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黒の銃騎士   作者:
学園編
12/37

十話 『宣言』

 教室はとてもざわついていた。

 無理もない。『転入生』というのはアルバノス学園にとって

非常に珍しい。どんな生徒が来るんだ?という好奇心が

生徒達の心を支配していた。


 エリルは自分の席に着きながら思う。

 ユウナギ様は何か覚悟を決めた顔をしていた。

 何かするつもりなのだろうか。ううん。何も心配いらない。

 だって、ユウナギ様は……


 エリルが危険を冒してまでグリテンと国境をなす土地にある

地下聖堂まで通っていたわけ。それは古い伝承に由来する。


『いつ来るかわからぬ未来にて、この地下聖堂に男現る。

その者、知られざる力を用い勇名を馳せ大地に平和をもたらさん』


 古い本で読んだ一説。何百年も前に書かれた本だ。

 その本に書かれた地下聖堂について心当たりのあったエリルは

迷わずその聖堂に通うことを決意した。


 もしも伝承が本当なら、仮初の平和ではなく本当の平和がこの世に

訪れることを意味するのだから。その本を読んだのが今から

5年ほど前。そしてその頃から、時々ある夢を見るようになった。

さびしげな瞳をした少年が出てくる夢。時に震えるほど冷酷な

表情をし、時に全ての罪を許すような微笑を称える少年。


 これが『予知夢』という能力だということはあとになって知ったことだ。

 グリテン帝国王女のもつ『未来予知』と比べると夢でしか未来を見ることができず、

また朝になれば見た未来の記憶があやふやになってしまう、という点で大きく

劣ってしまうけれど。それでも何度も同じ未来の夢を見ることであの地下聖堂に

少年が現れる未来がある程度掴むことができた。だからエリルは毎晩危険を冒してまで

あの地下聖堂に行っていたのだ。それはひとえにその少年にあってみたい、という好奇心から。


 そして数日通った末についに私は彼と会うことができた。

 あの場にグリテン三大騎士の一人である龍騎士が現れたのは帝国の王女の未来予知で

私と同じような未来を見たからだろう。現れる日にピンポイントで竜騎士を送ってくる

あたりからも私との未来を見る力の差が明らかだった。

そんなことを考えていると扉が力強く開いた。


 入ってきた少年をクラスのみんなが食い入るように見つめている。

 エリルもまた同じようにユウナギを見つめた。




「えー、では自己紹介をしてもらおうかな」


 担任の女教師が俺に自己紹介を促す。めがねをかけてスーツに身を包んでいる。

いかにも『エリート』という感じだ。


「今日この学園に転校してきた白神 夕凪だ。二つ言っておくことがある。

一つ目は俺は魔法が使えない。そもそも魔力がない」


 その言葉に教室のざわめきは頂点に達した。


「おいおい、魔力がないってどういうことだよ!?」


「いや、魔力がない人間なんて存在するのか???」


「っつか魔法が使えないならなんでこの学園に?まともに戦えないだろう?

どうせリピローグ家の権力を使ったんだろけど」


 ざわめきは戸惑いから誹りへと姿を変える。

 エリルは黙って堪えた。本当はいますぐにでも『だまれ!!ユウナギ様は

お前らなんかが想像もつかないほど強いんだ!』と叫びたかった。でも堪えた。

まだ、彼の話は終わっていないから。


「そして二つ目」


俺が言葉を発したことで生徒は押し黙った。これ以上何をいうつもりなんだ?と

蔑んだ目をしている。


「今年行われる魔法模擬戦で俺は優勝することをここに宣言しておく」


「はぁ!?!?!」


「おいおい。あいつなに言ってんだ?」


「ばーか。冗談にきまってるだろ。本気で言ってんなら頭いかれてるぜ」


 ユウナギの言葉に対して生徒達が罵る中エリルは微笑を称えていた。

 生徒たちの罵りなど意に介さずただ悠然と佇む姿は洗練された騎士を思わせる。

 エリルは自分が感じたことがない感情が芽生え始めていることに気づいた。

 けれどそれが一体なんなのかを具体的に説明することはできない。


「ただ」


 彼はそこでさらに言葉を紡いだ。


「俺の力だけで優勝することはできない。もう一人協力者が必要だ。それも

力に自信のあるやつのな」


 ユウナギの言葉に教室が一瞬静まる。その後


「一人?え?どういうこと?」


「たぶん人数の中にリピローグがすでに入ってるんだろ」


「あと一人って、おいおい、全試合ストレート勝ちするつもりかよ。ありえねー」


「なんかしらけたな。どうせなら強い奴三人募集して『俺を優勝させろ』とか

言ったほうがギャグとしては満点なのにな」


「えー、シラカミ、終わりか?」


「はい」


「なら席につけ。お前の席はリピローグの隣だ」


 自分の席へと向かう途中『バーカ』や『さっさと失せろよ』などといった暴言を吐かれたが俺は一切気にしなかった。


「ユウナギ様!堂々たる宣言、お見事でした!」


席についてすぐエリルが俺のほうを向いて小さくぱちぱちと手を打ち合わせる。


「このくらい最初にいっておきゃぁもう騒がれることもねぇだろ」


 さて、あとは強くて聖女のような心をもった奴が『貴方に協力してあげます』と

言ってくるのを待つだけだな……まぁ、一人くらいいるだろ、そういうやつが。

いないと、困る。とっても。



 その後授業が行われいつしか放課後となった。

 授業は『魔法学復習』という名目のものだったが俺は何を言っているのか

よくわかなかったので前の世界でしていたように空を見上げていた。

 空を見ながら『世界は変わっても見上げる空と授業中の態度は

かわらねぇな』などと考えていた。


 エリルの帰りましょう、という一言にそうだな、と腰を上げようとしたところで

一人俺たちのほうに向かってくる生徒が目に留まった。

 女子生徒だ。赤い髪をしている。背はエリルより少し小さそうだ。

彼女は俺の前に来て口を開いた。


「さっきの言葉。本気?」


 となりでエリルがのどを鳴らす音が聞こえる。

 さっきの言葉、というのはあれか、優勝宣言のことだな。なんだ、からかいにでも来たのか?


「俺は嘘はつかない」


 言った言葉は必ず実行するのが俺の流儀だ。逆に言えば口に出さないことは一切しないがな。

 無言実行って言葉があるが俺には無理だね。俺は口に出すことで『あぁ、言っちまったからにはやらなきゃな』っていう具合に自分自身に責任を課しているのだから。時々でかいことを言いすぎてしまうのが欠点だ。自覚はしてる。


「そう。じゃぁ私も入れて」


「おう」


え!?


「え!?」


俺の心の叫びを代わりに隣のエリルが言った。

思わずおうと言ってしまったがちょっとまて。どういう状況だ。

いや、どういう状況も客観的に見ると俺のチームに加わりに来たという至ってわかりやすい場面だよな。うん。


「本気なんですか?」


「私は嘘は言わない」


エリルは内心驚きと歓喜に満ちていた。

協力を申し出てきた女子生徒の名は『リサ・ル・マルトーズ』。

ランクはエリル同様A。二学年最強は誰か、という話題には必ず

名が挙がる生徒だ。昨年の模擬戦では二回戦で生徒会長チームと当たり

敗北。しかしエリル同様ストレート負けしているので大将を務めていた

彼女まで順番は回っていない。また彼女は『二つ名』持ちだ。

戦力としては十分すぎるほどだ、というよりもこの状況において最高の人材と言える。


「なんだ、先客がいたんだ。」


更なる来訪者の声にエリルは声のほうを振り向く。そして再び驚く。

隣にいるユウナギは気配で気づいていたのか冷静に彼女と、彼女の

後を気だるそうについてくる男子生徒を見ていた。


「あんたたちとチーム、組んであげるわ。」


「いいんですか?」


「ええ。ああ、こいつもね」


 二人目の来訪者は後ろからついてきていた男子生徒を指で指す。

 二人目の来訪者の名は『ナナ・サン・フォーラル』。

 ランクはA。

 昨年の模擬戦では準決勝まで駒を進め先鋒として生徒会長チームに臨んだ彼女は

敵の先鋒を倒しチームに一勝をもたらした。昨年生徒会長チームから勝利をもぎ取ったのは彼女だけだ。彼女の後ろにいる男子生徒。

 名は『ギルバルト・ゴウ・オーゼル』

 彼は確かランクはCだったはず。しかし昨年はナナと同じチームであり

大将を務めていた。基本的に大将は『チームの中でもっとも強い生徒。もしくは二番目に強い生徒』が務めるのが基本だ。ナナのチームの戦略は一番強いナナを

先鋒に持ってきたか、もしくは一番強いギルバルトを大将に持ってきたのか

のどちらかだろう。どちらにしてもナナに認められているのだから戦力として問題はなさそうだ。


「しかしまぁ、まさかあんたが来るとはね。」


ナナはリサを見て言う。


「興味が湧いたから」


「ふぅーん。具体的に教えてよ」


リサは少し考えた後口を開いた。


「あのとき、彼は嘘をついているように見えなかった。魔法を使えないということ

に関して。でも同様に優勝するという彼の言葉にもまた嘘はなかった」


 リサの話を聞きながらナナは口の端を上げた。勝気な笑みだなとエリルは思った。


「だから気になった。魔法が使えないのにあれほどの自信を持てる理由がなんなのか。」


「なるほどね。まぁ、だいたいあたしと同じ理由ね。あたしはさらに

こいつがリピローグと何らかの由縁がある、ということも気になった。

力のない転校生が来たとなると普通は『アルバノス魔法騎士養成学園卒業という

経歴がほしい奴が権力に訴えて入学した』と解釈する。けど、リピローグは

アルバノスを代表する貴族。そんなことをするとは考えにくい」

なにより、エリルの表情には一切の後ろめたさがなかった。

彼女の表情は最高の騎士を見つめるような瞳だった。

という言葉は口には出さなかった。


「だから、まぁ私も興味が湧いたわけ。それに」


そこでナナは一度言葉を切り少し大きめの声で言った。


「三年間無敗記録、なんて黙ってみていられないからね。そこの男が実際の

ところ強い、強くないにかかわらずそいつと組めばあんたとも組める。

だからあたし、あんた、んでギルで三勝ストレート勝ちでいいかな、って

いうのもあってチーム結成を申し込みにきたってわけ」


あんたには悪いけどね、とナナがユウナギを見ながら言った。

ユウナギは気にしちゃいないというように小さく笑った。


「ったく、勝手に話を進めやがって。まぁ、でも俺もナナ同様あのやろうが

このまま無敗で卒業するってのはガマンならんからよ」


それまで黙っていた男子生徒が会話に割って入ってきた。


「俺はギルバルト・ゴウ・オーゼル。ランクはCだ。不満か?」


 男はユウナギに向かっていった。


「いや。ランクの話を持ち出すなら俺は測定不能ランクだ。俺に比べれば

マシだろ。それに、ランクが力の強さをそのまま反映しているわけじゃない」


 ユウナギは自信に満ちた目で言った。その目は『このおれのようにな』と言っているようだった。

 その言葉にギルバルトは大きく目を見開きそしてハハハハと大声で笑った。


「なるほど。こいつぁおもしれぇ。お前の自己紹介のときはちょうど昼寝の時間と

重なってたからナナから『面白い奴』がきたって聞いただけでな。」

(なるほど。リサだけじゃなく氷の娘も興味が湧くわけだ。俺も興味が湧いた

くらいだからな。もしかしたら、本当にあるかもしれねぇな、優勝)


「えーっと。じゃぁ、チーム結成ですね」


エリルはメンバー一人ひとりを見ながら言った。

エリルは素直に驚いていた。なぜか。それは二学年最強の話題に

必ず名の挙がる『三名』の生徒が全員チームにいたから。


『水流』のエリル。

『氷結』のリサ。

『炎剣』のナナ。


 生徒会長チームに対抗できるチームがあるとすればこの三人が組んだチームだと

言われていた。じゃぁ組めよ、と簡単に話はいかない。そもそも三人の間には

面識という面識がなかった。そして三人とも貴族の娘。自分から

『チームを組みたいから入ってくれ』とはいえない。プライドが許さない。

 貴族は申し出を受ける側であって申し込む側ではないのだ。しかし。

『ユウナギ』という異分子の存在がそれを可能にした。

 ユウナギを見て思う。彼は、人を無意識に惹きつけてしまう何かを持っているのだ、と。


「じゃぁさくっと順番を決めましょうか」


 エリルが皆に向かって言う。

 順番は試合ごとに変えることができるがおおよその順番をあらかじめ決めておく

必要はある。


「まぁ、普通ならあたしかリサ、エリルの誰かが大将を務めるところなんだろうけど」


 ナナの言葉におい、俺は!というギルの発言は『あんたはまぁ、ほらちょっと特殊じゃん』という言葉にかき消された。


「けどまぁ、今のこの状況で大将に一番適任なのは……」

ナナが俺を見つめてきた。


「ユウナギ様。大将を任せてもよろしいでしょうか?」

 続いてエリル。


「それが一番妥当」

 静にリサ。


 エリルの話を聞いている限り女三人はめちゃくちゃ強そうだ。

 ギルバルトとかいうがたいのいい男も強そうだし、これ、大将務めたら

俺の番まで回ってこずに優勝しちまったりしないだろうな。

 あれだけでかいこと言って俺が戦わずに優勝、ってのはちょっと格好がつかない。

 まぁそれはそれで楽だからいいんだが。


「問題ない。」


 というしかないだろ。

「先鋒、次峰、中堅をあたし達で適当にこなして、副将はギルでいいわね。」


「そうですね。それで行きましょう」


 話は決まったようだ。


「でもまぁ、あたし達が中堅まで務めたらあいつらのチームに当たるまでは

ストレート勝ちになりそうね」


 生徒会長戦、までというナナの言葉にひっかかりを覚えた。

 俺の微妙な表情の変化に気づいたナナは俺のほうを見ていった。


「このチームは間違いなく2学年最強チームよ。けれど向こうは

学園史上最強チームといわれてる。去年私はなんとか一勝したけど

かなりぎりぎりの戦いだった。どちらが勝ってもおかしくない戦いだったの。

生徒会長チーム相手に三勝ストレート勝ちは難しいわ。」


 ナナの真剣な表情に俺たちは押し黙った。学園史上最強、という言葉の重みを

かみ締めるように。


「三勝ストレート勝ちじゃなくてかまわん。」


 俺の言葉にみなの視線が集まるのを感じる。


「だから、俺まで回してくれ。」


 俺の言葉を聞いたみんなの表情が和らぐのを感じる。


「そうね。あたしたちにはとっておきの『大将』がいることだしね。」


「優勝しましょう!絶対に」


「全力で行く。」


「っへ、優勝間違いなしと言われてる奴らに一泡吹かせてやろうじゃねぇか!!」


歴史は静かに、されど大きく動きだそうとしている。



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