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6 夫を躾直します。早寝をさせましょう。



 一度気になりだすと、どうしても気になってしまうものですよね。夫はいったいいつ寝ているんでしょうか?


 というわけで、私は連日夫の様子を観察しています。

 晩御飯を食べて、晩酌して。

 お風呂に入った後は、本を読んでいたり、何か書き物をしていたり、用途不明の道具の手入れをしていたり、時々ふらっと外へ出てみたりしているようです。


 夜もだいぶ更けているというのに、寝ようとする気配がありません。


 今夜という今夜は夫が寝るまで絶対に寝ないぞ! という気構えでいたのですが、快眠人間の私は、反面、眠気に非常に弱いという一面も持ち合わせていました。

 別に我慢できないわけではないのですが、睡眠欲を満足させられないと欲求不満がたまってくるというか、なんというか、要するに、機嫌が悪くなってしまうのです。

 普段は気にならないようなことにもむっとしてしまったり、感情の起伏が激しくなって泣きたくなったり、笑いたくなったり。自分でもよくない弱点だと思っているのですが、寝てさえいれば弱点が顔を出すこともないので、すっかり忘れていました。


 夫を奥側で寝かせるという使命に燃えて始めたはずが、いつの間にか意地になっていたのかもしれません。朝はいつも通りの時間に起きていますので、連日の睡眠不足が蓄積されていって、ついにその夜、爆発してしまいました。


 もう我慢できません。

 『夜更かし夫の早寝計画』、発動です!


 夫はいつもの通り、何に使うのか謎の道具の手入れをしたあと、何が書かれているのか謎の本を読んでいました。夫の本は異国の言葉で書かれているものが多く、せっかく本棚に本が並んでいるのに、私には全く読めません。そのことも不満を募らせる要因になったのかもしれないのですが、私はそれまでちくちく縫っていた小物を置いて、夫が座るソファに腰掛けました。


「旦那さま」


 呼びかけても、本から視線は外れません。なんか、むかつきます。


「旦那さまっ」


 ちょっと強めの口調で呼んでも、全く動じません。なんですか、この泰然自若っぷり。というか、呼びかけているんだから、せめて返事くらいしましょうよ。最近は会話が成り立つようになってきたので、無視されると余計に痛いです。


「だーんーなーさーまっ!」


 本を持つ腕に手をかけてゆさゆさ揺さぶりながら呼ぶと、ようやくこちらに意識を向けてくれました。


「寝ないんですか?」


 油断するとまた本に視線が行きそうになるので、身を乗り出すようにしてその視線の先を邪魔しました。何しろ、ものすごく眠い。でも夫を先に眠らせたい。とにかく眠い。

 せめぎ合う欲求の板挟み状態になってしまっていて、私もかなりおかしな状況になっていました。


 夫が読みかけの本を軽く持ち上げて、本を読んでから、というような動作をしました。長い事会話のない生活を送っていたせいか、こういった動作から夫の言いたいことをくみ取るのには自信があります。

 ・・・今開いてるのって、半分も行っていないですよね? いったい、いつ寝る気なんですか。


「ダメです。寝ましょう」


 夫から本を没収しようと手を伸ばすと、ひょい、と逃げられました。むかっ。私から逃げるとは、いい度胸です。さらに反対の手を伸ばすと、今度はちょうど届かない頭上へ。思わず膝立ちになって夫の肩に手をかけて伸びあがると、いきなり夫が立ち上がりました。


 落ちるっ!? 


 衝撃を覚悟して目をつぶりましたが、全然痛くなりません。そっと目を開けると、私を抱えたままの夫が寝室のドアを開けるところでした。そのまま寝床の奥側まで運ばれ、寝具をかけられます。ああ、やっと寝れる・・・って、そうじゃないでしょ、私!?


「ダメです。旦那さまが先に寝るんです」

「なぜ」


 何度も言いいますが、このときの私は眠気でおかしくなっていたんだと思います。

 夫が会話をしてくれたのを嬉しく思いながらも、寝ようとしない夫に腹を立ててもいました。寝具の隙間から手を伸ばして夫の服を握り、力任せに引っ張りましたが夫の体はびくともしません。

 もうっ、眠いのに!


「旦那さまが奥側です、旦那さまが寝るところを見るんです」

「・・・わかった」


 ため息のような返答があってすぐに夫が寝具ごと私を外側に移動させると、奥側に横になって目を閉じました。寝具を独占しているわけにもいかないので、半分夫にかけてあげると、規則正しい寝息が聞こえてきます。

 なんだ、やっぱり夫も眠かったんですね。

 夫が奥で先に寝たことに満足して、私も目を閉じました。


 それにしても、夫と会話が成り立つようになってから、どうも私はワガママになってきているのかも知れません。今夜のは完全に八つ当たりですよね。反省です。

 でも、未来の奥様とのことを考えてみればこれも良い経験になったかも知れません。それに妻の癇癪にも冷静に対応できるだけの懐の深さがあることが分かったのは、私にとっても良いことでした。心配がひとつ減りましたから。


 とにかく、夫の早寝計画は、これにて終了といたしましょう。そうでないと、私の方が睡眠不足で大変なことになる気がしますし。

 明日は、夫への謝罪を込めてゆっくり寝かせてあげて、焼きたてのほかほかパンを用意することにしました。どうやら夫は焼きたてパンが好みのようですから、心を込めて焼き上げてみせましょう!


 翌朝。

 ・・・寝坊しました。




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