八話 『種明かし』
「ユウナギ様!」
武器屋を出た後服屋へと向かう途中隣を歩いていたエリルが質問してきた。
ちなみに服屋に向かっているのは『コート』を見繕うためだそうだ。
確かにこの国は日本よりも平均気温が低いのか日がすでに空に昇っているにも
かかわらず少し肌寒い。(俺の服装は学ランだ。この世界の服装は、中世風の
もので俺の服装はかなり浮いている)
「ん?」
「そろそろ教えてください。どうして呪いのかかった『天』『地』を使いこなす
ことができたのですか?あれは『魔法』が込められれば必ず暴走を引き起こす呪い
の『魔銃』です」
エリルの言葉を最後まで聞き終えて思う。そこまで分かっているのなら
俺がこの魔銃を使いこなせた理由もわかりそうなものなのにな、と。
だがエリルが気づかないのはおそらく……
「エリル、この世界の人間は魔法、いや魔力をみんな持ってるんだろう?」
「はい。保持魔力に差はありますが少なからず魔力を宿しています」
その魔力をもとに魔法を使えるかどうかは別にして、とエリルは付け加える。
やはりか。それが当たり前だから、不思議がるんだろうな。
「俺がこの銃を使いこなせる理由は、俺が『魔法』を使っていないからだ」
俺の言葉に対してエリルはすぐに返事をよこさなかった。
返事の代わりに首を何度も傾げている。
「えっと、え、じゃぁ、え?あの……」
完全に頭がこんがらがっているようだ。
「まぁ、そもそも根本的なこととして俺は『魔力』を持っていない」
「ええ!?いや……そんなはずは……でも……」
エリルは手を頭に当てて考え込んでいる。まぁ、そりゃ戸惑うよな。
俺もお前らが当然のように魔法を使う現実に表にはあまり出さなかった(つもり)が内心めちゃくちゃびっくりしたくらいだから。
「では、ユウナギ様が銃から打ち出しているのは魔法の弾ではない、のですか?」
「ああ。通じないとは思うがあれは『超能力』というものだ。俺はその力で
空気を球状に圧縮して銃から打ち出している。圧縮された弾は『空気以外の物質』
に触れた瞬間拡散し衝撃波を生む」
人智を超えた力だから『超能力』って言ったが、正直俺にもよくわからん。生まれた頃から
使えた力だし、『俺の一番の友達』っていう表現のほうがしっくりくる。ほら、『ボールは友達』
って言葉があるようにさ。
バルノとかいう騎士が放った炎でできた龍にもあたったから魔法にもあたることは実証済みだ。
「ちょうのうりょく……そんなものがあるのですね。でも、きっとユウナギ様
が言うのだからそうなのでしょう!!!」
いや、どんな理屈だ、それ。俺が真理みたいになってんぞ。まぁ、悪い気はしないがよ。
「ですが今の話をもとにして考えるとユウナギ様のランクはどうなるのでしょう」
「ランク?」
「はい。学園に入学した生徒は最初に適正を試されます。主に魔力量と
魔法行使能力です。それに学院以外でも例えば『ギルド』に所属する際には学院と同じような試験を受け、ランク付されます。このランク測定法からすると……」
なるほど。魔力量に関してはゼロ。魔法行使能力とやらに関しても魔力が
ないのだから話にならない。
「どうなる?」
「おそらく測定不能ランク扱いかと。通常ランクはA~Eランクに分類されます。」
ちなみに私はAランクです!とちょっと胸を張ってエリルが言う。ちなみに胸は
お世辞にもあまり大きいほうではない。
「ふむ。まぁ、ランクなんて別に俺は気にしない。」
力強くいい放った俺の言葉に対してエリルは俺の予想した表情とは逆、曇った
表情をした。なんだ、ランクってそんなに大事なのか。。?やっぱり貴族は
そういう見栄には気を遣うのか。
「ユウナギ様が気にしない、というのであれば問題ありません。私はこの目で
ユウナギ様の傑出した力を見ているので、力に合わぬ評価を受けていても、
百歩譲って納得できます。しかし、」
なるほど、他の生徒はそうはいかない、ということか。きっとエリルは
測定不能ランクを背負わされる俺の身を案じてくれているのだろう。
魔法を学ぶ学園というくらいなのだから当然生徒間での見栄の張り合いもあるだろう。(そもそも魔法を学ぶ学園に魔法を全く使えない俺が通う、というのは
非常におかしな話ではあるのだが……。)
「まぁ、なんとかなるだろ」
「そうですね!今から心配していても始まりません!」
エリルは曇った表情から先ほどのように笑顔に変わる。
「ああ。お前は何も心配しないでいい」
「はい!では少し急ぎましょう!時間が少々押しています」
そういってエリルは早足になる。
エリルを追いながら思う。
俺としても他人に馬鹿にされるのは決していい気持ちはしない。
絶妙のタイミングで俺の力を見せる必要があるな。
相手も選ばなければならない。加減をしても圧縮された空気が
拡散する際に生じる衝撃波の力は生身で受ければ四肢が吹き飛ぶレベルだ。
その後俺とエリルはこれまた大きな服屋で黒を基調とした裾が膝まで
あるコートを買った。かなり高級そうだった。いつか返さないといけないんだよな。
銃はただでもらったからいいとしてもエリルの奴、店員に金貨を10枚は
出していたぞ。この世界での金貨の価値は知らないが、相当な価値があるであろう
ことは分かる。勘で。
コートはその場で着ることにした。うむ、凄くフィットしている。
先ほどまで感じていた肌寒さも感じない。
エリルの説明によるとこのコートには魔法が施されていて着用者が
適温と感じる体温に保つ効果があるらしい。優れものだ。科学じゃまだ
ここまで到達できていない。
服屋をでて再びエリルと歩き始める。
「一応これで最低限のものは購入しました。まだまだ必要になってくるもの
もあると思いますがそのときはそのつど買い足していきましょう!」
学園で使う教材は制服と一緒に準備できているらしい。
「あ、ちなみにクラスは私と同じクラスです!」
おお、それはよかった。さすがに見知らぬ世界で回りが一人も知らない生徒
というのは心細すぎる。エリルがいれば心強い。
「どんなクラスなんだ?」
「そうですねー……他クラスに比べて貴族の子息が多いクラスです。
その影響か高い実力を持った生徒も多いです。」
ふむ。つまり優秀なクラス、というわけか。
始業式にも関わらずクラスが分かっている理由は終業式の次点で
来年度のクラスが発表されていたからだそうだ。
まぁ、貴族のつながりとかの関係上早いうちにわかっていたほうがいい、らしい。
エリル曰く。俺はその辺のことについての知識は皆無だ。
「そういやエリル、お前ランクAとか言ってたけどもしかして学園最強の生徒
だったりするのか?」
エリルは貴族出身だし十分にありえそうなことだ。
エリルは真剣な顔をして数秒ほど沈黙した後前を見つめて言った。
「いえ。私と同じ学年に私と同等、もしくはそれ以上の力を
持っている生徒が二名居ます」
二名って、それじゃぁエリルは学年のトップ3には入ってるってことか。
自分で言うくらいなのだから確かなことなのだろう。
思案顔をしている俺に向かってエリルはにこやかに言った。
「ユウナギ様の実力は間違いなくトップクラスです。ですが一つだけ言っておく
とすれば、『生徒会長』にはご注意ください。学園最強の生徒、という話題は
しばしば生徒の間であがりますがその際にもっとも名が挙がるのが生徒会長
『ユーナ・ラン・クリスタル』。すでに魔法騎士団から誘いを受けている
という話も聞きます。」
ふむ。要注意人物か。ユーナ・ラン・クリスタル。相手にとって不足は
なさそうだな。
「彼女は一年生の頃から『最強』といわれてきました。公式の勝負において
負けたことはありません。」
公式……?なんだ。模擬戦みたいなのがあるのか?
「お前でも勝てないのか?」
「……。昨年私は彼女に負けています。」
「え?」
まじか。敵国の兵士を圧倒したエリルよりも強いのか。
「といっても実際に手合わせしたわけではありません。
ユウナギ様はご存知ないことだと思うので説明しておきます。
一年に一度、年始に『魔法模擬戦』と呼ばれる伝統行事が行われます。」
ふむ。魔法と名前がつくくらいだから魔法を用いて戦うんだろうな。
「模擬戦は五人一組でトーナメント戦です。」
チーム戦か。こりゃ厄介だな。俺、エリルのほかに知り合いいないし
組めるのか……?
「昨年私のチームは三回戦で生徒会長率いるチームに当たりました。
結果は三敗。ストレート負けで敗退です。」
なるほど。五人一組で三勝したチームが勝ち、というオーソドックスなルールか。
「一年生は基本的に入学したてということもあり教師がバランスよくチームを
組みます。私のチームは私を含めランクAの生徒が三人。ランクBの生徒が
二人とランクで言えば決して弱いチームというわけではなく、むしろ
一年生最強のチームの一つと目されていました。しかし結果はストレート負け。
それも一試合に1分もかからない、というような試合内容です。」
ストレート負けか。たぶんエリルはチームの大将として五試合目
を引き受けていたのだろう。作戦としてはランクAの生徒が出場する
1試合目と2試合目で勝利し続く3試合目と4試合目で敗北、まぁここで
勝てればもうけもの程度だろう。そして2-2で大将戦。
「昨年生徒会長は模擬戦において一度も勝負をしていません。つまり、
生徒会長のチームは大将戦まで回ることなく勝利を納めているということです」
生徒会長以外のチームの生徒もめちゃくちゃ強いってことか。
「今年の模擬戦も優勝最有力候補としてあがっています」
「話を聞いてたらめちゃくちゃ強そうだな。そんなチームに勝てるチームなんて
あるのか?」
「可能性の話をするのであれば、生徒会長チームに勝てる可能性はあります。」
(あの二人がチームに入ってくれればストレート負けはなくなるはず。
何より今回はユウナギ様がいる。でも、あの二人が入ってくれるのかどうか。。)
「まぁ、俺は別にめちゃくちゃ勝ちたいってわけでもないし。気楽にいかせて
もらうぜ」
(いや、ユウナギ様の力に大いに期待しているのです!気楽にいかれては……)
ん、なんだ、エリルの奴、なにやら複雑な顔をして考え事をしている。
「どうした?」
「え……いえ。すみません、ちょっと考えごとをしていました。」
学園の生徒としていろいろと生徒会長には思うことがあるのかもしれない。
その後俺たちはあまり会話らしい会話をすることなく学園へと向かった。




