十三話 『模擬戦一日目』
ー模擬戦一日目ー
場所は闘技場選手控え席。
俺はだらんと椅子にもたれかかっていた。
時刻は11時を回ったくらいだ。
選手控え席にいることからすでに察しているかもしれないが
現在俺たちのチームは試合中だ。
俺たちのチームはシード権を与えられていたのでほかのチームより
人試合分少ない。ちなみにこれが二試合目で昼前最後の試合だ。
正直な話、試合を見ていてもあまり面白くない。
いや、応援はしてるぞ。けどなぁ。
『勝者・リサ・ル・マルトーズ!!!』
汗一つかかずいつもどおり冷静な表情をしてリサは選手控えへと戻ってきた。
「おつかれさん」
俺は飲み物を差し出す。今日の俺はマネージャー役に徹していた。
「ありがとう」
俺から飲み物を受取りごくっと一口飲む。
「んじゃ行ってくるわ」
「おう」
ナナが立ち上がり闘技場へと歩いていく。
一切気負った様子がない。
まぁ、そりゃそうだよな、
『次鋒戦開始!!!!!!!!』
審判が高らかに試合開始を宣言した直後。
ナナが後方に飛ぶ。口元が動いているので同時に
詠唱も行っているようだ。一般人からすると動きながら詠唱するのは
非常に難しいらしい(詠唱に集中できないから)がここの生徒の半分以上は
動きながら詠唱している。さすがエリート高といったところだろうか。
ナナの対戦相手のほうはその場から動かずに詠唱をしている。
しかし詠唱速度は圧倒的にナナの方が速いようですぐに魔法陣が出来上がる。
『炎魔法・炎の千本針』
術名を唱えた直後、魔法陣からかなりの数の炎の針が対戦相手をめがけて
飛んでいく。名前からするに千本あるのだろうか。
「っな……!?速い……くそぉ!!!!!!」
対戦相手はナナの放った魔法を忌々しげに見つめている。
どうやら詠唱を唱え終えられなかったらしく魔法を相殺しようという
意思は無いようだ。つまりまぁ、勝負を諦めたということだ。
防御を取らなければあの針が体中に突き刺さって針地蔵になっちまうぞ、
と今日の朝の俺なら思っただろうがもう動じない。
対戦相手目掛けて飛んでいった炎の針は相手の体に突き刺さることなく
空中に静止している。
『自動防御障壁魔法』
俺の着ている学校の制服にはこの『闘技場内』にあらかじめ設置されている
『防御障壁』と対応しており、対戦者の命が危機に瀕するような状況に
なった際は着衣者の意思を問わずに防御障壁が発生するようになっている
らしい。今日の朝聞いたばかりなんで俺自身まだ詳しくわからないが
車のハンドルについてるエアバックの魔法版と思ってもらえばいい。
だからナナの対戦相手は無数の炎の針が飛んできても
それほど動じなかったわけだ。命が危険にさらされることはない、と
あらかじめ分かっていたわけだからな。
『勝者・ナナ・サン・フォーラル!!!!!』
わぁあああっと歓声が闘技場に響く。
『さすがはフォーラル家の娘だ』
『先ほどの試合といい、二つ名持ちの生徒は別格だな』
『更にリピローグ家の娘もいるんだろ?二学年でこのチームに勝てる
やつらはいねぇよ……』
といった声が観客席の方から聞こえてくる。
なぜ俺が退屈そうにしているかはもうわかっただろう。
俺のチームの女三人が強すぎる……
一試合目からどの戦いも開始から一分もかからずに決着がついている。
他のチームが拮抗した勝負をし、必死に応援している生徒たちも
いるのに対して俺のチームは余裕の表情で控え室に帰ってくるとなるとな。
盛り上がりに欠けるだろそりゃ。
ちなみにナナが二つ名の由来である『炎剣』を使わないのは
できるだけ魔力を温存させるためらしい。
言い方を変えれば雑魚相手には使う必要がない、ってことだろう。
リサやエリルも上級魔法は使わずに戦っている。
優れた魔術師の条件として『詠唱速度』があり、この三人は
他の生徒よりも圧倒的に詠唱の速度が速い。そのため相手が
魔法を唱える前に魔法を発動させることが出来、速攻で
勝負がつくというわけだ。俺のイメージとしてはもっとこう
派手な魔法合戦を繰り広げるのかと思っていただけにいろいろと
新鮮な気持ちを持った。
そんなこんなで次の中堅戦のエリルも難なく勝利を収めた。
このあと軽い昼食をとったあとの午後の部も三人の勢いは
収まるどころかさらに加速していき二学年優勝を難なく収め、
三年生優勝チームとの対戦権を獲得するための一年生
優勝チームとの最終試合でも、流石は一年生優勝チームということもあり
今までのように一分以内で終わるというような短期決着ではなかったものの
ストレート勝ちで俺たちのチームが勝利した。
言わなくてもわかることだろうが三年生優勝チームは生徒会長チームだ。
エリルたちの試合が行われているときは彼女たちを応援していたものの
それ以外の時間は特にすることがなかったので(エリルたちは試合が終わる
ごとになにやら調整とかでどっか行っていた)俺とギルバルトで
何度か生徒会チームの観戦したのだが、予想以上に強かった。
俺たちのチーム同様全試合一分以内で終わらせているものの
さすがは最高学年同士の戦いというか、『生徒全体の実力』が高く
勝負は短いものの見ごたえは二学年や一学年の勝負とは比較にならない
ものだった。
俺が特にすごいと思ったのは『シーサー』という男。
あのやたら軽い口調のやつだ。
やつのことは好かないが奴の勝負は実に『見事』だった。
詠唱速度はもちろんのことだがまず相手の『分析』が非常にうまい。
冷静に相手を観察することで相手の試合の運び方を見極めてから
自分の土俵へと引きずり込む。
やつ自身のプレイスタイルを一言で表現するなら『トリッキー』だ。
とにかく何をしてくるかわからない。
感じたのは『強い』というより『巧い』ということ。
生徒会メンバー個人の実力関係はともかくとして戦って厄介そうなのは
あの男だなと思った。
まぁ、どんだけ奴らが強くても俺まで回ってくればいいんだ。
3-0で勝たなくても2-2で構わない。
あとは俺が決めてやるさ。などと考えている闘技場にアナウンスが響く。
『これにて模擬戦一日目を終了いたします。明日は二学年優勝チームと
三年生優勝チームの決勝戦です。是非お見逃しのないようにお越し下さい』
アナウンスを合図に観客たちは帰路に着き始める。
ー模擬戦一日目終了ー




