身長が伸びる可能性はあるけどな。

ちなみに俺は165cmだ.……いや、気にしてないからな。。

なにせ俺はまだ17。これから伸びるって。そうだろ?


「二つ名の風鈴ってのはなんだ?」


 変な考え事を頭の中から追っ払うために隣に座っているエリルに問う。


「風魔法の上級魔法の一つです。風鈴を出現させ『舌』を自在に操り

外部の金属部分に当てることで『風』を生み出す魔法です」


 へぇー。なんかすごそうだな。つまりその生み出した風で攻撃したり

相手の魔法や物理攻撃を防御できるってことだろう?

 ちなみに『舌』っていうのは風鈴の紐の先についてる重りみたいなやつだ。



「相性的にはどうなんだ?」


「微妙なところです。特殊系統魔法の最大の利点は弱点が基本四元素魔法に

比べて曖昧になる、というところなのです。ただ『風鈴』による振動で風を

生むことができるので新たに魔法詠唱による魔法陣の出現を必要としない点

が大きく影響してくると思います」


 なるほど。弱点は減るわけか。氷に有効そうな属性って、火魔法系だろうし

相手は風魔法の使い手みたいだから相性的にはそれほど優劣はないのだろう。

ただ時間的コストがあの偉丈夫は少なくて済む、と。



『それでは先鋒戦を開始します!!!!』



 審判の合図を機に両者が距離を取る。

 やはりどちらも遠距離型の魔術師なのだろう。

 試合の主導権を握ったほうが勝つ。

 俺は静かに闘技場に立つリサを見つめた。




 リサは開始直後すぐに距離を取った。遠距離型の魔術師にとって一番

重要なのは対戦者との距離。懐に潜り込まれることが一番の弱点と

なるからだ。相手も自分同様遠距離型なので距離を取っている。

 対戦相手、ジョージの情報はある程度集めている。

風魔法の上級魔法『風鈴』に特化した魔術師。

 リサは詠唱を開始する。それとほぼ同時にジョージも詠唱を開始した。

詠唱を唱え終わったのはほぼ同時だった。


『氷魔法・氷刃』

『風魔法・風鈴』


 氷の刃がジョージ目掛けて飛んでいく。中級魔法ではあるものの

 魔力を必要以上に込めているので威力は上級魔法にも匹敵するはず。


氷の刃がジョージに当たる数m前で風によって吹き飛ばされた。


『リーーーン』と風鈴が音を発している。


「っく……!」


 風鈴により生み出される風。

 さすがは『風鈴』を極めただけのことはある。舌の扱い方がうまい。

 私の生み出した氷の刃を吹き飛ばせる風を最低限の力で生み出したのだ。


「次はこちらから行く」


 ジョージが両の手をを交差させる。


 その瞬間再び風鈴が音を響かせ二つの風の刃が生まれる。


『風魔法・かまいたち』


 まずい。今から詠唱を唱えても防ぎきれない。

 リサはそう判断しすぐに立っていた場所から右の方向へ

走り出し回避行動を取る。同時に次の手のために魔法の詠唱も始める。


 一つ目の刃を避けることには成功したものの二つ目の

刃が右足を掠った。


「っつ!!」

 右足の痛みにより転倒したものの詠唱を続ける。

 こんなに簡単に負けるわけにはいかない。


『氷魔法・氷結世界』


 直後リサを中心として地面が氷に覆われていく。

 超広範囲殲滅魔法。私のもつ氷系統魔法の中で最も強力な魔法。

いわば切り札であり私の二つ名の由来となった魔法だ。

 この魔法は地面だけでなく空中に存在している

固有物体をも凍りつかせる。あの厄介な風鈴の動きを

止めることができれば勝機はこちらにある。



「刃を魔法で防ぐのではなく次の一手のために攻撃魔法を

唱えたのは見事」


だが、と男は続ける。


「距離が離れすぎていたな」


 ふっと爽やかに笑った直後男は高らかに言い放つ。


『風魔法・怒れる龍の息吹』


 先ほどとは比べ物にならないほどの音を風鈴が響かせる。

 闘技場から離れた控え席にいた俺が思わず顔をしかめてしまったほど

音は耳をつんざいた。


 音が響いた直後、風鈴から巨大なビーム上の風の竜巻が出現し、

じわじわと氷漬けにされていた地面ごと吹き飛ばす。


「っそんな!?」


 リサの口から思わずそんな声が漏れる。

 凍てつく氷の世界は速度こそ速くはないものの触れた物体を凍りつかせる能力

なので衝突した魔法をも凍りつかせる。しかしそれが凍ることなく吹き飛ばされている

ということは、私以上に術に魔法を込めていたということ。


 ビーム上の風の竜巻が目前まで迫る。大きさから判断して完全に避けきることは

できない。仮に急所を避けることができてもとてもじゃないが無傷のあの男と

戦うことはできないだろう。


ーーごめん、みんな。



 心の中でチームの皆に謝りながらリサは目を閉じた。


 直後猛烈な衝撃が体を襲う。

 自動防御魔法が発動してなおこの威力なんて……

 そんなことを思っているうちにリサは気を失った。


 それから数秒後、ようやくジョージの魔法が消え去ったところで

審判が結果をコールする。


『勝者、三年生チームジョージ・ゴ・ラッドン!!! 先に一勝を手にしたのは

三年生チームだぁあああ!!!しかし実に見事な試合でした!!』


 審判の言葉に観客席から両者をたたえるように拍手が沸く。



 闘技場で倒れていたリサには医療班がすぐに駆け寄っていき治療室へと

連れて行った。外傷はないようだったが念の為にだろう。今まで圧倒的な

実力を持って試合を制してきたリサが負けるのを見て俺は改めて生徒会長

チームの強さを改めて実感する。今まで見てきた試合とは格段にレベルが

上がり見ていて非常に興奮するものがあった。なんて表現したらいいんだろ

う。今まで俺が想像してきたような魔法合戦だった。



「リサさん……」


 エリルが心配そうな顔でつぶやく。


「エリル、あんたがそんな顔してどうすんの。次はあんたの試合でしょ。

気張っていきなよ」


 元気づけるようにナナが言う。


「はい。そうですね」


 暗い気持ちを払うように顔を左右に振りエリルは立ち上がった。


「必ず勝ちます!」


「その意気よ」


「お前ならやれるさ」


「がんばんな!」


 エリルに向けて三者三様エールを送る。

 ゆっくりと頷いてからエリルは闘技場へと向かっていった。





「お疲れぇ~」


 カヤが帰ってきたジョージにタオルを渡しながら話しかける。


「うむ」


「この一勝は重要よ。っま、あんたのことだから心配はしていなかったけどさ」


「フン」


 ジョージは受け取ったタオルで額の汗を吹きながら先ほどの試合を思い出す。


 闘技場という平坦な地理は風魔法を使う自分には障害物がないという

アドバンテージを与えてくれる。もしこれが山林だったならば風の軌道に

影響があっただろう。それに、あの少女がもう少し自分の近くで魔法を

放っていれば俺の元へとたどり着く時間が短くなり、結果俺が満足に

魔法に魔力を込めることができず火力で負けていた可能性もあった。


 っま、勝ちは勝ちだがな。


 フっとジョージは再び笑った。得た勝利を確認するように。


「嬉しそうじゃねぇの。まぁ、なかなかいい勝負だったから気持ちは

わかっけどよ。んじゃ、俺はそろそろ行ってくるわ。期待して待っててくれよ」


 プラプラと手を振りながらいつもどおり軽い調子でシーサーは

闘技場へと向かっていった。


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